高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

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「海鼠釉黒流描文大鉢」浜田庄司作
2011.03.01
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.021>
「海鼠釉黒流描文大鉢」浜田庄司作
「工芸Ⅰ」P.42掲載 京都国立近代美術館蔵

陶器/直径57㎝/1962

陶器/直径57㎝/1962

 陶芸の作品名は、長くて難しい漢字ばかりの名前でよくわからない?
 でもその名前には、形や素材、技法、描かれている文様など、作品を見る時の手がかりがたくさん隠されています。
 たとえばこの作品を見てみましょう。
 直径が60センチ近くもある大きな鉢です。作品名にある「海鼠釉(なまこゆう)」というのは、ナマコに似たまだらな色合いに仕上がる白く濁った釉薬(ゆうやく)のこと。その上には、柄杓(ひしゃく)を使って大胆に流し掛ける「流描(ながしがき)」という技法で、黒い釉薬が掛けられています。ゆっくり考えながら作ることができない一瞬の仕事ですが、浜田は大きな皿や鉢にこの技法を用いることを最も得意としていました。釉薬を掛けたときの勢いが、いきいきとした大らかな線になって器にそのまま表れていますね。
 「15秒プラス60年」、これは作家自身の有名な言葉です。15秒とは大きな器に釉薬を流し掛ける時間、そして60年は陶芸家としてのこれまでの経験や鍛錬のための長い歳月を意味しています。一見すると簡単にできそうに思えるかもしれませんが、釉薬を掛けるためのほんの短い15秒という時間は、そこにいたるまでの長い試行錯誤の積み重ねがあってこそ。「形は轆轤(ろくろ)に委(まか)せ、絵付けは筆に委せ、焼くのは窯に委せる」とも言った浜田の手には、頭で考えるよりももっと確かな無意識の経験が染みついているのです。
 ところで、このページを見た人はもう気づいているでしょう。そう、立体の陶芸作品は絵画などの平面作品に比べて、どんな形をしているかを写真から知ることがとても難しいのです。実物を見ると、写真で見るより複雑なデコボコがあったり、意外と平べったい作品だったり、写真では見えなかったところに面白い文様があったり、きっと新しい発見があります。ぜひ、美術館でいろいろな角度から作品とじっくり向き合ってみてください。

(京都国立近代美術館 研究員 中尾優衣)

■京都国立近代美術館ico_link

  • 所在地 京都市左京区岡崎円勝寺町
  • TEL 075-761-4111
  • 休館日 月曜日(祝日にあたる場合は翌火曜日)、コレクション展(常設展)展示替期間、年末年始

<展覧会情報>

  • 「パウル・クレー おわらないアトリエ」
  • 2011年3月12日(土)~5月15日(日)

展覧会概要

  • 油彩や水彩、糊絵具など、さまざまな素材を使って描かれたパウル・クレーの作品は、切って貼ったり、転写したり、裏に描いたりと、多彩な手法で創作されています。本展では、その制作プロセスに焦点をあててクレー芸術を紹介します。

<次回展覧会予定>

  • 「没後100年 青木繁展 よみがえる神話と芸術」
  • 2011年5月27日(金)~7月10日(日)

その他、詳細は京都国立近代美術館Webサイトico_linkでご覧ください。