高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)
高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

「高校美術3」P40掲載 ポーラ美術館蔵
「この作品に、なにが描かれているのか、話してください」
―海岸だと思う。
―暗い空。夜だろうか?月明かりが見える。
―母親と赤ん坊。舟が浮いている。
―母親が手に赤い花を持ち、浜辺にたたずんでいる。
―いや、歩いているかもしれない。しかも、裸足で。
- 油彩/キャンヴァス/81.7×59.8cm/1902/Pola Museum of Art,Pola Art Foundation/©2009-Succession Pablo Picasso-SPDA(JAPAN)
この作品を見せて、ある学校のクラス生徒全員に質問を投げかけたところ、一つとして同じではない、時には思いがけない答えが返ってきました。さまざまな人の視線、感覚、感情を惹きつけ、いかなる解釈も悠然とうけとめる度量を、この作品は備えているようです。なぜでしょうか?
《海辺の母子像》は、20歳のピカソが描いた「青の時代」(1901-1904年)の作品です。スペインに生まれたピカソは、親友カサへマスの死をきっかけに、生と死、貧困といった主題に傾倒します。画家の心境の変化を映すように、その絵画からは明るくあたたかな色彩が消え、しだいに青い闇に覆われていきました。
青色は、空や海を連想させ、純粋さ、静けさを感じさせる色彩です。また、「青=ブルー」といえば、憂鬱(ゆううつ)、不安など、メランコリックな性質も備えています。ピカソの「青の時代」の絵画には、イメージの宝庫であるこの青色が、たくみに多用されています。どうやら、この「ピカソの青」に、幾通りもの見方を可能にする秘密の一つがあるようです。
ところで、絵画作品にはWeb等の画像を見るだけでは感じとることのできない重要なポイントがあります。それは「絵画の質感」です。専門用語では「マチエール」といいます。平坦に塗られているように見えるこの《海辺の母子像》も、実際はところどころ絵具が厚く塗り重ねられ、作品全体に重厚感を与えています。実は《海辺の母子像》を制作する以前に、ピカソはまったく異なる題材の絵を、この同じキャンヴァス上に描いていたことが透過X線調査でわかっています。
Webで本作品が気になった皆さん、ぜひ美術館に足を運び、「ピカソの青」を体感してみてください。
(ポーラ美術館 学芸員 今井敬子)
■ポーラ美術館
- 所在地 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285
- TEL 0460-84-2111
- 休館日 年中無休(展示替え休館あり)
<展覧会情報>
- 企画展「ボナールの庭、マティスの室内 日常という魅惑」
- 9月12日(土)~2010年3月7日(日) ※期間中無休
- 常設展示「ポーラ美術館の絵画」、「森芳雄 ひとのぬくもり」、「ガレ、ドーム、ティファニーのガラス-花ひらくアールヌーヴォー」、「粧いの空間-ロココからアール・デコ」
展覧会概要(企画展「ボナールの庭、マティスの室内 日常という魅惑」)
- 身近な自然としての庭と日々の生活が営まれる室内。19世紀後半から20世紀の西洋絵画にみられる、庭と室内という日常的な空間の表現を、印象派のモネから20世紀のボナールやマティスまで、約50点の作品によって紹介します。
<次回展覧会予定>
- 「ポーラ美術館の日本画Ⅰ- 杉山寧不朽の名作《水》を中心に」
- 2010年3月13日(土)~6月8日(火)