教育情報

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なぜ、学校を開かねばならないか
2012.10.04
教育情報 <日文の教育情報 No.118>
なぜ、学校を開かねばならないか
千葉大学 明石 要一

開かれた学校の効用

 学校開放は早くから指摘されている。学校だけで教育を自己完結する時代ではない。学校と地域がお互いにパートナーシップを持ちながら教育をすすめる時代に突入している。
 しかし、この学社連携は今ひとつ進んでいない。それはなぜか。学校と地域が連携することでどんなメリットがあるか、の実証的なデータの積み重ねが少ない。
 人々を動かすにはエビデンス(証拠)が必要である。観念では人は動かない。事実にまさるものはない。今回はうまくいっている数少ない学社連携の事例を紹介する。

1)被災地での学校支援地域本部の役割

 3・11の大震災で得た教訓の一つが地域の教育力の育成である。これまでの地域ネットワークづくりが効果をもたらしたケースである。宮城県の仮設住宅での話である。
 避難で混乱した状況の中では当然かもしれないが様々な苦情が行政に向けられたそうである。その中で、比較的苦情が少なくみんなで協力し助け合った地域とそうでない地域があった、という。
 その違いはどこから生まれたのだろうか。社会教育主事の話では、学校支援地域本部を設置していたところでは苦情が少なかった、という。
 学校が日常的に開かれており、住民同士が顔見知りになっている。率直に話ができ気疲れが少ない。そして世話役のコーディネーターが人々の要望をくみ取り、行政に伝えていく。住民と行政の間のパイプが詰まっていない。
 学校支援地域本部で培われた人間的なネットワークが危機的な場面で、ギスギスした人間関係を緩和させた、というのである。

2)木更津市の学校支援ボランティアの10年間の成果

 木更津市は学校支援ボランティアを始めて14年がたつ。そして、全国的な規模でボランティア交流会を始めて9年となる。
 この市の特徴は小中学校31校全てで学校支援ボランティアを行っている、ということである。各学校にボランティア担当教師とコーディネーターがいる。ボランティアの登録人数は1800人を超えている。
 この木更津市の学校支援ボランティアはどんな教育的な効果をもたらしているのだろうか。市の教育委員会が平成14年度から平成23年度の10年間における小、中学生の規範意識の比較調査を行っている。
 規範意識では、例えば「髪の毛を染めて学校に行くことはやめた方がよい」や「まわりの仲間に悪いことをさそわれても絶対やらない」や「地面に座り込むことはやめた方がよい。迷惑だ」に対する肯定的な意見が、10年間で15%近く数値が伸びている。児童・生徒たちの規範意識が高まっている。
 その要因は何か。規範意識を高めている要因を見るとベストスリーは、次の項目である。 

・一位「よく話をする教師の数が多い」
・二位「読書数」
・三位「ボランティアの目撃体験」

 一人の教師だけとの関わりより、複数の教師の関わりが規範意識を高める。これは人間関係を深めるからであろう。
 読書も効果がある。これも納得ができそうである。興味深いのは、三位にあがってくるボランティアをする人や行動の目撃体験である。学校の中にボランティアの人が多く出入りし始めると、子どもたちの規範意識が高まるのである。これは貴重なデータである。
 ボランティアの人達は「第三の大人」である。子どもたちにとって見知らぬ人か知っていても直接的に関わらない人達である。
 親戚のいとこと同じ「ナナメの関係」である。学校社会は「タテとヨコ」の関係が強い。ナナメの関係であるちょっとした「外の目」を受け入れることで、子どもたちの中に善悪の価値判断が芽生えるようである。
 今の子どもたちが出会う大人は第一の大人といわれる親か、第二の大人といわれる教師が大半である。第一と第二の大人との関係はいうまでもなく「タテの関係」である。濃密だが、あるときはギスギスしかねない。ゆるやかな人間関係を維持するのが難しい。
 それに対して、ボランティアの人達の「目」は子どもたちにとってほどよいスタンスに映るのであろう。
 また、ボランティアの「目」は小学生より中学生の方がより効果的である。中学生にとって「第三の大人達」は彼らの行動を規制するのであろう。
 開かれた学校を一層進めるには、地域のネットワークづくりが欠かせない。それは多くの人の温かい「目」を用意することである。

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