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ICT・EducationNo.33 > p10〜p13

教育実践例
教科「情報」で伝えたいこと─情報社会に対応できる生徒を育てたい─
山形県立霞城学園高等学校 宍戸俊文
shishido1010@yahoo.co.jp
1.はじめに
 本校※注1は,山形県では初めて全面的に単位制システムをとる定時制・通信制の高校として,平成9年に開校した。3年以上在籍し,修得単位が74単位以上に達すれば卒業が認められ,定時制普通科(Ⅰ部午前・Ⅱ部午後・Ⅲ部夜),通信制普通科・服飾科(Ⅳ部)の中から,最適な部と学習形態を選択できる。
 校舎は24階建ての霞城セントラルという複合ビルの5階から9階に位置しており,全国的にも珍しいと言える。
 私は,定時制の課程に所属しており,教科「情報」は,情報社会に参加する上での望ましい態度を育てることを目的に情報Cの授業を2単位で行っている。ただし,カリキュラムの都合上,部によって開講年次の違いがある。
2.現職教員等免許講習会
 情報の免許は,平成12年に行われた現職教員等講習会に参加して取得した。この講習会で講師の先生方に繰り返し説明を受けたことは,「情報」は情報機器の使い方を学ぶだけの教科ではないということである。つまり,ハードやソフトの使い方だけを教えるのは,教科「情報」の本質ではないということだった。このことは今も頭から離れることはない。
 平成12年の時点では,教科書は発行されておらず,文部省(当時)から発行された2冊のテキストが拠りどころであり,情報の学習指導要領を何度も読み返すしかなかった。現在は,各会社から出版されているが,当時はどんな教科書が出来上がるのか,大きな話題になったものである。
 また,グループごとに学習指導案を考え,お互いに意見を交換しながらのミニ授業は教科「情報」の原点である。本来,大学で学ぶべきことが3週間に集約されており,教材研究にかなりの時間をかけた講習会であったことを忘れることができない。
 余談だが,当時の講習会で使用したパソコンは,OSがWindows98であり,大容量のデータを保存する場合には,外付けのMOを使用しなければならなかった。今は持ち運びが便利な,USBフラッシュメモリが普及しているが,当時は考えられなかった。
 講習会後に必要書類を提出し,情報の免許が手許に届いたときは,安堵感とこれから始まる授業をどうするか一人思い悩んだものである。新しい教科が始まることへの期待よりも不安の方が大きかった。
3.教科「情報」で伝えたいこと
 本校で3年目を迎えた教科「情報」であるが,他教科の先生方からはコンピュータ(ワープロ・表計算・プレゼンテーション・データベース)の操作方法のみを教えていると思われている。もちろん,コンピュータ操作も大事であるが,情報が氾濫する社会の中で正しい情報の受発信ができるように,情報活用能力を身につけてほしいと思っている。特に,情報モラル(著作権・肖像権・情報セキュリティ・個人情報等)については,しっかりと伝えていきたい。
 ところで,この原稿を執筆中に某テレビ会社の捏造問題が発覚し,人気番組が打ち切られる事態に発展した。いわゆる情報操作が行われ,マスメディアとしての信用を失墜する行為が明らかになり,社会的制裁を受けなければならない事実は悲しい事件であった。
 この事件は,情報操作について知るきっかけになったことは言うまでもないが,私も含めて,テレビや新聞に書いてあることを信頼しすぎていることが明らかになった。生徒の中には「テレビを信じてダイエットをやってみた」「毎回楽しみにしていた」という声が聞かれたが,情報の信頼性について学習するよいきっかけになった。マスメディアによる情報操作は人々に与える影響が実に大きいことを実感した。
 その後,会社側の対応にも問題があるなど,社会問題化したニュースは生徒たちにとって身近であったように思う。
 このように,情報に関係するニュースは毎日のように報道されているが,生徒は案外その事実を知らないことが多い。今後も身近な事例を取り上げて,情報化が社会に及ぼす影響を様々な面から認識させ,望ましい情報社会の在り方を考えさせたいと思っている。
4.年間授業報告
 授業は,過去2年の反省から実習よりも座学の時間を確保した。身近な話題については,コンピュータで情報検索を行いながら説明することにしている。
 例えば,電子商取引では,ショッピングを扱っている仮想商店街を体験させている。最近の生徒はインターネットを活用して商品を購入するケースも多いので,教材としては身近である。また,聞いたことがないIT用語などは,Google,yahoo等の検索エンジンを活用しながら説明すれば,情報収集の技術を身につけることができるので一石二鳥である。
 定期考査は年4回実施することにより,学習の到達度を確認している。試験については情報の授業が始まる初年度に悩んだ。実習の制作物を,自己評価や相互評価によって客観的に評価するだけにしようと思ったが,情報Cの時間では座学の時間も確保していることから,試験を実施することにした。
 今年の授業の概要は下記のとおりである。
5.実践例
前期授業 時数
オリエンテーション 2
パソコンの基本操作 2
知的財産権 2
中間考査 2
画像のディジタル処理 8
ケータイ安全教室 1
情報の単位 3
2進数 4
期末考査 2

