学び!と美術

学び!と美術

題材とステージ
2020.07.10
学び!と美術 <Vol.95>
題材とステージ
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 題材を考える際に、ステージという考え方があります。あまりなじみのない言葉かもしれません。私の理解では、「新しい自分が生まれる場所」あるいは「子どもがエッと思うところ」です。本稿ではステージについて検討してみましょう。

ステージとは何か

 ステージは、2009年頃に知った概念です。「図画工作科や美術科の授業は、シンプルな題材が多いが、子どもがより飛躍するためにはステージを複数組み込む必要がある」という指摘でした(※1)
 図画工作・美術では、子どもの発見や創造性を引きだす手立てが、題材に組み込まれています。例えば「紙を破る→その形から発想して描く」「粘土を切る→その行為を発展させてつくる」などです。多くの題材は、このような「手立ての提案」から「活動に移る」という展開で進みます。ただ、ステージという考え方では、この場合「一つのステージ」ということになります。
 一方、複数のステージが組み込まれている題材もあります。自分の活動を新しい視点で見直したり、時にはそれまでの活動をくつがえしたりするような手立てが用意されているのです。実現していると思ったのは、以下のような授業でした(※2)
 まず、5m以上に伸ばしたロール画用紙に、12人くらいでローラー、刷毛、筆、ひも、手や指などを使って「私たちのすてきな楽しい色の世界」をつくります。子どもたちは相互の活動に触発されながら、様々な色や形の美しさ、動きなどを協働的に実現していました。でも、これは一つ目のステージでした。
 次に、先生は、その世界から「好きな部分をハサミで切り取ってごらん」と提案します。子どもたちは「え~、切っていいの~」と言いながら、思い思いに画用紙を切っていきます。そして、集めた紙を材料にして、一人一人が自分の好きな「私の楽しい世界」をつくりはじめます。スタンプや網、糸など使える材料や用具も増えます。これが2つめのステージです。
 その活動が中盤に差し掛かったころ、先生は、そこに「私の世界にいたらいいな、きてくれたらいいなと思うものを加えてみよう」と提案します。先生が用意したのはガラス細工の人形やミニチュア、何かの欠片などでした。子どもたちはそこから選んだり、自分で考えたりした「主人公」を通して、目の前の世界を見つめ直します。そして、自分の世界をさらに変化させていきました。これが3つめのステージだなと思いました。
 どのステージにも子どもの驚きがあり、子ども自身の殻を破るような働きがありました。それぞれのステージで子どもが飛躍していく様子を感じた覚えがあります。

ステージを取り入れた実験

 以来、「ステージ」という考え方を取り入れて話をしたり(※3)、大学で実験的な授業を行ったりしました(※4)。本稿では大学の授業を紹介しましょう。
 まず、「何かをつくろうとか考えずに、画用紙を切ることを楽しみましょう」と提案します。グルグル、チョキチョキ、スイスイ…用具で紙を切る行為に浸りながら、「雪が降るみじん切り(写真1)」「自然に紙が丸まっていく細切り(写真2)」など、様々な技法が生み出されます(※5)。これが、第1ステージです。

写真1写真2

 次に、自分の切った画用紙の形から、自分の世界をつくろうと提案します。これが第2ステージです。紙を構成的に配置するだけなのですが、顔のような具体物(写真3、4)、抽象的な図形(写真5)など、様々な作品が生まれます。

写真3写真4

写真5

 第3ステージは、それを「壊す」提案です。当然「え~っ」というブーイングの合唱になりますが、気にしません(※6)。「せーの!」と言って、自分たちの机のものを一つにまとめます(写真6)。そして、「そこから一つの世界をつくってごらん」と提案しました。これが第3ステージです。自分のアイデアが生きている場合もあれば、意味が変わっている部分もあり、様々な作品が生まれていました(写真7、8)。

