学び!と美術

学び!と美術

ほめて育てる?
2013.08.12
学び!と美術 <Vol.12>
ほめて育てる?
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 「ほめて育てる」というのが流行っているそうです。その話を聞いて「危ないなぁ」と思いました。むやみにほめるのはよくないですし、ほめる際に配慮すべきこともあります。このことについて学級担任での失敗や図画工作・美術で学んだことなどから考えてみましょう。

1.ほめるは危ない

 ある時に学級崩壊のようなクラスを受け持ちました。席につかない、うろうろする、私語が止まらない、そんな感じです。
 私はすぐに徹底してほめました。例えば教室に入ったときに、誰か席に着いていれば「わぁ、うれしいな。待っていてくれたんだ」、話を聞いていれば「先生を見て話を聞いてくれると話しやすいなぁ」などです。もちろん一方的にほめたわけではありません(※1)。あくまでも子どもの特定の状態を取り上げ、その事実に対して自分の感情を正確に伝えただけです。でも、子どもたちは先生が何を望んでいるのかをすぐに理解しました。「僕もそうだよ」「私もちゃんとしているよ」と言わんばかりに、争うように席につき、先生の方を向いて話を聞くようになり、二週間で崩壊状態は消えました(※2)。
 でも、その三ヶ月後、ある保護者から思わぬ指摘を受けました。「先生、うちの子、チック症が出ています」「えっ?」。見ると確かにそうでした。その子は「みんなしっかり話を聞いてるね」などほめるたびに、背筋をピンと伸ばしながら、片方の目尻をピクピクと痙攣させていたのです。元気な子で、昨年度まで、ある意味のびのび過ごしていたのでしょう。賢い子だったので頭では分かっても心がついていけなかったのでしょう。「クラスが落ち着いた」といい気になっていた私は冷水を浴びた気分になりました(※3)。
 単純にほめるのは危険です。ほめるという行為は、どんなにうまくやっても外的な基準であり、内発的な動機にはなりません(※4)。一種のプレッシャーであり、それ以外のことは許さない雰囲気が生まれます。上から目線になりがちで、しかもほめている当人がそれに気づかないことがあります。「ほめて育てる」は耳触りがいい言葉ですが、そこには様々な問題点が潜んでいるのです。

2.図画工作や美術でほめる

 一方、図画工作や美術は子どもたちをほめやすい教科です。それは図画工作を研究して、学力が伸びたという校長先生の言葉によく表れています。「先生、図画工作を研究したら、先生たちが子どもをほめるようになりました。それが国語や算数にも広がったんですよ」。「ほめ合うから、子ども同士が仲良くなるんですよねえ」これらの言葉は事実であり、正直な実感だと思います。
 ただし、単純にほめたわけではないでしょう。なぜなら図画工作・美術では、目の前に作品があります。根拠がはっきりしているので、「上手だね」ではなく「ここが、いいね」のように具体的にほめられます。よく分からないときは「ここは?」と聞いて「なるほど」と頷いたことでしょう(※5)。子どもにとっては、それだけでうれしいものです。そして、何より「その子らしくできた」ことが大切にされたはずです。
 ある伝統工芸士に認定されたおばあちゃんがこう言っています。「母ちゃんはね、私が見よう見まねで何か作ると『よくできたなぁ』って、必ずほめてくれる人だった。どんなに下手でも絶対に怒らないでほめてくれた。だから、喜んで、いろんなもの作ったの。今、こんなに幸せなのは、母ちゃんのおかげだわね、だから感謝しているのよ。」おばあちゃんは、ずっと「お母さん」から「できたな」と認められ続けてきたことが支えになったのでしょう。
 両方のケースに共通するのは、人と人の間に作品があることです。作品はもう一人の「私」です。作品があると具体的にほめたり、「その子らしさ」を認めたりすることが容易になります。校長先生やおばあちゃんの言葉は、それが効果的に働いた様子を物語っていることを示しています。

 ほめることには気を付けたいものです。でも、子どもの成長にとってやはり大切です。図画工作や美術では、大人が思いもしない発想が生まれたり、様々な価値を自らつくりだしたりします。その特徴を生かして、作品を見たり、聞いたり、ときに語りかけたりしながら、「その子らしさ」を認め、ほめてあげたいと思います(※6)。


※1:「上手だね」「すごいね」など全体的にほめても子どもが喜ばないことを教育関係者は知っている。例えばピアノを弾ける子ほど上手だと言われたら嫌う。社会的な視野が成立する高学年ほど、ほめると周りを気にする。
※2:机と椅子に縛り付けたわけではない。むしろ活動的な授業をし、実験や主体的な学習に取り組んだ。
※3:私はほめるのを控え、規律を緩やかにした。夏休みも間に入ったせいか、二学期には症状は収まった。
※4:あえて分かりやすくしている。個人の内と外に動機を二分したいわけではない。横浜国立大学の有元教授は「動機は個人の属性というよりも集団的な属性」だと言っている。
※5:「聞く」は、「あなたに興味がある」というメッセージになる。返ってきた答えに頷けば、「あなたのしたことを私は認めた」というメッセージになる。
※6:個人的には「認める」が重要だと思っている。認めれば、ほめようが、叱ろうが子どもは納得する。ほめるか、叱るかは状況や指導の文脈によって異なる。


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