学び!と美術

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OriHimeから考える「デザイン」~その2
2019.12.10
学び!と美術 <Vol.88>
OriHimeから考える「デザイン」~その2
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 前回検討した「OriHimeカフェ」のデザインについて、今回は吉藤代表の言葉を手掛かりに考えてみましょう。

休んでいるロボット

 「私は、『分身ロボット』はつくっていません。同じ釜の飯を食べるという時間をつくっています」
 吉藤代表はそう語り、カフェの端を指さします。そこには、リザーブ用のロボットが二台置いてありました。よく見ると一台のロボットは首や手を動かしています。私たちが見たことに気がつくと、そのロボットはこちらを見て手を振ってくれました。時には、二台のロボット同士でおしゃべりし合っていることもあるそうです。
 吉藤代表が指さしたのは、ロボットを操作するパイロットが「休んでいる」姿でした。そして、自分は分身ロボットよりも、その時間をつくっていると言うのです。

「休み時間」をデザインする

吉藤代表と筆者 「『休み時間』が大事なのです」
 吉藤代表はかつて不登校で学校にいけない時期がありました(※1)。その経験から、勉強以上に休み時間や給食の時間の方が大切だと思うようになったそうです。確かに、学校は勉強だけでなく、休み時間に一息ついたり、放課後に友達と無駄話をしたりする空間でもあります。自分を振り返っても、そのときに笑いあったことや、些細な会話を今でも覚えています。休み時間や放課後は、勉強以上に、私が私として存在するために必要な、そしてうれしい時間だったかもしれません。
 「休み時間が大事だ」という吉藤代表の発言は、それが意識的につくられていることを表しています。「休み時間」は人が人として成立するために大切で、それを見失ってはならないし、その時間こそ、ちゃんとデザインするべきだということでしょう。
 前回、「OriHimeカフェ」は「不登校」や「ALS」などの「外出困難者という概念を消すデザイン」であり、「新しい社会参加を創造するデザイン」だと書きました。吉藤代表の言葉からすれば、そこに働く人々が「人として成立する喜びを味わう場所」という視点を加える必要がありそうです。
 「新しい社会参加を創造するデザイン」「外出困難者という概念を消すデザイン」さらに「人が人であるための時間と空間のデザイン」……「OriHimeカフェ」は、やはり「外出困難な方たちに社会参加の道を切り拓く(※2)」だけではなく、固定的な概念の問い直しや働く人の存在にも関わって、幾重にも意味や価値を練りこまれたデザインだったのです。

デザインという概念

 「デザイン・シンキング」という言葉がここ数年もてはやされています。「ロジカル・シンキング」の合理的分析と論理的思考の限界に対して、新しい価値の創造を目指す発想や問題解決のプロセスという意味で用いられているようです(※3)
 大切にされているのは、問題の発見や解決のプロセスです。人々の行動を共感的に観察し、そこで得たアイデアを発散と収束を繰り返しながら練り上げ、実際にプロトタイプをつくって実験やテストを繰り返し、有用性や実現性などを確かめます(※4)
 ここでも、デザインという言葉は、単に形や色を美しく整えるという意味では用いられていません。デザインしているのは人々の在り方や新しい生活スタイルなどです。
 「OriHimeカフェ」や「デザイン・シンキング」が教えてくれるデザイン。その概念は図画工作・美術科の題材や指導において十分活用できるように思います。

※1:株式会社オリィ研究所共同創設者 代表取締役 CEO吉藤 健太朗  https://orylab.com/about/
※2:「分身ロボットカフェ DAWN ver. β 2.0」 https://robotstart.info/2019/10/07/dawn2019-open.html
※3:デザイン思考とは、シリコンバレーのデザインコンサルティング会社IDEOが提唱した概念。ティム・ブラウン著 千葉敏夫訳「デザイン思考が世界を変える イノベーションを導く新しい考え方」早川書房
※4:スタンフォード大学d.school「デザイン思考の5段階」 https://ferret-plus.com/5532

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