ICT・Educationバックナンバー
ICT・EducationNo.36 > p14〜p17

教育実践例
千里高校の情報教育
−教科「情報」と総合的な学習「探究基礎・探究」「科学探究基礎・科学探究」ー
大阪府立千里高等学校 田中伸一
1.はじめに
 千里高校は大阪の府立高校として,1967年に開校され,昨年(2006年)40周年を迎えた比較的新しい学校です。実は1970年に大阪千里丘陵の地で開かれた万国博覧会の起工式が本校で行われており,校舎の設計もコンペティションで決まり,随所に先進的なデザインや配置が行われています。たとえば,本校の図書館は校内のアクセスしやすい場所に配置され,柱が一本もなく,屋根を乗せただけ,しかも天窓を配置して,広々とした学習空間を提供しています。

図書館(「探究」での利用)
▲図書館(「探究」での利用)

 近年,千里高校は大阪の府立高校のパイロット校的な役割を果たしてきたともいえます。1990年には府立高校初の国際教養科を2クラス設置,2002年には文科省のSELHi(スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール)研究指定校に選出されました。2005年には,国際・科学高校に改編され,国際文化科4クラス(160人)・総合科学科(120人)が入学してきました。今年度(2007年)は新校になって3年目,新しい生徒たちが3学年ともそろった年に当たります。
 本校の生徒たちは,国大協のセンター試験を毎年8〜9割程度が受験し,国公立や関西の有名私学に多数の入学者を出す学校,いわゆる受験校のひとつです。ただし,クラブと学習の両立をめざし,自学・自律をモットーにしています。近畿大会には毎年いくつかのクラブが出場し,2006年にはサッカー部が念願のインターハイへ初出場を果たしました。
 また,新校への改編により,設備の更新が行われ,LAN教室は2ヶ所,普通のLL教室以外にCALL教室というコンピュータを利用したLL教室ができました。さらに,府立高校では図書館に学校情報ネットワークのPCが配置されていますが,千里高校ではさらに,第2ライブラリィを整備し,ここにもネットワークにつながったノートPCを5台配置しています。さらにその横には,プレゼンテーションルームを設置,授業での発表などでよく利用されています。もちろん,理科関係の実験設備やPCの配置・整備も行われ,学習環境は整ってきました。全校的には150台を超すPCがネットワークにつながり,生徒たちの学習に提供されています。
 こうした中で,生徒たちはさまざまな学習に取り組んでいるのですが,この新校のカリキュラムのなかで,「情報教育」がどう配置され,どう実践されているのか,私自身が関わっている授業を中心に紹介していきたいと思います。

第2ライブラリィ(「探究」での利用)
▲第2ライブラリィ(「探究」での利用)
2.千里高校の情報教育の流れ
(1)学校情報ネットワークの導入

 大阪府の府立高校に「学校情報ネットワーク」が導入され,高速のインターネット回線にPCがつながることになったのが,2000年度からでした。千里高校もその第1期校のひとつとして,この中にはいることになりました。その前から,千里高校では,閉じられたネットワークの中で「情報科学」という名前の授業講座が行われていました。LAN教室は「CAL教室」と呼ばれていましたが,その意味は「Computer Assisted Learning」だと私がこの学校に赴任してきた時に教えてもらいました。この名前を付けるときにいろいろな話し合いがなされたと聞きます。「コンピュータが学びをアシストする教室」というのは,その後の千里高校の「情報教育」の基本的な発想を示しているといえるでしょう。

CAL教室(「探究基礎」日本の伝統文化)
▲CAL教室(「探究基礎」日本の伝統文化)

(2)全生徒へのIDの発行

 さて,「学情ネットワーク」導入後すぐに,全教職員・全生徒にIDを発行するという方針を情報教育担当者で確認しました。3年生の国際教養科80名と1・2年全員にIDを発行,2年生はHRの時間を中心にID講習を行い,1年生は現代社会の授業の中で講習を行ないました。何人もの先生方がボランティアで各クラスに入り込み,何とか講習を終わらせたのも懐かしい思い出です。2001度入学生からは4月に入ってIDを発行,現代社会の授業の中で複数の担当者が講習を行いました。

