ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.33 > p14〜p17

教科「情報」テキスト活用事例
教科書;日本文教出版「情報A」を進路指導と連携させて
埼玉県立深谷高等学校 大室尚之
oomuro@fukaya-h.spec.ed.jp
1.はじめに
 埼玉県立深谷高等学校は,埼玉県北部に位置する中堅の進学校である。今年で創立33周年を迎えた。男女共学の普通科,1クラス40人,1学年6クラス定員の中規模校である。昨年度の卒業生の進路先は,4年制大学45%,短期大学8.6%,専門学校36%,就職4.3%という割合だった。未定者の大半は大学進学希望の浪人生である。文武両道を校風としており,部活動も盛んである。特に男子バレーボール部は全国優勝を数回成し遂げている。春高バレー2連覇中である。ラグビー部も全国大会出場を経験していて,県大会では必ず決勝まで進んでいる。来年度入学生からは,特進クラスを設けて,学習指導においても運動部に負けない実績をあげるべく取り組んでいる。
2.指導目標
(1)本校の「情報」の位置づけ
 本校における教科「情報」の位置づけは,「コンピュータの基本操作,情報活用の基礎的能力を習得させ,充実した高校生活の一助とする」というものである。そのため,1年次に全員必修で「情報A」を2単位行っている。授業は1時限当たり50分である。1時限ずつ行い,連続しては行っていない。教科書の他に副教材として,日本文教出版の情報A実習ノートとIT・Literacy(Word2003編,Excel2003編,PowerPoint2003編)を使用している。座学は教室で行い,実習はコンピュータ教室で行っている。一人1台ずつのコンピュータと,指導用の中間モニターを二人に1台ずつ備えている。環境復元ソフトによって,常に同じ環境で使用することができる。OSはWindowsXPで,データはサーバー内の各自のフォルダに保存される。教師用コンピュータからは常に生徒のコンピュータの画面を見ることができ,リモート操作も可能となっている。

(2)実習のテーマ
 4年前に「情報A」という授業を開始するにあたり,この教科を本当に役立つものにするには,いったいどうしたら良いだろうか?と悩んだ。以前勤務していた学校で,「情報コース」のクラス担任をしていた経験から,「既存のソフトウェアについてのスキルをどれほど身につけさせても,時代の変化に対応できる能力を身につけさせないと,本当の生きる力にはつながらない」ということを痛感していた。そこで,ソフトウェアのスキルは必要最低限度身につけさせるにとどめ,成果物作成のプロセスとその中身に力点を置くこととした。実習のテーマは,進路実現に向けての情報収集と,収集した進路情報の発信とし,実習内容は全て学校生活に活かせるよう配慮した。
3.実践報告
(1)わたしはこれを目指す
 年度当初は教科書を一気に45ページまで読み進める。生徒を指名して,一人1ページ程度読ませ,1ページごとに補足解説を加える。2〜4ページごとに実習ノートをやらせる。「第1章 情報を理解しよう」で,情報社会についての基礎知識を身につけさせる。特に第2節で進路について考えさせるところについては,しっかりと取り組ませる。25ページの実習6「わたしはこれを目指す」について,下書き用の用紙を配り,課題として提出させる。
●指導のポイント
 「わたしの目指す職業」を明確化させる。深く悩ませると行き詰まってしまう生徒が出てしまうので,軽く考えさせ,現時点で最も興味がある職業を一つ挙げてみようといった雰囲気で進める。悩んでいる生徒には個人的にアドバイスをして,具体的な選択肢を与えて決めさせる。ここで決めた「わたしの目指す職業」に関して,以後の「図書館では?」「インターネットでは?」「身近な人にインタビュー」の各項目をレポートさせることになるので,しっかりと決めさせることが重要である。
 昼休みと放課後の時間を使って図書室に行かせて,「わたしの目指す職業」に関する書籍を調べさせる。「書名」「著者」「出版元」「内容の要約」「自分にとって役立った点」をレポートさせる。
 「身近な人にインタビュー」は,話が聞けそうな人を,近所の住人や地元のお店や家族・親戚等を手がかりにして探させる。職業によっては見つからない場合があるので,近いジャンルでも良しとする。ここで重要な点は,身近な人の職業を具体的に知ることと,働いている人から直接話を聞くというところにある。情報の源は,常に人間の活動にあるということを実感させておく。
 「インターネットでは?」については,コンピュータの実習の際に取り組ませる。「インターネットでは?」のところは空白のままで中間考査最終日に提出させる。実習の際には,これを原稿にして文書作成をすることになることを予告しておく。
●中間考査
 中間考査では,実習ノート並みの穴埋め問題を中心に出題する。欄外の英単語も出題する。暗記中心の内容ということもあり,例年平均点は高めである。試験の内容はまだまだ研究の余地が大いにあると思う。試験の実施回数は年間3回として,あとは2学期中間と学年末に行っている。
●実習
 「第2章 第1節 情報の検索と収集」で情報検索の基本的な考え方を学ばせた後,実習に入る。最近の生徒は,コンピュータの基本的な使い方は大体身についている。本校で設定した,各自のユーザー名とパスワードに関する指導のみで,Web検索練習が可能である。ベネッセマナビジョン,リクルート進学ネット等の高校生向け進路応援サイトを紹介して,各自の進路希望に関する情報を収集させる。参考になったサイトを,お気に入りに登録させておく。
 IT・Literacy Word2003編を使い,ワードの基本操作を学ばせる。(3時間程度)その後「わたしはこれを目指す」をワードで作成させる。
 用紙に書かせた課題を返却し,これを原稿にして作成させる。「インターネットでは?」の部分も完成させる。「インターネットでは?」については,「URL」「サイトの内容の要約」「自分にとって役立った点」をレポートさせる。「その他」の部分は,自由に書かせる。他の項目に収まらなかった内容や,各自で工夫した点を書く者が多い。「評価」の欄は必ず記入させ,「まとめ」のところにその理由を書かせる。「まとめ」には感想も書かせる。感想を読むと,この課題を通して,情報収集には様々な方法があり,得られる情報はそれぞれ異なることを体験できた様子が伝わってきた。また,「収集した情報」を一つのレポートとして整理することにより,意志を強固にする者,目標を見直す者等,進路に対する意識に様々な変化が見られた。

