高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

高校教科書×美術館
(高等学校 美術/工芸)

サインのない絵画 きらめく原石たち
2024.03.18
高校教科書×美術館(高等学校 美術/工芸) <No.072>
サインのない絵画 きらめく原石たち
神戸市立小磯記念美術館

神戸市立小磯記念美術館 外観 神戸市立小磯記念美術館は、小磯良平の油彩・素描・版画など約2000点を取り扱う個人記念美術館です。今回はコレクション企画展示「サインのない絵画 きらめく原石たち」を中心に、美術館の特徴やおすすめの作品について、学芸員の多田羅珠希さんにお話をうかがいました。

――教科書では実際に美術館に訪問し、作品を鑑賞することを提案しています。神戸市立小磯記念美術館ではどのような鑑賞体験ができますか?美術館の特徴とともに教えてください。

多田羅:収蔵品展である「コレクション企画展示」や「小磯良平作品選」で、小磯良平や小磯とゆかりある芸術家たちの作品を見ることができます。また、西洋絵画や近代洋画などに関する特別展も年2回ほど開催しています。
 美術館の中庭では、移築・復元された小磯良平のアトリエを見学いただけます。異人館風の淡いグリーンの窓枠が爽やかなアトリエの室内には、パレット、絵具やイーゼルなど実際に使用されていた画材や、西洋人形、ヴァイオリンなど絵のモチーフとなったものを展示しています。小磯がどういった空間で作品を生み出していたかを感じていただけます。

移築・復元された小磯良平のアトリエ

――コレクション企画展示「サインのない絵画 きらめく原石たち」では、教科書にも掲載している《休息する踊り子》を実際に見ることができます。展覧会の内容と《休息する踊り子》の魅力について教えてください。

多田羅:本展では、小磯良平の「サインのない」作品をピックアップして展示します。完成に至らなかった作品や、大作の習作、プライベートな素描などに注目する、個人記念美術館らしい企画です。
 《休息する踊り子》も「サインのない絵画」のひとつです。腰掛けるバレリーナを、鉛筆で描いた作品です。モデルとなっている女性は、実際は踊りを専門とする方ではありませんが、チュチュを着装し、つま先を開いたバレリーナらしいポーズをとっています。
 1930年代から小磯はバレリーナをモチーフとするようになり、画業を代表する作品も数多く描かれました。本作は、バレリーナを繰り返し描く中で生み出された素描のひとつでしょう。チュチュの柔らかさと、目元や腕の力強さを表現する筆致の強弱が見事です。

小磯良平《休息する踊り子》1939年

――今回の展示では、コレクション企画展示と合わせて「小磯良平作品選Ⅲ」を行うため、数多くの作品を同時に見ることができます。その中でも高校生に紹介したい作品を教えてください。

多田羅:「小磯良平作品選Ⅲ」では、当館が所蔵する代表的な作品を展示します。なかでも注目していただきたいのは《二人の少女》(1946年)です。この作品は、終戦の翌年に、小磯が自身の二人の娘を描いたものです。戦時中、空襲で家やアトリエを失い、仮住まいを続けているなかで、小磯のまなざしは親しい家族へ向かいました。
 幼い娘たちは、おそろいのカーディガンを身に付け、並んで立っています。姉は軽く首を傾けてこちらに視線をやり、妹は壁にもたれて本に目を落としています。華やかな背景の模様は、壁紙ではなく、小磯が気に入っていた布をかけました。
 めったに自分の作品を褒めない小磯が、本作の事は「よくできた」と認めていました。愛情を込めて家族の姿を描き留めた、唯一無二の作品です。

小磯良平《二人の少女》1946年

展覧会情報

■「サインのない絵画 きらめく原石たち」
会期:2024年2月17日(土)~3月31日(日)
会場:神戸市立小磯記念美術館
公式サイト:https://www.city.kobe.lg.jp/kanko/bunka/bunkashisetsu/koisogallery/
休館日:月曜日(月曜日が祝日または休日の場合は開館し、翌平日に休館)
開場時間:10時~17時(入場は閉館の30分前まで)
観覧料:一般200円 大学生100円 高校生以下無料

【関連作品 教科書掲載情報】

  • 令和5年度版「高校生の美術2」p18.
    休息する踊り子[鉛筆・紙/37.3×27.8cm]
    1939 神戸市立小磯記念美術館蔵[兵庫県]
    小磯良平[兵庫県・1903~88]