(3)本校の「情報教育」の基本コンセプト

 本校の「情報教育」の基本的なコンセプトは,学習の共通のプラットホーム(全員が乗っている共通の土台)としてのコンピュータリテラシィ(コンピュータとのつきあい方)を獲得させる,です。
 その結果,現代社会・国際理解・国語・英語などでの授業活用が進み,2001年度ではCAL教室で40時間以上/月,図書室でも30時間以上/月という利用頻度になりました。各教科で課題を出すと,生徒は昼休みや放課後に熱心にCAL教室にやってきていつも満員でした。

(4)各種研究校への指定
 その後,本校は2001・2002年には大阪府立中央図書館と連携をして,「マルチメディア・モデル成果展開事業協力校」の指定を受け,2002・2003年と大阪府教育委員会から「図書館教育研究校」に指定されました。前述のように2002〜2004年は文科省の「SELHi研究指定校」,そのほかにも,この「情報教育」環境を利用して授業実践が行われ,家庭科が中心になって,大阪府から「金融研究校」(2004・2005年度)「エコ・ハイスクール」(2003〜2005年度)の指定を受けています。
3.教科「情報」と総合的な学習「探究基礎・探究」「科学探究基礎・科学探究」
 上述の教育実践を受けて,2003年度から教科「情報」がはじまり,2005年度から「国際・科学高校」という新校になりましたが,それ以前の本校での「情報教育」の取り組みは,新校における実践に確実に反映されています。
 まず,1年生は全員4月の最初に,オリエンテーションとしてID講習を受け,千里高校での学習の共通のプラットホームに乗り,様々なネットワーク環境を利用した授業を受けます。
 千里高校は国際文化科と総合科学科で異なったカリキュラムですが,1年・2年でおこなう教科「情報」と総合的な学習「探究基礎・探究」「科学探究基礎・科学探究」についてはよく似た展開のカリキュラムを持っています。これはいくつかある千里高校の特色のひとつであるといえます。
 簡単に,説明しますと,1年次で国際文化科は,【情報C】(前期)→【探究基礎】(後期),総合科学科は,【科学探究基礎】(前期)→【情報B】(後期)と学習し,2年次でそれぞれ,10数人の小人数グループに分かれ,【探究】・【科学探究】をおこないます。
 現在のところ,2年次の【探究】は国語・英語・社会の教員が,【科学探究】は理科・数学の教員が担当しています。そして,年間を通じて,情報スキルをアップする集中講座を何回か開いています。最後には全員がプレゼンを各少人数の講座でおこないます。その代表が,3月中旬に行われる「千里フェスタ(学習成果発表会)」で発表をします。
 まず,「IDを発行」し,「コンピュータとのつきあい方」「図書館の利用方法」から始まり,「情報の集め方」「実験データの分析」「レポートのまとめ方と書き方」とすすみ,「論文の作成とエッセンスのまとめ方」「発表の方法」へと展開していくのです。その一番最初に,教科「情報」が位置づけられています。
 私が関わった2006年度の国際文化科での取り組みは,次のようなものでした。

(1)1年【情報C】の取り組み

 内容を箇条書きにします。

・情報講習会
・タッチタイピングの練習とタイピングテスト
・並行して,ワードによる「自己紹介」,デジカメでの写真撮影の取り込みとビデオ撮影の動画へのリンク
・インターネットを使いこなすために(インターネットの仕組み,URL,電子メール,検索エンジンなど)
・検索の基本のキホン,Webページでの情報ハント
・パワーポイント実習(プロジェクト学習,10時間,この年は「ヴァーチャル商品開発をしよう」)
・最後に,プレゼンテーション(予選・決勝リーグの2段階方式,決勝リーグは個人ではなく,グループで発表)

