教育情報

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学校多忙化の改善
2012.04.09
教育情報 <日文の教育情報 No.113>
学校多忙化の改善
東京女子体育大学名誉教授 言語教育文化研究所代表理事 尾木 和英

■ 課題となっている多忙化

 外部評価委員として学校に寄せていただいた折、何人もの校長先生から、多忙化が大きな問題となっているという話を伺った。
 学校教育の効果的な展開は教職員の積極的な職務遂行に支えられている。
 教員の多忙化によって児童・生徒に向きあう時間が減少し、さらにメンタルヘルスに問題を抱える教員がいるとすればそれは学校運営上重大なこととして捉えられる必要がある。
 「多忙化」の実態は学校規模や学校の抱える課題等によって一様ではない。また、「メンタルヘルス」に関してもケースによって対応は異なる。年度始めには、自校の実態に即して、そうした事態を予防するという観点と具体的な問題への対応という観点の両面から、教員の多忙化の改善と職場の人間関係に対する配慮を中心に、適切に対応しなくてはならない。

■ なぜ事態が深刻化するか

 教育課題の多様化、子どもの指導上の問題や保護者等との対応等によってストレスを蓄積する場合が多くなっている。その実態をまず確かに把握する。そして、事態が深刻化するのは、多くは勤務条件や職場の人間関係などから、特定の教員が孤立化し精神的にダメージを受ける場合であることを認識することが大切になっている。
 管理職としては課題解決に向けての学校経営上の工夫や、多忙化・多忙感解消に機能する校内体制づくりに関して確かな経営方略を持つことが求められる。
 多忙化解消のために、会議・打ち合わせ、事務・報告書作成、あるいは学校運営にかかわる業務、子どもの指導、家庭・地域への対応等に関し、どこに問題があるかを見直すことから改善に手をつけたい。定例あるいは慣行だからということで惰性的に行われている内容もないとはいえない。校内指導体制や校務分掌の適正化、事務の合理化、情報機器の導入などによって改善を図ることの可能な内容もある。全教職員が自分たちの手で指導組織の改善に取組む協働の意識を大切にし、生き生きとした学校、職場をつくることを重視したい。
 そのためにも、すべての教職員が自分の考えや疑問、個人的な悩みなどについて管理職と自由に話し合える機会を工夫するようにしたい。

■ 課題を抱える教員への対応

 メンタルヘルスに課題を抱える教員に対しては、ケースに応じた適切な対応が重要になる。何となく忙しそうだ、忙しいことを訴える教員がいることは確か、といった漠然とした把握では効果的な対応に結びつきにくい。多忙の実体、メンタルヘルスに関する問題の主たる原因がどこにあるのか、緊急課題は何か。踏み込んだ実態把握が重要である。教員によっては、自分の深刻な事態に気付きながら、職場に迷惑をかけたくないという意識からなおがんばろうとしていることがある。基本的には、そのような教員の立場を共感的に理解して原因の除去に努め、本人との相談を大切にし回復を図る。
 必要に応じて関係機関・専門医等との協力関係をつくり、教育委員会との十分な連携のもと、場合によっては指導改善研修、仕事の軽減や休養・加療を含め、そのケースに応じる最善の対応を行う必要がある。
 改善の決め手になるのは、できるだけ仕事の集中を避けることと同時に、その職務が徒労感に結びつくことのないような指導体制・人間関係を築くということである。集中を改善する校務分掌に留意すると同時に、教務主任、生徒指導主任等、ある程度集中することがやむをえない場合も、その仕事を協働で進める組織の確立を目指すことが大切である。

■ やり甲斐の感じられる職場づくり

 特に多忙化への取組で視野に入れたいことは、教員が抱く「多忙感」への対応である。多忙化を検討していくと、特定の教員へ仕事が集中している実態がある場合と、特に仕事の集中はないけれども、強い多忙感を抱いていてそれが職務に影響を及ぼしている場合のあることに気付かされる。多忙感には主観に委ねられる部分が含まれる。同量の作業に取組んだとして、その仕事に負担を感じるか意義を感じるかによって、受け止めが大きく変わるからである。
 教員は対児童・生徒、対保護者、対同僚という複雑な人間関係の中で職務に取組んでいる。それだけにその人間関係のどこかにゆがみが生じ、そこに職務に対する徒労感が加わると問題が生じやすい。
 学校運営、指導組織の合理化、適正化を図り、教員が「多忙感」をうむことのない健全な学校づくり、協働を支える職場の健全な人間関係づくりが、いま重要な学校経営の課題になっている。

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