高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)
高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

「高校美術3」P.20掲載 川崎市岡本太郎美術館蔵
1929年、岡本太郎はパリに留学します。当初、画家としての方向性に悩んでいた岡本は、1932年にパリの画廊でパブロ・ピカソの抽象的静物画「水差しと果物鉢」に出会い感動し、抽象芸術に自身の進む道を見つけます。
岡本は1933年アプストラクシオン・クレアシオン(抽象・創造協会)に参加(1937年脱会)し、1934年から暗い空間に布と金属の棒が浮遊する抽象的な「空間」シリーズを描き始めました。彼は「空間」シリーズを制作しながらも、抽象的な表現に限界を感じていたようです。何故、岡本は抽象的な表現に行きづまってしまったのでしょうか。岡本は“パリで生きる自分の感覚をより生々しく表現したい”と思ったのかもしれません。そして彼は当時よく“パルパブル:palpable(手につかめる、極めて明瞭という意)”という言葉を使いながら、より現実に迫る自らの表現を模索していきます。
1935年「リボン」「リボンの祭り」を制作。布のモチーフがリボンに変化します。これらの作品に描かれたリボンには、様々な意味の象徴性を感じることができます。このリボンのモチーフはさらに発展して、1936年「傷ましき腕」のリボンとして登場するのです。この「傷ましき腕」は、大きく描かれた赤いリボンと、ピンクの縞模様のように皮膚を等間隔で切り開かれた腕、そして握りしめられた拳という題材で描かれました。リボンを付けた人物の顔が見えないのに、黒い髪に覆われた頭部と赤いリボンが不思議な存在感を出しています。「グラッシ」という古典技法で何層にも重ねられた濃紺の背景と、リアリズムの手法で描かれたリボンや腕のモチーフは、戦争に向かいつつあった不穏な時代の空気と,当時の日本と西洋(近代)に引き裂かれた岡本自身の内面を伝えているのではないでしょうか。
身体の一部であるこの傷つけられたたくましい腕は、シュルレアリスム(超現実主義)の身体性とも通底しながら、見る者に痛みをともなった共振感覚で迫ってくるようです。
(川崎市岡本太郎美術館 学芸員 仲野泰生)
■川崎市岡本太郎美術館
- 所在地 神奈川県川崎市多摩区枡形7?1?5
- TEL 044-900-9898
- 休館日 月曜日(月曜が祝日の場合は除く)、祝日の翌日(祝日の翌日が土日にあたる場合を除く)、年末年始、他に臨時休館日あり
<展覧会情報>
- 企画展「小野佐世男-モガ・オン・パレード」
- 2012年10月20日(土)~2013年1月14日(月・祝)
展覧会概要
- 小野佐世男はモダンボーイ、モダンガール、通称「モボ・モガ」が銀座を闊歩した1930年代から、戦後にかけて活躍した画家・漫画家でした。小野は独特の女性像を描きました。本展では、小野佐世男の作品と活躍を、原画・書籍・雑誌・映像など約500点で紹介します。
<次回展覧会予定>
- 企画展 第16回 岡本太郎現代芸術賞展
- 2013年2月9日(土)~4月7日(日)
その他、詳細は川崎市岡本太郎美術館Webサイトでご覧ください。