ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.33 > p18〜p21

総合実習 実践実例
総合実習「みんなの学校節電プロジェクト」の実践報告
宮崎県立宮崎南高等学校 原田智洋
1.はじめに
 私は物理が専門の教員ですが,過去に非線形力学や統計物理で計算機を用いた研究に関わっていたため,高校教育については理科だけでなく,数学や情報の方にも強い関心があります。学生時代,ますます厳しくなる教員採用試験に備えて,理科以外に情報の免許も取得したいと思いましたが,当時,大学で情報の免許が取得できる課程はほとんどありませんでしたし,教員ではなかったので講習会にも参加できませんでした。幸い,文部科学省が行っていた教員資格認定試験を受験する機会を得て,情報の免許を取得することができました。おかげで正規採用された後に,複数の教科を教えるという多忙な日々を送ることになるのですが,個人的には教科間の敷居が低くなったような気がして満足しています。物理の授業でパソコンを使ってシミュレーションをしたり,情報の授業でパソコンが科学にどのように利用されているか話したりと,それぞれに相乗効果を感じながら,新しい教材研究に明け暮れている毎日です。
2.本校の情報教育について
 本校には普通科と,文科総合科という英語を中心とした専門学科があります。1学年10クラスあり,9クラスが普通科,1クラスが文科総合科です。文科総合科は創設されてまだ3年目であり,文系,理系の志望者が半分ずつ在籍する学科です。普通科,文科総合科とも情報Bを履修します。普通科は1年次に1単位,2年次に1単位を履修します。一方,文科総合科は昨年度まで1年次に2単位行っていましたが,今年度からはカリキュラムの変更で1年次に1単位,3年次に1単位の履修となりました。情報を担当する教員は私以外に2人おりますが,それぞれ専門は家庭科と数学という別の教科も担当しています。普通科の情報はこの2人の教員が担当し,私は1クラスしかない文科総合科の情報を担当しています。授業内容については,普通科と文科総合科は異なります。
 本校は過去に情報教育推進校に指定された経緯があり,情報機器は非常に充実しています。校内LANが教員用,生徒用に分かれており,教員はグループウェアを用いて連絡や校内の施設予約などを行うことができます。また,生徒はパソコン室の他にも図書室や進路指導室でもパソコンを利用できます。
3.節電プロジェクト
 パソコンの使い方を習うことが情報の授業ではない,と最初の授業で生徒に伝えています。「最近は生徒達の方がパソコンは詳しいから…」とよく言われます。しかし,情報を教えている先生方には言うまでもありませんが,電子メールや検索,ブログなどは,パソコンの機能としてはごく一部です。大人でもこのように狭義にパソコンを捉えている方が多いのではないでしょうか。従って,パソコンの操作が主役にならないように,パソコンは思考するための道具であるという立場で教材を考えています。まず解決するべき問題があって,そのために必要であればパソコンという道具も利用するということです。もちろん,強力な道具であることには間違いありません。
 そんな折,来年度の教科書採択の時期が来ました。いくつかの出版社の教科書を読むうちに,日本文教出版の「新・情報B」教科書に掲載されている総合実習「みんなの節電プロジェクト」が目に留まりました。これまで,教材として扱うデータは,あらかじめ与えられたものではなく,生徒が自分で調査,測定したものを使わせたいと考えていました。例えば,アンケートの集計は取り組みやすいテーマですが,どうしても実体のない数値データの作業が中心になります。一方,節電は社会的なテーマでもあり,学校でも継続的に取り組まれていることです。電力という物理データを測定し,しかも1年生がこれまで入ったことのない教室や棟を巡回することは,ちょっとしたフィールドワーク的な要素もあり,面白いのではないかと思いました。
 来年度を待てず,年度途中でありましたが,昨年の教材の中から総合実習を節電プロジェクトに切りかえることにしました。テキストの例は,空調を含む校内で使用される電力すべてを調査対象にしていましたが,今回は放課後の照明のみを調査対象とすることにしました。私が担当しているのが1クラスのみなので,調査に対する生徒の負荷分散がうまくいくかどうか不安だったことと,何よりも,照明であれば生徒が自由に節電対象としてスイッチを入れたり切ったりすることができると思ったからです。生徒には節電を行うと同時に,節電による1ヶ月の使用電力量も予測してもらうことにします。
 まずはこの計画が実行可能なものかどうか,大雑把に見積もってみることにしました。まず,事務部から学校全体の使用電力量のデータを,可能な限り過去の分までいただきました。このとき10月初旬。生徒には11月の節電を行ってもらうことになります。空調(冷房)の時期も過ぎ,情報機器と照明が電力のほとんどを占めます。電力は1ヶ月ごとに記録されますので,このデータでおよそ1ヶ月の使用電力量がわかりました。全使用電力量のうち,放課後の照明の電力は多くても8%〜10%程度でしょう。この電力量を節電するわけですから,全使用電力量の予測の誤差に埋もれてしまう可能性も十分考えられます。従って,節電した分を差し引く前の1ヶ月の使用電力量を,過去のデータからどれだけ正確に予測できるかが,今年度の11月の使用電力量の予測精度を上げる重要な要素になります。