(1)画像のディジタル処理
 本校生徒の携帯電話の所有率は,95%を超える。年度当初のアンケート調査では高校入学と当時に購入してもらうケースが圧倒的に多く,中には小学校低学年から持っていた生徒もいて,利用料金が高額になる生徒も見られた。
 生徒たちは,携帯電話をマニュアルも見ずに使いこなす。これは凄いと言わざるを得ない。言い換えれば,目的が明確であれば自分で覚えるのである。
 生徒に,携帯電話を使って被写体を決め,写真を撮るように指示すると,慣れた手つきで撮影をはじめた。しかし,撮影する前に画像サイズを変更するように指示をすると,殆どの生徒は画像サイズを変更できることを知らなかった。それだけではない。解像度の言葉の意味さえ知らない生徒もいたのである。そこで,画像サイズが変更できる話をすると,真剣な表情で聞きだした。いきなり解像度と言っても何のことか分からないが,自分たちが日常使っている携帯電話のことであれば話は別であった。
 ところで,写真撮影の目的は知的財産権を学ぶことにもある。著作権や肖像権を身近に感じてもらうために,写真コンテストを活用することにした。幸い,「私のお気に入り」というテーマで募集しているコンテストがあったので,生徒には知的財産権に配慮しながら撮影を行うように指導をした。
 しかし,創造力と発想力が不足している生徒にとって,いきなりの応募では困難を極めることが予想されたので,まずは練習も兼ねて,本校のビルを被写体にしてコンテストを開催した。
 撮影後に画像編集ソフトでトリミングや色の補正をして,L版で印刷を行った。また,写真に関するコメント(工夫したところ,評価のポイント等)を記入してもらい,自己評価と相互評価を実施した。人の作品を見ることによって勉強になる部分があるので,時間をかけて行った。
 話は戻るが,写真コンテストの結果は残念ながら入賞するものはなかった。後日,応募会社から連絡があり,今年度の写真集を頂けることになった。また,来年度は募集にあたりオリエンテーションを開催して頂くことで調整が進んでいる。

後期授業 時数
情報モラル 5
Webページ作成 10
中間考査 2
情報の信頼性 4
情報化が内包する問題 4
情報化社会を考える 4
期末考査 2

(2)情報モラル
 携帯電話が生活のあらゆるシーンで利用されている反面,使用方法に関するモラルやマナーが低下している気がしてならない。
 これは,生徒の事例である。保護者からの連絡で,携帯電話の使用料が1か月約70,000円という高額になったという相談が寄せられた。高校に入ると同時に購入したそうだが,上限金額の設定はしなかったという。この生徒についてはすぐに解約するように保護者にお願いした。こうしたケースは明らかになっていないだけで,その他にも十分に考えられるケースである。
 また,年度当初のアンケート調査で明らかになったが,1日に100通以上メールを送受信する生徒が多数いた。しかも,家に帰ってから自分の部屋でやっているケースが多い実態も把握できた。生徒は,携帯電話に依存している傾向が強いと言わざるを得ない。情報機器が発達し便利になったが,情報モラル指導の必要性を痛感した。
 そこで,昨年度より携帯電話に関する事故の未然防止と正しい使い方を学んでもらうために,ケータイ安全教室を実施している。
 その他にも,警察庁のサイバー犯罪対策のビデオを活用している。各学校にサイバー犯罪のビデオが配られていると思うが,インターネット環境が整っていれば,警察庁のWebサイトからダウンロードして見ることができる。内容は,無線LANによるセキュリティ対策の問題,インターネットオークション,アダルトサイトの架空請求,スパイウェアの問題等,実に身近な話題が多く,それだけに教材としては扱いやすい。学ぶべきことが多いビデオであった。
 今年度は開催できなかったが,警察庁の方にお越し頂き,サイバー犯罪について講演をして頂くことも検討している。
 パソコンや携帯電話を使いこなすことが当たり前になっている生徒たちには,是非とも情報モラルを身につけて情報社会に参画してほしいと思っている。

