高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)
高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)
白銅の彫刻「ちょっと意地悪」は誰に似ているでしょう。自分の幼いころ? 友達の子ども? それとも昔どこかで会った誰か? ちょっと遠くを見つめる眼差で、何を考えているのでしょう。でも、この作品にモデルはいません。
人のかたちをするものは、しばしば誰かに似ることがあります。「君や 僕に ちょっと似ている」と題した展覧会に出品されるのは、人の顔を描いた絵画や彫刻です。奈良美智は「子ども」を代表的なモチーフに描いてきました。ただし作品制作の過程で特定のモデルは介在しません。それどころか作家は、作品は全て自画像なのだと語っています(ちなみに奈良美智は大人の男性です)。奈良の絵画は、すべて下描き無しに絵具を塗り重ねてゆくことでかたちを得ていきます。そしてこの彫刻も、1tに及ぶ土粘土の巨大な塊と格闘する中で、作家の手から自然と生まれ出たものです。それにも関わらず、君や僕、あるいは誰かにどこか似ている「顔」とはどういう意味なのでしょう。
美術の歴史について語るとき、さまざまな局面で作品は特定の個人と結びつけられます。作り手は誰? 描かれているのは誰? 誰のためのもの? 表現の独自性はどこにある? オリジナリティが求められる世界で、「似ている」という言葉は、ときに負の意味を持つことすらあります。
一方で何かに感動するとき、私たちはそこに何を見ているのでしょう。悲しみ、喜び、秘密。他人と何かを共有できたとき、私たちは一体感とともにうれしさを覚えます。感動とは、自分と「似ている」何かを見つけることではないでしょうか。これら二つの「似ている」には、美術作品を批評的に分析することと、体験・鑑賞することとの違いが対照的に表れてきます。
「君や 僕に ちょっと似ている」。この言葉には、感動の本質が隠されているのです。
(横浜美術館主任学芸員 木村絵理子)
<展覧会情報>
- 「奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている」展
- 横浜美術館 2012年7月14日(土)~9月23日(日)
巡回:青森県立美術館 2012年10月6日(土)~2013年1月14日(月・祝)
熊本市現代美術館 2013年1月26日(土)~2013年4月14日(日) - 休館日:木曜日(木曜日が祝・休日の場合はその翌日)
- 展覧会概要
現代美術家、奈良美智。奈良の作り出す作品たちは、ときに挑戦的であり、またあるときは瞑想しているかのような憂いを帯びた多彩な表情を見せてくれます。本展は作家にとって初の挑戦となる大型金属彫刻をはじめ、絵画やドローイングなどの新作が発表されます。
■横浜美術館
- 所在地 神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
- TEL 045-221-0300
<次期開催の展覧会>
- 「はじまりは国芳 -江戸スピリットのゆくえ」展
2012年11月3日(土・祝)~2013年1月14日(月・祝) - 横浜美術館コレクション展Ⅲ
2012年11月3日(土・祝)~2013年3月24日(日)
その他、詳細は横浜美術館Webサイトでご覧ください。