高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

「道路と土手と塀(切通之写生)」 岸田劉生作
2009.09.01
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.003>
「道路と土手と塀(切通之写生)」 岸田劉生作
「高校美術1」P12、「美・創造へ1」P5掲載   東京国立近代美術館蔵

油彩/キャンヴァス/56×53cm/1915

油彩/キャンヴァス/56×53cm/1915

 風景画を見るときのポイントをお教えしましょう。(1)どこ? (2)季節はいつ? (3)画家の視点は? (4)風景と人はどのように結びつくか?
 わかりにくい? じゃあ、日本近代美術を代表するこの作品で確認していきましょう。
(1)タイトルに地名は入っていません。でも「写生」という言葉は、現実の風景を描いたことを意味しています。
 実際、現在の渋谷区代々木四丁目のものと判明しているのですが、それはあまり大事じゃありません。大事なのは、あくまでも、見てわかること。
 右手には造成された「土手」。左手には石とコンクリートとが混在した「塀」。そして中央には粗くならされた「道路」。すべて人工物です。ではそれらの素材はどうか? 土、草、石……自然物ですね。つまり、人工と自然との対比がここにはあります。もちろん、単に「対立」だけでなくって「共存」や「変転」もテーマになっています。
(2)影が濃いので夏のような気もしますが、花がないので冬だとも思えます。この絵が描かれたのは、右下に日付が書いてあるのですが11月上旬のこと。ちょっと意外ですが……そう、大事なのは(読んでではなくて)見てわかること。季節感のないこの絵において、季節は意図的に排除されているのです。「四季」や「花鳥風月」という約束事や叙情性に頼らずにどんな風景を描けるのか、それが劉生の考えだったと言えるのではないでしょうか。
(3)劉生は急な坂の下に立っていました。でも見上げるという感じはありませんね。土手や塀の上辺が少し下に向かって延びているからでしょう。しかも画家の眼差しは、すぐ手前の道路の土とそこに生えている草に焦点を合わせている。
 その焦点のきつさに目を上にやると、空があります。でも不思議。画面の中心に向かって明るいんです。「上に高い」のではなくて「奥に深い」空。ソラというよりカラですね。
(4)人工物と自然の対比の強調。季節感の排除。視点の不安定化。このようにして生まれた劉生の風景画を前にすると、観る人は、あることに気づくのではないでしょうか。そう、風景とは、私たちが見て意味づける以前から、そこに強く存在しているはずのものなのです。

(東京国立近代美術館 研究員 保坂 健二朗)

東京国立近代美術館ico_link

  • 所在地 東京都千代田区北の丸公園3-1
  • TEL 03-5777-8600(ハローダイヤル)
  • 休館日 月曜日(祝日または振替休日に当たる場合は開館し、翌日休館)、展示替期間、12月28日~2010年1月1日  ※ゴーギャン展の会期中(~2009年9月23日)は、9月21日(月・祝)は開館します

<展覧会情報>

  • 所蔵作品展「近代日本の美術」/「寝るひと・立つひと・もたれる人」
  • 6月13日(土)~9月23日(水・祝)開催

展覧会概要

  • 約9,800点から選びぬいた約170点を展示。20世紀はじめから今日までの日本近代美術の流れを、日本随一の質と規模で概観できる美術館です。斬新な視点による特集ではユニークな作品をご覧いただけます。

<次回展覧会予定>

  • 所蔵作品展「近代日本の美術」
  • 10月3日(土)~12月13日(日)開催