学び!と美術

学び!と美術

図画工作・美術の授業、今、どうしています?
2020.06.10
学び!と美術 <Vol.94>
図画工作・美術の授業、今、どうしています?
奥村 高明(おくむら・たかあき)

東京都練馬区立光が丘第八小学校
玉置一仁先生
神奈川県横浜市立東山田中学校
荻島千佳先生
筆者

 自粛解除や感染対策など、今、小中学校はどのような取り組みをしているのでしょう。東京都の玉置先生と横浜市の荻島先生に伺ってみました(5月20日段階)。

1.学校再開の取り組み

筆者:各地で自粛解除が進み、学校も再開され始めています。先生方の地域ではどうですか?
玉置:各学校の方針は、都道府県や市区町村の方針を受けてから具体化します。その上で各学校の管理職が、色々と模索しつつも、ある程度の考えやアイデアを全職員に方針として示すことになります。教職員の中でそれをどう共有するかが課題となるでしょう。
 具体的な授業の話では、感染対策を行う上で、まず、図工室の広さが問題となります。多くの場合、大きな図工机1つに4~5人が座る感じでしょう。用具や材料も共用が多いはずです。一人ひとりが距離を取って、各自が黙々と製作する環境は整いにくいかもしれません。パーテーションをつけるということも考えられます。私は上から吊り下げる方法をとりました。使わないときは巻き上げられます。机上をバレーのネットのように透明シートで分ける方法をとっている先生もいるそうです。
筆者:なるほど、小学校では教育課程の方針を学校全体で共通理解すること、学校に応じて考えることがポイントなのですね。中学校ではどうですか?
荻島:横浜は市教育委員会の方針が出ましたので、それに沿って行います。今年から勤めている学校の美術室は以前より狭く、机が個人机なのですが、このコロナ騒動では逆に有効に活用できそうです。廊下フロアをうまく使って、換気しながらプロジェクターとスクリーンで休校中の鑑賞の課題の発表会から始めようかと考えています。教育課程については長期的な視野で考えてよいという話なので、プログラムを工夫して3年間で補える年間指導計画をこれから検討していきます。
筆者:なるほど、これまで以上に教育課程を長期スパンで見る必要があるわけですね。お二人のお話をお聞きして、今、オンラインや遠隔授業など「方法」に目が向きがちですが、まず教育課程や授業など「内容」から考えることが大事だということが分かりました。

2.休校中の取り組み

筆者:休校中は各地で様々な実践が行われたようですが、先生方の取り組みを教えてください。
玉置:私はYouTubeに動画を配信しました。その理由は、『生きた導入』が必要だと思ったからです。図画工作科でプリントやワークシートで題材を用意して、それを自宅で読んで、果たしてそれで子どもたちは『つくりたい!』って思うだろうかと。自分だったら多分できないって。図工室で行うのと違って、自宅には様々な環境があります。材料や用具を用意できるかも分かりません。いろいろな雑音が多いでしょう。その中で、そもそも説明文を読んだだけで豊かなイメージが湧くだろうかと。だから、せめて、いつもの授業と同じ視点(子どもが見る視点)の導入をビデオで用意したわけです。
筆者:なるほど、だから『導入だけ』のビデオなんですね。他の配慮事項も教えていただけますか?
玉置:まず、図工室で撮ることにこだわりました。子どもたちが、まるでいつもの図画工作の授業を受けているような感覚になって欲しかったからです。いつもの先生がいつもの場所でいつもの調子で語りかけてくること。それなら、異なった環境にいる子どもたちも、いったん動画の世界に入ってしまえばいつもの図画工作の気持ちになれるのではないかと考えたんです。
 次に題材の選択です。ネット上には様々な絵や工作のアイデアがあふれていますが、どれもいわゆる『HOW TOもの』『つくり方の説明』になっています。個人的には『ああそうか』で終わってしまいそうなものが多い印象でした。高学年の子どもたちが『くだらない』とか『つまんなそう』とか感じるのは致命的でしょう。そこで、低学年から高学年まで、意欲が湧きそうな題材を提供すること、言い換えれば『これなら、ちょっとつくってもいいかな』って思ってくれることを大切にしました。教師である自分が子どもになったつもりで考えて、意欲が湧くかどうかがコンセプトです。
 内容については、難しすぎるのはダメで、簡単なのがいいですね。まずは、入り口の間口を広く取って、誰でも軽い気持ちで取り組めて、つくっていくうちに、次第に色々と自分なりのアイデアや工夫も出てきて、『私ならこうしたい!』という気持ちになれるものが理想です。入り口は広くて出口はそれぞれが深めるという感じで、できるだけ単純な仕組みでありながら、工夫への自由さと発展性があるものがいいですね。
筆者:オンラインでも実際の授業でも配慮すべき点は同じですね。
玉置:低学年は、お家の方々が少しだけ一緒にそばに寄り添ってつくって、図画工作に関心をもって楽しんでもらえることも大事です。自宅で図画工作をするメリットはそこにありますよね。そこのあたりのちょうどよい塩梅の題材を目指しました。実際は、どこのご家庭でもありそうな材料を使い、特別な用具が要らないでつくる内容を決めるのにはけっこう苦労しました。
 あと、ケガがあるといけないので、カッターナイフの扱いや穴をあけるときなどは、低学年の子どもたちには『おうちの方に手伝ってもらって』と付け加えています。
 動画の時間は10分程度で、長くても15分程度。実際の授業でも導入にかける時間は10分程度ですから、その範囲内くらいなら飽きずに観てくれるかなと思います。動画をつくると、私も授業したような気分になりましたよ。
筆者:私も講義ビデオとかつくりますけど、できたとき達成感あります(笑)。中学校ではどうですか?
荻島:私は神奈川県の中学校美術研究会の研究部に所属しています。休校期間中は、研究部の役員3名で、休校用課題と学年別オリエンテーション資料を作成しました。休校用の課題だけを配布するのではなく、やはり美術科における成長の願いと一緒に渡すことで、「子どもたちが美術を学ぶ意味とは何か」を理解して、学びの意識をもって課題と向き合ってくれるのではないかと考えたからです。
 できた資料は、県内どこの中学校でも活用できるようにSNS等を使って公開しました。休校課題も研究部員からも募って、学びがあって力が伸ばせるものを吟味し学年ごとに複数準備し、県の中学校美術科研究会のHPに掲載しました。
 この活動から東京都の美術の先生とも課題の情報を共有することにつながり、「ぜひ動画にしたほうがいい」というお話を受けて、休校中でも美術の基礎学習は家庭でもできるんだよというメッセージの導入動画を制作して配信するに至りました(※1)
 今は、他にも新たなチームを起ち上げて、次の手を模索し、子どもたちに情報を提供したり、アウトプットの機会をもてるような仕組みを考えたりしています。
筆者:やはり中学校では、教科の先生同士の横のつながりが大事なんですね。それが、都道府県を超えたり、新しいチームができたりとダイナミックに展開していくのは魅力です。美術館との連携もある計画しているのではないですか?
荻島:これまでやってきたことをベースに展開したいと思っています。以前から美術部員を学期に何回か美術館へ連れて行くようにしていました。参加者はSNSを使ったり紙に書き起こしたりなどして、「今日出会った作品の中で一番気に入ったものの鑑賞、自分が何に惹かれたか」を文にして送ってもらうようにしており、それに対して私が返答をするスタイルを作っていました。そしてこの情報は参加者全員に共有できるようにし、お互いの視点から学び合えるように工夫していました。このスタイルは、休校中(もしくは休校開け)でも、展開できるのではないかと考えています。
筆者:「こんなときだから」と無理をするのではなく、「今までしてきたこと」を無理なく発展させるという視点が大事なのですね。

