ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.33 > p6〜p9

教育実践例
学校の枠を超えた他校との協働授業研究
─授業を通じた情報交換とプレゼンテーション授業の展開─
豊南高等学校 下野敏弘
tshimono2002@yahoo.co.jp
1.はじめに

▲豊南高等学校

 第4回目の「プレゼンピック2006」(合同プレゼンテーション大会)が,2007年1月20日(土)に東京成徳大学中学高等学校のヴェリタスホールで行われた。主催は「情報教育交流会」で,全国十数校の教科「情報」の教員と出版社・企業などのメンバーで構成されている。
 2003年より教科「情報」がスタートし,新しい取り組みの第一歩として,学校というを枠を超え,同年代の考え方や知識を共有することを目的として合同プレゼンテーションの授業を実施している。
 この取り組みは,私立3校の教員の交流から始まり,合同授業を展開する中で,他校の生徒との「情報の共有とコラボレーション」を中心課題として捉え,創造的な思考力やコミュニケーションを育んでいる。


▲ヴェリタスホール

 第1回は3校でスタートし,本校は,第2回目から参加している。今回開催された第4回では,9校が参加した。
 この取り組みの特徴として,各校の生徒同士が授業から交流を始めることが挙げられる。また,本大会では各校の代表チームが発表するわけであるが,本大会で競い合うことだけが目的ではなく,企画・作成段階から生徒間の交流を主体に捉えている。そして,生徒だけでなく,各校の教員間の交流も大切にしている。本稿では,主に本校のプレゼンピックへの取り組みを紹介する。
 本校の教科「情報」履修状況は,2003年度に「情報A」を1年生と3年次で各1単位実施し,2004年度からは1年生(9クラス)に2単位,3年次に選択(1クラス)で「情報C」を3単位でTT制を導入し,実施している。情報Aの授業は,教室での座学とPC教室での実習を各1時間ずつ行っている。


▲PC教室での授業風景

2.プレゼンピックへの 参加の目的と意図
 本校のプレゼンピックへの参加の目的と意図は,以下の通りである。
○目的
・他校(遠隔)との教科「情報」における授業での生徒間の交流により,お互いの理解を深め,さらに,学習内容を共有化し,コミュニケーション能力を育成する。特に,プレゼンテーションを通して「探究心」「企画力」「想像力」「表現力」を引き出し,生徒個々の能力向上と,生徒間の交流を深める。
・教科「情報」としての取り組みを他校に発信し,情報を交換するとともに,交流授業の形態,および情報発信の実践により生まれる諸問題を研究する。
○意図
・他校の生徒と情報を交換することにより,生徒が自ら課題を引き出すことのできる授業形態を実践する。
・人と人との交流の仕方についても学び,生徒の「情報活用能力」を向上させる。
・ネットワークカメラ,電子メール,BBSなどの授業内での利用について研究する。6月にプレゼンピック参加のためのオリエンテーションを会場校で実施し,講師から講義を受け,さらに「Face to Face」を基本に,できる限り生徒間での交流を図れる準備をした。そして,様々な環境における教科「情報」の他校との交流実践を試みている。
3.本校のプレゼンピッ クに向けての取り組み
 本校では,2学期からプレゼンピックに向けての取り組みを始めた。各クラス3〜5名の班に分かれ,「不正コピー・肖像権・チェーンメール・出会い系サイト・なりすまし・個人情報・携帯電話・コンピュータウイルス・ネットオークション・インターネット社会」のテーマの中から項目を選択し,発表時間は5分の作品にした。
 Webカメラやメッセンジャー,Skype通話などを,実験段階であるが活用し,電子掲示板を使いながら,各校と授業内で互いの企画内容や進捗状況などを情報交換し,交流を深め,作品を完成させていった。
 11月末にクラス内選考会を実施し,生徒同士が評価し合い,クラス代表チームを決めた。次に,各クラスの代表チームが総合的な学習の時間に1学年全員の前で発表し,学年代表チームを決めた。ただ,本大会までは講習会,部活,冬期休業などで練習時間はほとんど持てないのが実情である。


▲本校6階ホールでの1年生全員による学内選考発表会

 以下に,プレゼンピックへの取り組みをまとめる。
・班編成(3〜5人一組)と研究テーマの仮決定
・6月17日(土)合同オリエンテーション(東京成徳大学の青柳隆志助教授による講義)
・研究テーマの決定
・情報の収集,計画書の作成
・双方向通信による研究テーマ,計画書,班の公開
・計画書に基づいた「絵コンテ」を各班で作成
・プレゼンテーション指導
・クラス内発表(5分程度),相互評価・自己評価
・修正・再加工
・学内発表,相互評価,クラスごとの代表選考
・「プレゼンピック」合同プレゼン大会
・参加校同時発表,双方向通信ネットワーク等で公開
 本校の代表チームは,第2回大会(2004年度)では,総合では準優勝,ビデオ部門では優勝を収めた。テーマは「不正コピー」だった。プレゼンテーションに関する補足説明を以下に示す。
・とあるテレビチャンネルを回すところから始まる。そこではドキュメンタリー風のビデオ映像が流れ,某私立高校の不正コピーに対する意識を聞いている。
・映像もモザイク効果などの工夫がなされ,また,音声も声の質を変えるなどしてテレビ番組さながらの演出が施されている。
・番組の締めくくりとして,不正コピーの実態を調査し,不正コピーが行われる理由についてプレゼンテーションがなされている。パワーポイントのアニメーション効果とビデオ映像を巧みに組み合わせた作品である。作品は,ホームページで公開されている。※注1