(2)1年【探究基礎】の取り組み

 同じく,箇条書きにします。

・図書館の達人になろう(その1,その2)
・小論文入門(その1,その2)
・ペーパーの達人(手紙の書き方)
・英字新聞を読みこなそう(その1,その2)
・オーストラリアを究めろ!(本校は研修旅行として2年次に全員オーストラリアに行きます。調査,レポート作成,ポスター,発表)
・社会調査入門(仮想インタビュー)
・プレゼンテーション入門(松木正さん講演その1)
・日本の伝統文化(冬休みの宿題,PPT作成,発表)
・フィールドワーク入門(松木正さん講演その2)
・ミニ・フィールドワーク(準備・調査・まとめ)
・【探究基礎】振り返り,【探究】に向けて

探究基礎(KJ法)
▲探究基礎(KJ法)

探究基礎(インタビュー)
▲探究基礎(インタビュー)

 特に,2回にわたって行われた外部講師松木正さんの講演「プレゼンテーション入門」「フィールドワーク入門」は特筆したい。生徒のプレゼンに対する考え方が大きく変化していき,学校の外に出ていってインタビューをしていくことの意義を理解していく過程を,確認できるのは非常に興味深い。

松木さん「プレゼンテーション入門」
▲松木さん「プレゼンテーション入門」

(3)2年【探究】の取り組み

 1年間を通じての内容を箇条書きにします。

・小論文入門(その3,その4,その5)
・情報の達人(エクセル入門その1,その2,その3)
・各コース別探究授業のテーマ
 10数人の小グループで取り組みました。
○「日本探究・日本発見」
○「本の世界・物語」
○「入門大阪学」
○「現代発見・世界をつかもう」
○「異なる世界(世界の衣食住)」
○「You,Me and Us in This World(世界の女性は今)」
○「相互理解の鍵は何?」
○「言葉の発見」など
・論文作成(原稿用紙10枚)
・画像処理入門(その1,その2)
・論文のエッセンスをパワーポイントにまとめる
・各コース内でのプレゼン
・各自の年間総括(ワードで作成)
・代表が3月中旬に行われる「千里フェスタ(学習成果発表会)」でプレゼン

国際文化科の発表
▲国際文化科の発表

 同様に,総合科学科のほうは1年【科学探究基礎】【情報B】,2年【科学探究】と取り組み,同じように代表が「千里フェスタ(学習成果発表会)」でプレゼンをするという流れになります。

総合科学科の発表
▲総合科学科の発表

 なお,千里フェスタの様子はネットワーク管理者の先生と相談し,2006年度は1年生の中から,「Student Reporter」を募り,携帯電話から書き込めるブログでリアルタイムで発表を伝える取り組みを行った。生徒たちは,ケータイで写真を撮り,動画を撮影して,発表の様子を的確にコメントしてくれた。この取り組みは教師のみならず,生徒にも非常に好評であった。その様子は千里高校の公式HPで確認できる。
4.おわりに
 現在の千里高校の「情報教育」というのは,以上のような流れで行われています。教科「情報」は本校における学習活動の土台になるものであり,その上に立って様々な学習活動(それは教科のみならず,各学科の特徴を取り込んだ総合的な学習「探究基礎・探究」「科学探究基礎・科学探究」も含みます。)が実践されているのです。
 コミュニケーション能力,つまり,情報を相手が受け取りやすく加工し,差し出す能力(まさにプレゼントとして差し出す=プレゼンテーション)の育成に特化してカリキュラムが組まれていると言っていいでしょう。さらにそれは,大学などで学生に要求される「リテラシーの育成」を先取りしているといえるのではないでしょうか。
 最初に述べたように,千里高校は受験校ですが,トップ校ではありません。むしろ,積極的に特色ある教育を実践してきた学校です。今後も「夢のある1.5番手校」として,その存在価値を示せる実践を積み重ねていきたいと願っています。
前へ   次へ
目次に戻る
上に戻る