高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

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(高等学校 美術/工芸)

「樹花鳥獣図屏風」 伊藤若冲作
2011.07.01
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.025>
「樹花鳥獣図屏風」 伊藤若冲作
「美・創造へ1」P.13掲載 静岡県立美術館蔵

紙本着色、六曲一双屏風より右隻/137.5×355.6cm/18世紀後半

紙本着色、六曲一双屏風より右隻/137.5×355.6cm/18世紀後半

 伊藤若冲(1716-1800)は、京の都の中心地に生を受け、文芸界が円熟期を迎えた江戸時代中期に独創性あふれる作品の数々を残した絵師です。近年とみに人気が高まり、時代を代表する絵師の一人として知られるようになりました。
 彼の作品の中でもとりわけ異彩を放つのが、この「樹花鳥獣図屏風」です。屏風の大画面を縦横約1cm四方のマス目で区画し、その一マスごとに色を塗り分けていくという途方もない描き方がなされています。方眼の数はおそらく10万個を超え、しかも小さなマス目の中に淡色から濃色への2~3色を重ねており、これだけの作品を仕上げるのにかかった手間ひま、根気を想像すると気が遠くなりそうです。無論これは伝統的な日本画の技法ではなく、若冲が独自に開発した描き方で、発想源として京都・西陣織の下絵である正絵(しょうえ)や、朝鮮の紙織画(ししょくが)などの存在が指摘されています。そこに描かれるのは、牡丹や果樹に囲まれた華やかかつ平和な異世界。身近な生き物から舶来のもの、空想上の霊獣(麒麟、唐獅子など)まで、多種多様な鳥獣が描き込まれ、当時の博物学的関心の高さをうかがわせます。
 最初は右隻の動物図が単独で発見され、縁あって静岡県立美術館のコレクションとなり、その11年後新たに左隻の鳥図が見出された際、本来ペアの屏風なのでは、との調査の末、いま見るような右隻左隻からなる一双屏風として扱われるようになったものです。
 伊藤若冲の、そして江戸時代の絵画の底知れぬ面白さ、豊かさを知らしめる特異な屏風絵。毎年ゴールデンウィークに展示しています。

(静岡県立美術館 主任学芸員 石上充代)

■静岡県立美術館ico_link

  • 所在地 静岡市駿河区谷田53-2
  • TEL 054-263-5755
  • 休館日 月曜日(ただし月曜日が祝日・振替休日の場合は開館し、翌日休館)、年末年始、その他展示替等のための休館日

<展覧会情報>

  • 「芸術の花開く都市展-パリ、ローマ、東京、京都。その都市でしか生まれない芸術-」
  • 2011年7月19日(火)~9月8日(木)

展覧会概要

  • すぐれた芸術を生み出した内外の都市や地域に注目。芸術家と地形や風土との関わりを探り出す。モネ、シスレー、マティスなど、ブリヂストン美術館から特別出品。

<次回展覧会予定>

  • 「京都国立博物館名品展 京都千年の美の系譜-祈りと風景」
  • 2011年10月22日(土)~12月4日(日)

その他、詳細は静岡県立美術館Webサイトico_linkでご覧ください。