教育情報

教育情報

中教審答申と教育委員会
2012.09.11
教育情報 <日文の教育情報 No.117>
中教審答申と教育委員会
兵庫教育大学大学院教授 日渡 円

■ 教員の資質能力向上

 さる6月末に、中央教育審議会教員の資質能力向上特別部会は「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」の審議の最終まとめの報告を行った。
 グローバル化や情報化等、社会の急激な変化に伴い、高度化・複雑化する諸課題に対し、学校教育において求められる人材像の変化への対応が必要として、新たな学びを支える教員の養成と、学び続ける教員像の確立をめざしている。そのために、教育委員会と大学との連携・協働により、教職生活全体を通じて学び続ける教員を継続的に支援するための一体的な改革を行う必要性があるとしている。
 今回の大きな特徴は、従来の大学における教員養成の在り方に留まらず、採用以後直接的な責任を持つ教育委員会の在り方についても言及しているところにある。

■ 教員養成・教員免許状の改革

 教員養成の改革の方向性としては、教員養成を修士レベル化し、教員を高度専門職職業人として明確に位置付けることとしているが、アジアにおいても韓国やタイにおいて多くの教員が修士を取得していることを始め海外の多くの国において、教員の修士化が進んでいる現状がある。
 この教員養成の修士化は、教員免許制度の改革の方向性として、学部4年で取得する免許、「基礎免許状(仮称)」の創設と、1年から2年程度の修士レベル課程での学修を標準として取得する免許、「一般免許状(仮称)」の創設からなる。
 さらに、特筆すべきは「専門免許状(仮称)」の創設である。これは学校経営、生徒指導、進路指導、教科指導、特別支援教育等、特定分野に関し高い専門性を持つことに対する免許状であり、学位取得とはつなげず、いわゆる研修等で取得することとされている。

■ 教育委員会・学校と大学の連携・協働による高度化

 さて、教職生活の全体を通じて教員の資質能力に直接的な責任を持つ教育委員会についてであるが、その主な内容は採用と研修である。教員の採用については教員の資格取得者と採用数にあまり差のなかった時代では、教員の資質能力の責任の多くは養成側にあったが、10数万の教員免許取得者が毎年大学を卒業し、うち2万~3万の教員採用が行われる現在では、教員の資質の問題は採用時点でも教育委員会側にあると言わざるを得ない。受験者の身につけた資質能力を採用者側が適切に評価するための手法の開発や、大学での学習状況や実習の状況について採用選考の際に評価する方法の検討などが急がれる。また、採用年齢の撤廃や、年齢構成上少ない年齢層の積極的な採用など工夫できるところは多くあると思われる。
 また、研修においては、教育委員会と大学との連携・協働による現職研修のプログラム化・単位化や、講習の質向上など教員免許制度更新制の見直しも必要となる。管理職段階における研修では、マネジメント力を身に付けるための管理職としての職能開発のシステム化を推進する必要がある。
 いずれにしても、採用を境に養成までは大学、採用後は教育委員会という垣根をなくし、教育委員会と大学が連携・協働し全体として教員の資質能力の向上を図る必要がある。そのためには、修士化においては、大学での学びだけでなく、教育委員会の行う研修、将来的には校内研修も視野に入れて、関係機関全体で教員の修士化を目指したプログラムを完成させ、部分的には研修センターでの講座受講や、校内研修の特定の内容も一般免許状や専門免許状の取得単位の一部として認定を可能とすることも必要となるだろう。

■ 教育行政幹部(教育長)育成

 これらのことに伴い、教育委員会の機能や責任は従来とは違った面も出てくるだろう。そのために、兵庫教育大学では、「教育行政能力育成カリキュラム開発室」を新しく設置し、教育行政幹部職員に必要な能力の同定とその能力開発プログラムを目的とした研究に着手したところである。その際参考となるのが、米国の教育大学院(スクール・オブ・エデュケーション)において行われている、学校管理者や行政担当者を対象としたEd.D(博士レベル)を授与するコース等である。

日文の教育情報ロゴ