▲図1 使用電力量のイメージ。放課後の照明の割合は誇張して表示している。
4.節電プロジェクト開始
 私の授業では,1つのテーマをMISSIONと名付けて,数時間かけてMISSIONを解決していきます。今回の節電プロジェクトは4時間分のMISSIONとして計画しました。大きな流れは次の通りです。1時間目に節電プロジェクトの調査方法と,電力についての解説を行います。調査班も決めておきます。生徒はその後,1ヶ月間調査を行います。その期間は,調査の経過を確認しながら別のMISSIONを行います。そして1ヶ月間の調査終了後,2時間目に,調査の集計を行います。3時間目にそれぞれの担当区域の集計を統合し,全体の集計結果として共有します。同時に1ヶ月間の使用電力量の予測を班ごとに立てさせます。4時間目はレポート作成です。

(1)1時間目
 担当するクラスは43人です。10月中旬。まず今回のMISSIONの内容を説明し,男女が交ざるように調査班を9班つくりました。従って1班の構成は4,5人になります。次に,各班の班長を決めてもらい,班長に大きな封筒を渡します。その封筒の中には次の資料を入れておきます。
 資料① 班のメンバーリスト(2枚)
 資料② 学校の平面図
 資料③ 1日の使用状況報告書(30日分)
 資料④ 電力量の計算方法の解説プリント
 資料⑤ 過去2年分の各月の使用電力量リスト
 資料⑥ 過去3年分の学校の年間行事予定
 すべて合わせると50枚程度の大量の資料になります。何か大掛かりなMISSIONが始まるという期待が,生徒の興味・関心を強くします。
 資料①は2枚用意し,班長にメンバーを書き込ませ1枚は提出させます。
 次に,班ごとに集合させて資料②を見てもらいます。資料②には,各班が校内のどこを調査するかが書かれています。事前に,班ごとに調査の負荷が均等になるように調整しておきます。ここで,調査が始まる前日までに各班の担当箇所のどこに何本照明があり,その照明の消費電力がどれだけあるかを調査するよう指示しておきます。例えば,特別教室棟2階が担当になった班は,2階にある各部屋の蛍光灯の消費電力とその本数を調べることになります。もちろん廊下にも,トイレにも蛍光灯があるので,それも調査範囲に含みます。ただし,教室の蛍光灯は共通のものを使用しており,消費電力は同じですから,それについては教えておき,本数だけ確認するようにします。電力の定義についての簡単な解説もしておきます。理科の教員として,これはぜひしておきたいと思いました。測定する量についてイメージを持つことは非常に大切です。
 次に,資料③に担当箇所の照明の使用時間を毎日記録するよう指示します。調査は放課後5時から,生徒の下校時間7時までです。放課後は生徒も忙しく,部活動や塾などがありますので,班のメンバーでそれぞれが調査する曜日や時間帯などを,しっかり打ち合わせておくようにします。後で各班の調査結果を統合することを話し,責任を持って調査するように念を押しておきます。ここで気をつけなければならないのは,調査は10月最後の1週間から行うことです。しかしまだ節電してはいけません。節電後の対照データが必要です。節電の効果を知るには,節電していないときにどれだけ電力量を消費しているか把握しておかねばなりません。しかし,この理屈は生徒にはやや難しいようです。
 その他の資料については簡単に触れる程度で終わります。


