学び!と美術

学び!と美術

「先生! 評価計画の作成で悩みます……」
2021.01.12
学び!と美術 <Vol.101>
「先生! 評価計画の作成で悩みます……」
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 大学で「図画工作教育法」という授業を担当しています。学習指導要領や題材等を理解し、指導案が書けるようになるという内容です。学習指導要領の目標→図画工作科の内容→評価規準→指導方法→指導計画→評価計画と順序良く学習していきます。その中でも、評価計画は、実際に評価したことがない学生を悩ませるようです。本稿では、学生の感想を取り上げながら「評価」について考えてみましょう。

1.評価で悩むのは正しい

指導案の目標や指導計画などと評価を連係させるのが大変でした。評価というのは、教師の指導方法を振り返るきっかけになるのだなあと思いました。

 学生は、具体的な「評価計画」を書く場面になって、はじめてこれまでの内容を見つめ直すようです。「この題材でいいのかな……」「目標や指導観などは妥当かな」など、評価は自分が設定した題材全体の「振り返り」になっているわけです。そうであれば、評価で行き詰ったり、困ったりするのは正当な行為だと言えるでしょう。

評価を通して、指導の一つ一つの場面や単元の目標などを再設定できることがわかりました。評価を考えることも授業を作るための大事な役割なんですね

 全くその通りです! すべての教科等において評価は、教師の「振り返り」に役立ちます。

2.指導と評価は、ほぼ同時に行われます

評価をすることに一生懸命になって指導がおろそかになってしまいそうで心配です。

評価方法が難しすぎると授業や指導に手が回らなくなってしまうと思いました。

 授業が始まったら、評価のことは考えなくても大丈夫! 指導を頑張ればよいのです。
 なぜなら、人は、誰かに何かしたとき、その直前に相手を評価しているからです。例えば、何か工夫した子に「へえ、そうしたんだ」と声をかけたとすれば、それは「工夫が妥当な状態」だと認めた証拠です。のこぎりの取扱いに困っている子に駆け寄ったとすれば、それは先生が「支援しなければならない状況だ」ととらえたからです。どちらの場合も、指導する直前に評価が行われています。
 指導と評価を分けて考えないことがコツかもしれません。授業中は、子どもの支援や助言などに専念してください。後で落ち着いたときに、自分のしたことを思い出し、座席表や名簿、フィールドマップなどにメモするだけでも十分な評価資料になるのです。

3.評価方法はたくさんあります

小学校に補助員として通っています。「子どもたちの成績をつけることは難しそう」、「授業を行うことに精一杯で、毎時間子ども一人一人の評価を行うことはとても大変そう」だと、いつも感じていました。でも今は「自分を助けてくれるような評価方法は沢山ある! もっと気持ちを楽に考えよう」と思っています。

指導案の評価の部分を考えることは、子どもたちの成績を決めることにつながるという責任を感じますし、難しく感じることもあります。でも、活動の流れを見たり、学習指導要領の解説などの様々な資料を参考にしたり、子どもたちの姿を思い浮かべたりしながら丁寧に作成していけば評価できると思いました。

 指導にいろいろな方法があるように、評価にもいろいろな方法があります。様々な資料に詳細に書いてありますし、年々、新しい方法が開発されています(※1)。その中から、題材や子どもの状態に応じた最適の方法を選べばよいのです。指導と同じように、経験をつめば次第に身に付きますから焦る必要もありません。
 大切なのは教師の考え方や子どもへの態度です。指導案を書くときは、我がことのように「子どもたちの姿を思い浮かべ」、思いを寄せながら評価方法を考えましょう。方法はあくまでも方法、子どもと一緒に学習活動を楽しむことが一番大切です。

4.評価は長期スパンで

図画工作は他の教科と違って、正解や不正解があるものではない教科だと感じているため、評価するのは難しいと思いました。そのため、一回一回の授業ごとの評価ではなく、長期的な視点に立ち、1年間で子どもがどれだけ成長したのか、1年前は出来なかったけど、1年たったらこれができるようになったなどという評価が大事だと思いました。