写真6

写真7写真8

 このときは他のクラスで最初からグループを組織し「テーマを決めて一つの作品をつくりましょう」という対照的な授業も行っています。結果はとても目的性の強い活動になり、個々の学生は「白雪姫の雪づくり係」「かぼちゃの馬車係」などに分かれて活動しました。つまらなそうに延々と雪を切っていた一人の学生の姿が忘れられません(写真9、10)。また、ハサミの技法についても、あまり工夫は見られませんでした。「ハサミは思いのままに切っているときが、一番ハサミの使い方を工夫しているのだなあ」「グループによる学習活動では、個が生きることもあるけれど、個が埋没することもあるなあ」と思いました。

写真9写真10

ステージをどのように取り入れるのか

 ステージという考え方は手立てや題材などを検討することに役立つように思います(※7)
 例えば、「並べてみよう」「切ってみよう」などシンプルな提案で始まる授業があります。発想だけでなく、材料や技法やなども子ども自身が生み出すことになるので、好きな授業方法です。ただ、ステージは一つで「個々の子どもの資質・能力に頼りすぎる」「教師の想定内で進み、結局子どものうまくつくろうという意識を誘発する」などがおこる傾向があります。
 中学校美術科では、作品画像をステージとしてとらえることができるでしょう。令和3年度新版教科書に紹介されている「生徒作品(写真11)」や「原寸大の美術作品(写真12)」からは、生徒の驚きの声が聞こえてきそうです。子ども自身が自分の殻を破るために、どのタイミングで作品を提示するのかは重要な問題だと思います。

写真11 令和3年度新版教科書『美術 2・3下』p12写真12 令和3年度新版教科書『美術 2・3下』p48-49

 また、ステージでは、他者の存在や協働性なども重要なポイントの一つです。自分と他者は常に同時に生まれます。協働的な負荷は発想や構想の飛躍に関わります。グループ活動をどの場面で、どのような役割で組み込むかは、題材構成の大事な視点でしょう。今のような「制限のある状況」だからこそ、配慮すべきことのように思います。
 ステージを視点に「自分のつくっているものが、新鮮に見える手立て」「子ども自身が生まれ変わる場所」などについて考えてみませんか?

※1:元文部省視学官西野範夫先生の指摘。2009年東京都内の研修会における講演より。
※2:2008年9月10日、東京都図画工作専科の八田先生の授業(4~6時間題材)。八田先生は「学びのステージ」と呼んでいます。『新しい材料や用具の紹介、「そこに来てほしい友達のかたちやイメージ、あったらいいなと思うもの」を描く提案などによって、子どもは新たな思いで表現をひろげます。「新しい学習のステージ」のはじまりは、「自分の表現を育てながら自分を育てていってる」こと、つまり「新しい私」につながります。学ぶこと=新しい私なのです。それが、学習指導要領の言う「深い学び」だと思います』と述べられています。
※3:2009年から13年頃まで、授業研究会や指導主事研修会等で「導入→展開→終末と進むたびに子どもの意欲が下がっていく授業」ではなく、子どもが「今日は何が起こるかな?」という気持ちで授業を受けることができて、進めば進むほど、「思ってもいない考えや技能が生まれ、新しい自分に出会えること」が大事で「そのために学習のステージを題材に組み込む必要がある」という話をしていました(図参照)。

※4:2011年聖徳大学児童学部3年生における授業。
※5:実際に実践する場合、小学校では道具に浸る行為を重視し、形の面白さに着目するため、白画用紙に限定した方がよいでしょう。中学生以上であれば色の要素を加えることも考えられます。
※6:子どもの「え~っ」は「しょうがない、分かったよ」という了解の声でもあります。
※7:その他、新しい材料をいつ提示するか、活動場所をいつ変更するかなどの視点にもなるでしょう。また、時数の問題もありますが、年間指導計画を考える際に、年間に1、2回は複数のステージがある題材を組み込んだり、題材同士を関連付けたりすることもできます。

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