高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

「画家の肖像」 北川民次作
2011.09.30
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.028>
「画家の肖像」 北川民次作
「美・創造へ1」P.17掲載 笠間日動美術館蔵

kbi_art_no028_01

油彩/カルトンボード/49.7×40cm/1931

 北川民次は早稲田大学予科を退学後、アメリカ在住の兄をたより20歳で渡米、サンフランシスコ、シカゴなどを経てニューヨークで数年を過ごし、のちメキシコで約15年を過ごします。彼にとって、ニューヨークで働きながら画学生として過ごしたアメリカ時代、そして放浪やアルバイト、美術学校で児童美術教育に携わったメキシコ時代は、生涯にわたる制作の基本的なスタイルを確立した時期でもありました。『自分が知っているものを素直に描く』というメキシコの児童画に見られる特質にヒントを得、新しい絵画表現を試みるようになります。美術教育においては、教師と生徒という上下関係の中で教えるのではなく、仲間のように溶け込もうとし、自由な発想で描く重要さを生徒たちと考えました。
 この「画家の肖像」は、彼のメキシコ時代に描かれたもので、大きく見開いた目や、大胆な構図で表されたパレットなどは、写楽の役者絵を思い起こさせる表現です。この作品が描かれた1931年ごろ、メキシコ市で開催された浮世絵展にも、彼がかかわっていたといいます。背景は黒味がかった赤で塗られ、教育者としての絵に対する情熱のようなものが感じられます。彼の37歳のとき、メキシコに滞在していた二宮鉄野と結婚した2年後の作品です。この作品と同寸で、同じ年に制作された「女の肖像」という妻の肖像画があり、一対の作品として描かれたものと思われます。
 彼は1936年に帰国してからは、メキシコの壁画を思い起こさせるようなダイナミックな構成の作品を発表します。第二次大戦中には一時窯業の盛んな愛知県の瀬戸に移り住み、その街で働く労働者の家族の中に人間愛を見いだし、深く人間性の根源を掘り起こそうとしました。

(笠間日動美術館 管理部長 亀山浩一)

■笠間日動美術館ico_link

  • 所在地 茨城県笠間市笠間978-4
  • TEL 0296-72-2160
  • 休館日 月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始

<展覧会情報>

  • 「モーリス・ユトリロと魅惑の風景画」
  • 2011年9月16日(金)~11月23日(水・祝)

展覧会概要

  • モンマルトルの白い壁に喜びと哀しみを塗りこめたユトリロ。コロー、モネ、ヴラマンクらの風景画、また渡欧して独自の画風を確立した佐伯祐三、荻須高徳らの作品を紹介します。

<次回展覧会予定>

  • 「児玉幸雄とアンティークドール」
  • 2011年11月26日(土)~2012年3月11日(日)

その他、詳細は笠間日動美術館Webサイトico_linkでご覧ください。