高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

「唐松造砂磨棚」 氷見晃堂作
2010.09.30
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.016>
「唐松造砂磨棚」 氷見晃堂作
「工芸Ⅰ」P.34掲載 石川県立美術館蔵

唐松/指物(技法?)棚(形状?)/59.3×33.9×69.8cm/1968 撮影=

カラマツ/高さ69.8㎝/1968

 唐松は古くから日本にあった木で、落葉松とも書き、秋に紅葉して葉が落ちる松です。木材としては他の木に比べて重くて堅く、木目が粗いため、美しさと正確さが大切な木工芸の作品に用いるのは難しいといわれています。しかし、作られたものは長い年月が経つと、木に含まれていた樹脂がしみ出て、木の肌は赤みがかった味わい深い美しい色になります。
 「唐松造砂磨棚(からまつづくりすなみがきだな)」は、江戸時代まで盛んに行われていた「砂磨き」という技法を用いた作品です。砂で木肌を磨くことで、柔らかい部分は削り取られてへこみ、硬い部分が浮き上がります。さらに、表面に半透明の漆を薄く塗っては拭き取る、という工程を何度も繰り返す「拭漆(ふきうるし)」によって仕上げています。
 これらの工程は時間と手間をかけて丁寧に行うことで、唐松が持つ粗い木目と色の美しさを引き出すことができます。また、生命力を感じさせる木目の曲線に合わせるように、棚の角をすべて丸く面取りしています。金具を黒色とし、引き出しなどのない観音開きのシンプルな形にしたことも、木目をよりよく見せるためでしょう。素材の持つ美しさを可能な限り引き出したいという、作者の思いが伝わってくるようです。
 この棚を作った氷見晃堂(ひみ・こうどう)は、昭和の時代に木工芸で人間国宝に認定された作家です。さまざまな木材に、その特性に合った技法を使い分け、たくさんのすばらしい作品を作りました。とりわけ、釘を使わずに木材を組み合わせて箱や棚などを作る「指物(さしもの)」を得意としていました。また晃堂は大変勉強熱心な作家であり、過去の優れた作品を研究し、生涯を通して技術を磨き続けました。この棚に用いられた「砂磨き」は、江戸時代が終わるころには行われなくなり、できる人もいなくなってしまった技法でした。しかし、これを惜しんだ晃堂は昔の作品を研究して何度も失敗を重ねた末、見事現代によみがえらせたのです。

(石川県立美術館 学芸員 寺川和子)

石川県立美術館ico_link

  • 所在地 石川県金沢市出羽町2-1
  • TEL 076-231-7580
  • 休館日展示替え期間中、年末年始

<展覧会情報>

  • 「加越能の美術 -縄文から江戸時代までの名宝-」
  • 2010年9月11日(土)~10月24日(日)

展覧会概要

  • 古来「加越能」と呼ばれた石川、富山ゆかりの、縄文時代から江戸時代までの、考古出土品や美術工芸品指定文化財約70点を含む150点を紹介し、その文化的な独自性を探ります。
    ※会期中、常設展(別途会場)で氷見晃堂の作品(桐造寄木象嵌之筥)が展示されます。

<次回展覧会予定>

  • 「加越能の美術 -明治から現代までの絵画・彫刻・工芸-」
    ※会期中、氷見晃堂の作品(大般若理趣分経之箱)が展示されます。
  • 2011年1月4日(火)~2月6日(日)

その他、詳細は石川県立美術館Webサイトico_linkでご覧ください。