小学校 道徳

小学校 道徳

「一人一人が自分を語れる」道徳の授業を目指して(第3学年)
2017.07.12
小学校 道徳 <No.008>
「一人一人が自分を語れる」道徳の授業を目指して(第3学年)
東京都町田市立町田第四小学校教諭 橋本結

はじめに

 私が道徳の授業でいつも目指しているのは、子どもたち一人一人が「自分を語れる授業」である。そのために、特に展開前段に力を入れている。前段でいかに道徳の内容項目に迫れるか。児童が物語の世界に入り込めるような教材提示、登場人物に照らして思わず自分自身のことを語ってしまうような発問、みんなの考えが見える板書等、様々な工夫をします。これらで前段がうまく運べば、後段とスムーズにつなぐことで振り返りも必ず充実したものになると考えている。

授業実践

1.主題名 つながる命  D[生命の尊さ]

2.教材名 「いのちのまつり ヌチヌグスージ」(出典:サンマーク出版)

3.指導の工夫
(1)教材提示
 登場人物のイラストを用いて、黒板シアターによる教材提示を行う。全員が教材の内容を正しく理解できるように、登場人物によって声色や体の向きを変えながら読む。また、間を取りながらゆっくりと範読する。
(2)BGMの活用
 児童がワークシートに記述をする間中、小さな音量で沖縄の音楽を流しておく。ワークシートの記述は、児童によって書き終わる時間に差がある。BGMを流しておくことで、早く書き終わった児童も教材の余韻に浸りながら待つことができる。なお、早く書き終わった児童は近くの友達と静かに意見交流をしてよいと話している。
 普段は教材提示にBGMを流すことが多いが、BGMと範読が合っていないと効果が得られにくく、毎回の授業で活用することは難しい。今回の教材提示では、授業者が黒板シアターの操作に集中したかったため、BGMの使用は控えた。
(3)説話
 主題、ねらい、教材に合った教師の経験がある場合は、説話が非常に効果的であると考えている。今回は授業者が、子供の誕生、義母の死を通じて、主人公のコウちゃんと同じように命のつながりを感じた経験を話す。

4.本時
(1)本時のねらい
 先祖の数を数え、命のつながりに感謝するコウちゃんの気持ちを考え、生命は過去からつながっていることに気付き、自分の命や人の命を大切にしようとする道徳的心情を育てる。
(2)展開

学習活動

○教師の働きかけ、主な発問
・予想される児童の反応

指導上の留意点

1 沖縄のお墓の写真を見る。

○写真のものは何だと思いますか。
・石 ・家 ・お墓

・沖縄のお墓の写真を提示し、教材への導入を図る。

2 「いのちのまつり ヌチヌグスージ」を読んで話し合う。

○教材提示

☆黒板シアターによる教材提示。十分に間を取りながらゆっくりと範読する。

(1)「ぼうやに命をくれた人はだれ?」と聞かれたと き、コウちゃんはどんなことを考えたでしょう。
・お父さんとお母さん?
・数えきれないよ。
・たくさんの人がぼくに命をくれたんだ。

・コウちゃんが命のつながりを意識し始めていることを捉えさせる。

(2)「ぼくの命ってすごいんだね」と言ったとき、コウちゃんはどんなことを考えたでしょう。
・たくさんの人のおかげでぼくが生まれた。
・ご先祖様の誰か一人が欠けても、ぼくはいなかった。
・ぼくの命は、たくさんの命とつながっている。
・ぼくの命は、ぼくだけの命ではないんだ。

・命のつながりに感動するコウちゃんに共感させる。

(3)「いのちをありがとう」と言ったコウちゃんの気持ちは,どうだったでしょう。
・ぼくに命をくれてありがとう。
・たくさんの人にもらった命を大切にしよう。
・ぼくも命をつないでいくぞ。

・命のつながりに感謝するコウちゃんの気持ちに共感させる。
・命のつながりへの気付きを通して、命の大切さを感じたコウちゃんの気持ちを捉えさせる。
☆ワークシートに記入する。

3 自分の生活や経験を振り返る。

○「命」について考えたことを発表しましょう。どんなときにどんなことを考えましたか。

4 教師の説話を聞く。

○「先生も『いのちをありがとう』と思ったことがあります。」

・児童が生命の「連続性」についての考えを深められるようにする。

(3)評価
・命のつながりに気付き、感動するコウちゃんに共感し、自分の命や人の命を大切にしようとする気持ちをもつことができたか。
・指導の工夫を通して、児童が「命のつながり」に関する自分の考えを深めることができたか。
(4)板書計画

5.考察
○中心発問「『いのちをありがとう』と言ったときのコウちゃんの気持ちはどうだったでしょう。」で用いたワークシート記述の一部を紹介する。

・コウちゃんの命はきれい。なぜかというとずーっと続く楽しいものだから。
・命を大切にしないとご先祖様が悲しむから、大切にしよう。
・命が一つしかないから、自分の命を守ると私は思いました。
・ご先祖様の命もぼくの命も一つしかないから、大切にする。
・命は一つしかないから、お父さんやお母さんはぼくの命を大切にしてくれたんだった。
・命をくれてありがとう。ぼくも結婚したら大事な可愛い子供を育てるね。
・産んでくれてありがとう。
・ぼく、生まれてきてよかった。

 ワークシートを見ると、「コウちゃんの気持ちを考える」という発問に対して、児童が“思わず”自分自身の気持ちを記述していることがわかる。書き出しの主語が「私は」に変わっている児童もいた。
 教材提示も、児童は集中して聴き、お話の世界に入り込んでいる様子があった。黒板シアターによる教材提示は、中学年の児童にとても有効であった。ワークシート記述中も、ゆるやかなBGMの中で、早く書き終わった児童が近くの児童と穏やかに意見交換をする姿が見られた。

○振り返りの発問「『命』について考えたこと。どんなときにどんなことを考えましたか。」に対する発言の一部を紹介する。

・家でお母さんと話したことがあります。お母さんは「自分の子供の命が自分よりも大切」と思って、私が生まれてから仕事をやめたそうです。
・僕のおじいちゃんは、僕が生まれてすぐ亡くなりました。僕を待っていてくれたのかなと思いました。
・会ったことのないご先祖様に会ってみたいと思いました。

 本時は命の「連続性」に焦点を当てた授業であり、展開前段ではそれに関する発言がほとんどであったが、振り返りでは「命」に関して、多様な考えが出た。一人一人の児童がそれぞれの経験に合わせて、「命」に関する考えを深めることができたのではないだろうか。
 また、説話で余韻を残して授業を終えた後、何人もの児童が授業者の周りに集まり、「命」に関するエピソードを話しに来た。説話が児童の心に響いた実感があった一方、これらのエピソードを授業の中で児童が発言しよう、したいと思えるようにするために、今後、さらに後段の発問を検討したい。