(2)夏休み課題
 夏休みを利用して,現地取材をさせるための宿題を課す。生徒への指示は枠内の通りである。
課題内容 「自分の興味のある進路先について訪問し,レポートを作成する」
◎評価のポイント
1 情報収集能力
2 情報を整理し,表現する能力

◎注意事項等
1 対象とする進路先は,大学・短大・専門学校等の教育機関,または民間企業とする。訪問可能な地域に限定して考えること。
2 名称・所在地・沿革・特徴・興味を持った理由・訪問先までの交通機関(実際かかった費用)・まとめと感想,をA4版の用紙にまとめる。(適度な枚数)用紙は各自で用意する。ワープロソフトを利用して,データとして提出してもよい。その際は,FDかMOかCDで提出すること。
3 実際に訪問し,現地で自分が写っている写真を撮り,貼り付けすること。訪問先の方にインタビューをして,色々訊いてくる。その際必ず事前に連絡をし,相手方の了解を得ること。相手方に失礼のないよう注意すること。大学等でオープンキャンパスを実施しているところは,できるだけその日に訪問すること。
4 2学期中にホームページ作成やプレゼンテーションの実習を行う際に,今回の課題の資料を利用するので保管しておくこと。

 1学期末の授業で,訪問希望先の情報を調べさせ,訪問計画を立てさせる。
 Webページで得られた情報と,現実との違いを経験し,実際に足を運ぶことの大切さを感じる生徒が多いようである。この課題も3年目を迎えたが,年々電子データでの提出が増えてきている。

(3)Webページの制作
 2学期最初は,教科書の続きを86ページまで読み進める。第2章で,情報モラルをしっかりと身につけさせる。第3章で情報を伝えるための留意点を整理させる。その後実習に入る。
●実習
 まず,埼玉県の県立学校間ネットワークの機能について学ばせる。生徒一人一人について,アカウント登録をして,ユーザー名とパスワードを発行する。このアカウントを使ってログインすることにより,電子メールや教室内チャットの他,生徒自身のWebページ用スペースが利用できる。このスペースは校内のコンピュータからしか閲覧できないので,実習には最適である。 Webページを作成させ,ここにアップロードして相互評価を行わせている。Webページ作成にはフリーソフトを利用している。複雑な機能はないが,授業で使うには十分である。
 Webページの内容は,「自己紹介」「進路について」「通学路紹介」「その他」である。
 「進路について」のページは,夏休みの宿題を基に,自分が調べた情報を分かり易く提供することを主眼に作らせている。これまでの課題は,生徒自身の中で完結していたが,他人に見せて,相互に評価することで,新たな視点が生まれる。同級生同士で進路情報を交換することで,互いを刺激し合える。
 「通学路情報」は,教科書の「Way To School」を参考にして作らせる。携帯電話のカメラ機能の普及により,効果的な写真を組み込んだ作品が増えてきた。

(4)ライフプラン
 3学期は最初に,IT・Literacy PowerPoint2003編を使い,パワーポイントの基本操作を学ばせる。(3時間程度)14ページからの「ライフプランの発表」を参考に,各自の「ライフプラン」を考えさせて,発表用のプレゼンテーションを作成させる。合間合間に教科書のプレゼンテーションに関する部分を復習する。例に沿って「20年後」にどうなっていたいかをしっかり考えさせる。36歳になっているはずなので,現在の36歳の大人を参考に,自分なりの理想の人物像を考えさせる。そこから,必要なキャリアが導き出され,「10年後」「5年後」「3年後」,そして現在やるべきことが明らかになる。これまでは,高校卒業後のことしか考えていなかった生徒が,今後20年間のプランを考えるというのは,大変難しいことである。あくまで理想のプランという視点で,あまり気負わずに考えさせる。
●プレゼンテーション
 クラス全体でプレゼンテーションを行うと,3時間かかってしまうので,昨年度から,1班5名程度の班内発表会という形式に変えた。教育効果に不安があったが,同級生にプレゼンテーションすることにより,自分自身の考え方が整理され,目的意識の向上と,現在の生活の見直しができるという効果は以前と変わらず得られた。
4.まとめ
 現在の3年生も,1年次に情報Aの授業を受けている。現時点で進路先が決まっている者を調べてみると,1年次にしっかりとしたレポートが書けていた者は,希望を実現できている。取り組みが甘く,指導が難しかった者ほど第1希望から離れた進路先となっている。この授業は1年次のみで,2年次以降のフォローアップはクラス担任に任せざるを得ない。他の教科ではこのような進路と絡めた指導内容を実現することは不可能である。1年次に十分な指導が行えなかった者に対して学校としてどのように取り組めるかが今後の課題である。また,きちんと取り組めた者に対しても,身につけたことを,2年次以降の学校生活で活かしてさらに発展させられる体制を作りたいと思う。


▲夏休み課題


▲Webページ(Way To School)


▲Webページ(進路について)
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る