小学校 道徳

小学校 道徳

自我関与を深める役割演技の工夫 “パネルシアターを活用して”(1)(第2学年)
2017.06.20
小学校 道徳 <No.005>
自我関与を深める役割演技の工夫 “パネルシアターを活用して”(1)(第2学年)
東京都北区立滝野川第二小学校教諭 中塩絵美

1.はじめに

 「特別の教科 道徳」の実施に向けて多様な実践が行われている。今回は教材提示の1つとして、パネルシアターを使った実践を報告したい。パネルシアターとは、不織布でできた紙の絵人形を操作して、フランネル布に張り付けて行う人形劇のことで、その絵人形の動きで様々な気持ちや様子を表すことができる。パネルシアターを使うことで、子どもたちは教材の世界に浸り、登場人物に感情移入することができる。
 パネルシアターを使ったことで、子どもたちは嬉しそうに目を生き生きさせて教材の世界に浸ることができた。
 きつねは、あえて表情を優しくすることにより,決してうさぎに意地悪しようとしたわけではなく、「つい自分のことしか考えられなかった。」「思いやりが足りなかった。」そういうことって誰にでもあるよね、ということに気付かせたかった。
 きつねの目を優しく表現しより感情移入しやすいように工夫すると、役割演技でパネルシアターを使った時も、「どんぐりあげたらよかったなぁ。」「うさぎさんは本当にやさしいね。ぼくは悪いことをした。ごめんね。」など、やさしい言葉かけとなり、よりねらいとする価値にせまることができた。授業後も、「きつねさん、かわいいね。ばいばーい。」「また会おうね。」など、きつねに対する同情や共感もみられた。
 うさぎの行為は尊いが、それと同様に、自分の過ちに気付き、行いを正すことができたきつねも尊い存在として扱い、ねらいとする価値にせまれると考えた。

2.主題名

困っているから助けたい  B[親切、思いやり]

3.資料名

「くりのみ」(出典:日本文教出版「新・生きる力」)

4.主題設定の理由

(1)ねらいとする価値について
 よりよい人間関係を築くためには、相手に対する思いやりの心をもち、親切にすることが基本姿勢として必要である。思いやりとは、相手の気持ちや立場を自分のこととして推し量り、相手に対して、よかれと思う気持ちを相手に向けることである。親切とは相手の気持ちを想像することを通して、励ましや援助をするなどの思いやりが行為となって表れたものである。
 自立した人間として、他者と共によりよく生きる児童を育てるためには、自分の考えや利益のみを優先するのではなく、相手の気持ちや置かれている状況を自分のこととして想像し、そのうえで相手にとってよかれと思う行為を選択する力を身に付けるとともに、自ら進んで親切な行為をしようとする心情を育てることが大切である。

(2)児童の実態
 2年生の児童は、友達と仲良くし、助け合うことをよいこととして認識しているが、相手の立場を考えて、相手のために行動すること、相手の喜びを自分の喜びとして受け入れることのよさに気が付いていない児童もいる。
 自分自身を振り返った時、うさぎのように困った人を助けた経験を思い起こすことのできる児童は多い。そのような親切な行為のよさや、そのような行動をとった自分自身のよさに気付くことができるだろう。一方で児童は、きつねのように身勝手な行動をとってしまうこともある。自分自身を多面的に捉えることで自己理解や人間理解を深め、思いやりの価値理解と実践意欲を高めたい。

(3)教材について
 本教材は寒い冬が近づき、食べ物を探しに出かけたきつねが、自分の蓄えとしてどんぐりを隠したが、うさぎはたった2つのくりのみのうち1つを差し出した。そのやさしさに触れたきつねがポロリと涙を流すという話である。場面設定からきつねの気持ちに共感し、餌が見つからないことは生死に関わることに気付かせたい。それでも友達を助けようとしたうさぎのやさしさやその行動の尊さにきつねは気が付き、我が身を振り返り、自分のことしか考えられなかったことを後悔するのである。
 この教材を通して、困った時はお互い様であり、それでも相手を思って行動できるか、自分自身を振り返ることを通して自己理解や人間理解を深め、道徳的実践意欲を高めたい。

5.学習指導過程

(1)本時のねらい
 きつねがうさぎからくりのみをもらって涙を流した気持ちを考え、相手の状況を推し量り、親切にしようとする道徳的実践意欲を養う。

(2)展開

主な発問と予想される
児童の反応

パネルシアター

※指導上の留意点


◆動物たちは冬になる前にどうしてると思いますか。
・冬眠する。
・寒いから食べるものがないのでじっとしている。

※寒い冬の前に、食べ物をたくさん食べたり、蓄えたりして冬に備える。

深める①

◆パネルシアター「くりのみ」を見て、話し合う。
○どんぐりを隠したきつねの気持ちを考える。
・これで安心だ。誰にも見つからないぞ。
・お腹いっぱい食べられて嬉しいな。

※きつねはいじわるなきもちではなく、自分のことでいっぱいだった。

○うさぎはどんな思いで2つしかないくりのみを、2つあげたのだろうか。
・きつねさんがかわいそうだなぁ。
・2つしか見つからなかったけど、1つあげよう。
・分けっこしよう。2つあってよかった。

※うさぎのとった行動には思いやりの気持ちがあった。

◎そのくりのみを見て涙を流したきつねは、どんな思いだったでしょう。
・やさしいなあ。ありがとう。
・どんぐりを隠してごめん。
・自分のことしか考えてなかった。

※うさぎのやさしさときつねのとった行動を対比させ、そのやさしさに気が付いたきつねの気持ちに共感させ、役割演技を行う。

深める②

◆自分自身を振り返って考える。
○うさぎのように、困っている人に親切にすることは簡単だと思いますか。難しいことだと思いますか。その理由も考えよう。

※実際親切にすることは自分にとって簡単か難しいか、その理由も合わせて考える。ワークシートに記入する。
※話合い活動を通してお互いの考え方の違いから、人間理解を深め、親切にすることの大切さや難しさに気付く。

終末

◆教師の説話を聞く。

「自分の子どもを自転車で保育園に預けて仕事に行こうと思っていたら、保育園に向かう途中で自転車がパンクしてしまった。仕事に向かえなくなりとても困っていたらその保育園の先生が、自分の自転車を貸してくれた。仕事が終わり子どもを迎えに行くと、私の自転車のパンクも直しておいてくれて、その優しさに感激した。いつか自分も困っている人にやさしくしたいと思った。」

※親切な行為は、相手が困っていることを他人事にせず、親身になって寄り添って考えた結果の行動であることが分かるような説話がよい。

(3)評価
○きつねが涙を流す気持ちを通して、相手を思う行動について考えることができたか。(中心発問)
○自分自身を振り返り、困っている人に優しくすることのよさや難しさに気付き、価値理解と人間理解を深めることができたか。(展開後段)

(4)板書

6.授業を終えた感想

 低学年児童にとっては、親切にしてあげることや、やさしくしてもらうことは、身近なことで、当たり前のことだと感じた。自分の示したやさしさや、親切にしてもらった時の嬉しさを思い起こすことで、人と人の繋がりの温かさや、そのよさに気が付くことができた。本授業では、「自分も大変な時に、人に親切にすることの難しさ」という一つ上の段階の親切や思いやりの価値について気付かせたかった。「うさぎさん、やさしいなぁ」と感じながら涙を流すきつねの気持ちに触れることで、その難しさや尊さに気付くことができた。

 

※次回は、「自我関与を深める役割演技の工夫 “パネルシアターを活用して”(2)」として、「パネルシアター授業実況」を掲載します。