3.身近に働く図画工作・美術の力

筆者:さて、このような時期には、学習量に対応するような狭義の学力がクローズアップされるような気がするのですが、その点で心配はありませんか。
玉置:授業が成り立たない今の状況では仕方がないところもありますが、だからと言って、知識重視というか、学習を時間数や量といったもので測ってしまうというか、それだけで学びが成立するというのはありえないと思います。自宅学習においても、図画工作・美術を軽視するようなことがあってはならないでしょう。より深い「知識の構造」ということから考えると、図画工作は必要が無いというよりも、むしろ重視すべきだろうと思います。
荻島:休校課題の中に、美術研究会の研究部が作ったロゴ・クイズ(※2)を提出不要の課題として出してみました。すると中学生だけでなく、小学生から大人まで巻き込んで大人気になり、家族で考え、膝を突き合わせて話し合う機会が生まれたそうです。休校課題を通して、美術には人を幸せにする力があると実感しました。生活の中から美術を見つけるというか、みんなが美術の力を働かせるというか、美術は身近にあるんだなと実感してもらえたと感じています。
筆者:今回の件で、これまで私たちは学校や美術館など、「そこに、来られる人たちだけを相手にしてきたのではないか」と思いました。いろいろな理由で「学びの場所」にそもそも「来ることができない人々」に十分な手立てをしてきたのかなという反省があります。
荻島:学校に来られなかった子どもたちへの手立ては確かに薄かったと思います。でも今は全員が来られない状況です。そのせいで、私は、子どもの気持ちを想像することが増えました。例えば、今何しているのかな、何か日常に潜む面白いものや美しいものを探しているのかな、ということです。
 そんなとき、先日1年生の保護者から「うちの子、美しいものは花とか見つけられるんですけど、面白いものっていうのに全然目がいかないんです。大丈夫でしょうか?」と電話がありました。私は、「それぞれが持ってくる一番を発表し合う活動をする予定です。大丈夫ですよ」と授業計画を話しましたら安心していただけました。
 子どもたちは何も考えていなかったのではなくて、新たな発見や新しい世界との出会いがあったはずなんですね。そんな2か月だったのだと願いを込めて、彼らを迎えるべく美術室整備にいそしんでいます。
筆者:私たちに「子どもたちは休校中に何もしていなかった」という考えで始めるのではなく、「子どもたちはいろいろなことを感じ考えて」いたという態度で始めることが求められているわけですね。今日はありがとうございました。

※1:日文の“美術の先生のコンテンツ”にも掲載
https://www.nichibun-g.co.jp/textbooks/c-bi/artroom/teacher/
※2:ロゴクイズとは、企業のロゴのひと文字を切り出してどこの会社かどの商品かを当てるクイズです。神奈川県公立中学校教育研究会 美術科部会(神中美)研究部のページ
http://jb-net.biz/kyuukou-kadai/rogo1.pdf

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