(3)授業評価
 本校では,情報の授業アンケートを2回(前期末・後期末)実施して,授業の改善に役立てている。
 下記は質問事項の一部であり,評価は4段階で行う。評価(A・そう思う,B・だいたいそう思う,C・どちらかというとそうは思わない,D・そうは思わない)は記名式で行い,AとDを選んだ場合には理由も書かせることにした。
 以下はアンケート結果(%)の一部である。
①先生の話し方は,はっきりしていて聞きやすい。
A B C D
45.2 46.2 4.3 4.3

②自分の考えや意見を出しやすい授業である。
A B C D
0.0 46.2 44.1 7.5

③新しい話題やためになる話題を提供している。
A B C D
7.5 57.0 32.3 1.1

④定期試験の内容は妥当である。
A B C D
14.0 61.3 16.1 7.5

⑤実技課題の内容は妥当である。
A B C D
9.7 72.0 15.1 1.1

 この結果をすべて鵜呑みにする訳ではないが,改善に役立てる必要がある。特に,自分の考えや意見を出しやすいかの問いに対してAは0.0%と厳しい評価だった。それだけ一方的に話をしているか,作業をさせているわけで,アンケート結果を謙虚に受け止めて改善しなければならない。
6.平成19年度に向けて
 本校では,3年目を迎えた情報の授業であるが,授業形態が確立されておらず,試行錯誤の状態が続いている。週に2時間しかない情報の授業の中で何を学ばせるか考えるのは難しい。
 生徒の中には,Webページやブログで情報を発信している生徒もいる。しかし,ブログが抱えている問題を理解せずに発信している場合が多い。日記に書くような感覚で書いているが,知らず知らずのうちに,普段口に出して言うことができないような発言をしている場合もあり,「炎上」の危険性も否めない。
 生徒には,インターネット上に多くの情報が公開され流通している実態と,情報の収集・発信に伴って発生する問題,個人の責任について理解させるが必要があると思っている。
 実は,情報の授業でもブログを作成したいと思っていた。しかし,何を書けばよいかという問題や,使い方の説明だけで終わるのではもったいないという課題もあり検討事項になっていた。
 そんな折,偶然にも教え子から地域密着型のIT企業を起こしたので会いたいという話だった。その会社は,ステップアップコミュニケーションズ※注2(山形市)というインターネットを利用したコミュニティサイトの企画,構築,運営をする会社で,「みんなが集まる場所をつくろう」ということでWebページやブログ作成を中心に事業を展開していた。次年度に,会社のサービスの活用をお願いしたところ快諾して頂いた。どのような形態が生徒に向いているか検討を重ねているが現時点では次のとおりである。
 一つ目は,レポート等の提出物をブログ形式で公開したいと思っている。いろんな人から読んでもらいコメントを貰うことで,書く力と読む力を育てていきたい。
 二つ目は,相互評価に役立てたいと考えている。作品制作があれば,合評会を行い,そのコメントをブログに掲載して,意見交換会を行う機会を作りたい。意見を発表することが苦手な生徒たちに情報を発信するときのマナーも一緒に学んでもらいたいと思っている。
 三つ目は,ノート代わりに使用したいと考えている。パソコン上で記入したものは携帯電話でもすぐに閲覧や更新ができるので,有効活用したいと考えている。
7.最後に
 2006年11月に全国各地で未履修問題が発覚し,教科「情報」も例外ではなかった。平成12年度から3年間に渡り現職教員等講習会が開催され,万全の体制で臨んだ教科「情報」だったが,未履修が相次いだことを残念に思う。
 まだまだ授業形態が確立されておらず,授業進行は各学校判断に任せられている教科であるが,他校の授業を参考にしながら,情報社会に参画する上で望ましい態度を育てていきたい。
注1:http://www.kajogakuen-h.ed.jp/
注2:http://step-up.co.jp/
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