▲第2回大会での発表の様子

 第3回大会(2005年度)では,総合優勝を収めた。やはり「不正コピー」をテーマにした。プレゼンテーションに関する補足説明を以下に示す。
・トロンボーンの自作曲の演奏から始まり,それを第3者が盗作し,ラジオで放送してしまうという設定にした。
・実際に発表時に使用したCDについて,パソコンにコピーする必要上,生徒が財団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)に申請書類を提出した。権利者名などが記載された管理著作物使用料請求明細書(非商用利用につき使用料が減額される)が郵送で届き,210円を振り込んだ。
・さらに,CD制作会社にも電話で許諾確認したところ,学校からの申請ということで,簡単に許諾が得られた。今回は数校の集まる場であることと,CDから直接音を流せば問題ないが,パソコンにコピーすることでJASRACに確認したところ,複製権が発生することで申請が必要であることを学んだ。


▲第3回大会での発表の様子


▲総合優勝を収めた本校の生徒

 第4回大会(2006年度)では,惜しくも3位であった。今大会では「出会い系サイト」をテーマに選んだ。プレゼンテーションに関する補足説明を以下に示す。


▲第4回大会での本校代表のプレゼンテーションの様子

・実際に出会い系サイトの利用率を調べ,未成年は法律に抵触することをテレビの臨時ニュース風に画像を編集して紹介した。
・東京都青少年の健全な育成に関する条例の第18条の6に関して,クイズを取り入れ,ビデオを使った演出をした。
4.プレゼンピック 2006
 第4回大会の参加校とプレゼンテーションのテーマは,以下の通りである。
●ノーマル部門
・東京学芸大学付属高等学校「なりすまし」
・岩手県立大野高等学校「出会い系サイト」
・近江兄弟社高等学校「携帯電話はすべての人が持つべきだ」
・自由学園高等科「携帯電話」
・明星高等学校「ネットオークション」
・東京成徳大学高等学校別館「不正コピー」
・東京成徳大学高等学校本館「携帯電話をとりまく環境問題」
●ビデオ部門
・豊南高等学校「出会い系サイト」
・東京成徳大学中学校「マナーを携帯しよう〜著作権と掲示板〜」

 なお,発表の順番は,開会前に代表のくじ引きによって決めた。
5.採点は携帯で!
 今大会から,採点時間を短縮するために携帯電話による採点集計を導入した。あらかじめQRコードなどにより「プレゼン」サイトを協賛企業各社の方々の協力のもとに作成し,参加生徒が個々登録をした。そのため,約400名の集計を瞬時に行うことができた。携帯電話を使わない生徒の分は,Excelにより集計したが,やはり時間のロスが見られた。
 採点の間に,大阪で行われている「プレゼン甲子園」の事務局長によるプレゼン甲子園の紹介と,生徒によるジャグリングやマジックなどが企画されていた。
 昨年度の第3回大会では,オペラやブレイクダンスなども盛り込まれていた。最後に表彰式では,毎回のことであるが,生徒達は,喜びと,涙のチームに分かれた。


▲携帯電話にサイトを登録


▲携帯電話から結果を送信
6.まとめ
 2006年度では,主に2学期の授業で「プレゼンピック2006」(第4回大会)に取り組み,本大会では9校の参加があった。
 授業後(放課後)にWebカメラやSkypeなどを利用して各校と連絡を取り合い,何とか授業で活用できないか実験を重ねた。
 大会に参加し,結果を出すだけではなく,プレゼンテーションにたどり着くまでの過程に重点を置き取り組んだつもりである。
 各校との交流授業を行うことにより,授業公開や参観などで教員間の交流が深まった。これにより,互いの情報を共有し,教科「情報」の質を高めることが期待できる。
 また,生徒間交流により,情報を伝達する技術はもとより,生徒達も情報の共有ができ,コミュニケーション能力の育成,人間形成に役立ったと考えられる。
 情報の収集・加工・処理・発信などを実践し,情報通信ネットワークを利用し,距離を越えて体験的に認識し,情報社会に主体的に参加する態度を育てられたのではないかと実感している。今後の取り組みにも,教科「情報」の成果を出していければと思う。
 合同プレゼンテーション「プレゼンピック2007」(第5回大会)は,平成20年(2008年)1月12日に予定されている。


▲岩手県立大野高等学校と近江兄弟社高等学校と会場が中継により繋がっている。


▲表彰式の様子
謝辞:協働授業を実施するにあたりご指導・ご協力いただいた情報交流研究会の先生方をはじめ,発表会場の先生方,参加校の生徒の皆様,当日携帯電話での採点集計にご協力いただいた協賛企業の方々と終始お世話になりました本校講師の池上太一郎先生に紙面をお借りし感謝申し上げます。
注1:http://www.tokyoseitoku.ac.jp/ict/GALLERY/gallery_top.htm
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る