 そう、そう。毎時間ごとの評価は、それほどこだわらなくてもいいのです。図画工作は、題材ごとに評価をまとめ、それを総括して、学期や年間の評価が決まります。後で修正することも可能です。長いスパンで考えればよいと思います。
 また、先生もスーパーマンではありません。毎回の授業で、すべての子どもをとらえられるわけではありません。そんなときは、「ごめんね、うまく見ることできなかったよ」という気持ちでA、B、Cを付ければいいと思います。「自分は完全ではない」という気持ちを持ちつつ、まずは題材レベルの評価、次にその積み重ねと、大きく構えればいいと思います。
 なお、国立教育政策研究所が『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料』を出していますが、A、B、Cと判断する部分が学生には難しいようです。そこで、次のように説明しています。

  • 「え~っ凄いなあ」と思ったらA
  • 「ふんふん、なるほどね」と思ったらB
  • 「あ~、ちょっと待って」と駆け寄ったらC

 「先生思いつかなかった」と想定を超えていたらA、評価規準として設定した想定内であればB、即座に支援すべき状況がCと、簡単にとらえることが大切です。それを詳しく記述しているのが指導資料・事例集だと考えてはどうでしょうか。

5.評価は子どもに温かく寄り添う活動です

ひとりひとりの感性の違いや、絵をうまくかく技術、思っていることを表現する能力など評価観点はたくさんあります。適切な評価というのは、完成した作品の上手い下手だけを見て評価することではなく、「子どもをよく見る」ということだと思いました。

 その通り。評価は、本来的に温かいものです。項目に従ってひたすらチェックするような、冷たい作業ではありません。その子に寄り添って「どんな支援をしていくか」「どのように子どもの良さを見付けるか」など、子どもをよく見て「その子の伸び」や「あの子の克服」などをとらえたいものです。
 そのために、その子に同化していくような姿勢が必要なのです。

どんなことを感じながら取り組んでいるのかを、児童と先生が、お互いに共有しながら授業を進めたいと思いました。

 頼もしい! 評価は、教師と子どもがお互いに感じたことや考えたことを共有する活動なのですね。授業という複雑な資源が絡み合う全体的な活動の中で、評価を通して、先生と子どもが認め合える温かな関係が成立できたら、それは素敵だと思います。

6.評価は、子どもとの楽しい対話

評価計画を考えることで、実際に自分が指導している姿がイメージできて、とても楽しかったです。子どもたちがこんなところを頑張っているからと座席表に記録したり、工夫しているところをカメラで写真に収めたりすると思うと、やはり教師になりたいと思えました。

児童が活動する風景を想像して評価計画を作成しました。子どもが目を輝やかせながら作品に取り組んでいる様子が浮かんできて、そういうところを評価できる人になりたいなと感じました。

 よく分かっていますね~(^^)。実際に、評価は楽しい活動です。大学の授業もオンラインになって、課題に対する採点や教員コメントなどが膨大な量になりました。でも、採点・コメントは学生との対話のようで、顔は見えないのに、顔が見えるような気持ちになる楽しい活動だと改めて思いました。図画工作の授業も同じです。評価は、子ども一人ひとりとの対話です。その対話をまとめたものが手元に残る評価資料だと考えればいいと思います。

 造形活動や作品などは、本来、その子だけで達成されたわけではありません。友達、材料や用具、場所、学習課題など様々な資源が織りなして生まれるものです。でも、評価は子ども一人ひとりに行わないといけなくて、それは致し方のないことです。
 だからこそ、評価を積極的にとらえたいと思います。「評価を通して授業を見つめ直す」~評価は教師自身のメタ認知活動です。「評価を特別視しない」~評価は不断に行われている活動であり、指導を頑張れば、自然に評価も頑張っています。「評価を通して教師の姿勢を考える」~評価は教師自身が変化する可能性を持っています。「評価は楽しい」~評価は子どもを感じ、対話する行為です。みなさんもぜひ評価を楽しんでください。

※1:学び!と美術<Vol.48>「図画工作の授業(3)~評価方法のいろいろ」
https://www.nichibun-g.co.jp/data/web-magazine/manabito/art/art048/
「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料
・図画工作 https://www.nier.go.jp/kaihatsu/pdf/hyouka/r020326_pri_zugak.pdf
・美術 https://www.nier.go.jp/kaihatsu/pdf/hyouka/r020326_mid_bijyut.pdf