▲図2 資料③使用状況報告書の一部

(2)2時間目
 資料④を参考に,消費電力量の計算方法を説明します。生徒は資料③に照明の消費電力(単位:ワット)と本数,そして使用時間(単位:時間)を記録していますから,消費電力×本数×時間で使用電力量(単位:ワット時)を計算し,それを1000分の1にして電力会社から報告される使用電力量の単位kWh(キロワット時)に変換することになります。まずは調査結果を各班で集計します。11月に生徒が調査できた日は18日ありました。まず,10月最後の週に調査した節電なしのデータをもとにして,もし節電しなければ18日間でどれだけ電力を消費していたかを見積もります。1日平均×18倍すればいいと思います。次に,節電を行った11月の18日分の調査を集計します。数人で読み上げ,1人がEXCELに次々と入力し集計する班もあれば,個々に分散して集計する班もあります。読み上げる班がやや速いようです。どちらにしても時間がかかりますので,この時間はこれで終了です。余裕のある班には次の時間の指示をしておきます。

(3)3時間目
 前の時間に各班で集計したデータを統合します。今回はプロジェクタで投影しながら,各班に報告してもらい,私の方でEXCELに打ち込んでいきました。これによって,学校全体で18日間に使用した電力量が分かります。まず,節電しなかった場合の使用電力量を見積もり,実際に節電した18日分の使用電力量を引きます。これによって,今回の節電プロジェクトでどれだけ節電できたか分かります。1時間目に生徒に説明したのですが,対照となるデータがなければ,どれだけ節電できたのかが分からないことを再度伝えます。
 結果としては,放課後の使用電力量の10%程度を節電することができました。生徒はよく頑張ったと思います。ただし,全体の使用電力量から見ると,節電した量は1%程度ということになります。
 資料⑤,⑥をもとに,11月の使用電力量を予測します。行事予定には毎日何が行われたか記載されているので,過年度の行事予定と今年度の行事予定を見比べながら各班で話し合って結論を出します。これらの過程をレポートとして次の時間まで使ってまとめてもらいます。
 
5.まとめ
 この原稿を執筆している段階では,まだ電力会社からの通知が届いていないので,実際の使用電力量との比較を行っていません。今回の節電プロジェクトは計画,調査,集計,分析という流れを総合的に行うことが目的であり,使用電力量の予測が当たるかどうかが主たる目的ではありませんが,ゲーム性を持たせるために追加しています。予測が近かった班に高い評価を与えるわけではありません。結論が正しいからと言って,その道筋が正しいとは限らないからです。調査の取り組みや,データをどのように詳しく調べ,分析したかを評価します。レポートの感想の中には,節電を定量的に行うことの新鮮さや,プロジェクトをさらに継続していく必要性を述べたものもありました。しかし,1ヶ月間の調査についてはやはり大変だったようです。
 節電プロジェクトが開始された日に,全職員にもプロジェクトの内容を報告しました。放課後巡回する生徒に対して,職員室の半分の電気を消して協力して下さる教員もおりました。職員トイレの前で電気を消そうと待ちかまえている女子生徒に男性職員がびっくりするというエピソードもありました。今回の節電プロジェクトによる結果が分かり次第,再度全職員に報告する予定です。
 今回は1クラスでの実験的な試みに留まりました。その中でいくつか改善したい部分も見つかりました。特に,照明の使用時間を調査用紙に記録させ最後に集計させましたが,あらかじめEXCELで入力フォーマットを準備させておく方が,途中経過も分かり,またパソコンを活用する意義もあるでしょう。情報の教材として深みを増す改良を加えながら,来年度以降は学校全体の取り組みとして発展させていきたいと考えています。
 
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