学び!と美術

学び!と美術

図工は人生を生きやすくする
2024.06.10
学び!と美術 <Vol.142>
図工は人生を生きやすくする
聖心女子大学 教授 水島尚喜

図工の時間、子どもは何を楽しんでいて、教師は子どもにどう寄り添えばよいのでしょうか。そして、子どもたちは図工でどのような力を育んでいるのでしょうか。水島尚喜先生に伺いました。

子どもが楽しんでいるのは「発見」

3歳くらいの子どもがかいたキリンの絵を見たのですが、キリンの首は長いということを一生懸命表そうと、四角をいっぱい組み合わせてかいていたんです。

たぶんその子がかけたのは丸や四角だったんだろうと思いますが、「どうすればキリンをかけるだろう。あ、こうすればかけるぞ!」というその子の発見がその絵にはあって、ものすごく感動的でした。

それって、知識をかいたんじゃなくて、表現だから。「自分なりの方法でキリンを表現した自分自身と出会えた」という楽しさが伝わってくる絵だから、感動したんです。

もしそこで大人が「キリンはこうやってかくんだよ、ほら上手にかけたね」と口を出してしまったら、おいしいところを根こそぎもっていってしまうことになる。

子どもに、おいしい思いをさせなきゃ!子どもたちが楽しんでいるのは、「すごいことを思い付いた!素敵なものを見付けた!」という発見であり、そんな発見をした自分自身をも見付けているのです。

子どもの「!」を一緒に楽しむ

子どもたちって、本当にいろいろなものを見付けますよね。タンポポの綿毛、ぽっかり雲、シャボン玉の表面にできた虹色。

令和6年度版教科書「ずがこうさく」1・2下p.7より

まど・みちおさんが、世界は「!」と「?」でできているとおっしゃっていましたが、本当にその通りで、まさに子どもたちはたくさんの「!」と「?」を発見しています。

世界を驚きのまなざしで見るセンス・オブ・ワンダーを、子どもたちはみんなもっている。でも、大人になるとだんだん自分の中にあるセンス・オブ・ワンダーを忘れてしまう。

センス・オブ・ワンダーを保つ秘訣は、先生が一緒になって子どもの見付けたことを「すごいね」って共感してあげることです。子どもの隣で、大人が鏡になって返してあげる。

そのためには、先生の「内なる子ども」を呼び覚ます必要があります。子どもたちが目を輝かせて世界にのめり込んでいる様子を、先生も一緒になって楽しんでください。

自分なりのやり方でいられるのが図工の時間

効率的、合理的であることが求められる場面が多い学校の中で、図工はそうではないあり方が許される時間です。

図工の時間、子どもたちはよくお話をつくっていますよね。それはとても自然なことなんです。

材料を何かに見立てたり、組み合わせたり、つながりを探したりという、その場にあるものをブリコラージュすることで新しい物語や価値をつくりだす。

そんな「野生の思考」ができるのが図工の時間です。「野生の思考」は、人間本来の思考方法なのです。

子どもたちが「野生の思考」を発揮し、新しいことをどんどん思い付くような時間にするためには、先生が「何をやってもいいんだよ」という構え、「図工の身体」のようなものをもつことが大切です。

そもそも絵って、自由なんです。自由に自分を表現できる。鼻歌を歌いながらかいてもいいし、寝そべってかいてもいい。鉛筆の持ち方だってそう。かき方はいろいろあっていい。

令和6年度版教科書「ずがこうさく」1・2下p.7より

「絵をかくのが上手になりましょう」なんて学習指導要領では言っていません。上手い下手は一つの見方。「こんなすごいことを思い付いた!という見方があるよ」と示してあげれば、子どもは「やり方っていろいろあるんだ」ということを身に付けていく。

図工は、人の数だけやり方があり、生き方があることを理解するための教科と考えてみてはどうでしょう。「こうしなきゃいけない」と思って生きるのはつらいですよね。

図工を身に付けると、生きやすくなるんです。

※今回は、「図工のみかた(01号)」で連載した「図工ってなんだ?」の記事を抜粋し、再編集して掲載しています。元記事はPDF、または電子ブックでご覧いただけます。
https://www.nichibun-g.co.jp/data/education/zuko-mikata/zuko-mikata01/
※水島先生との出会いに大きな影響を受けたとお話されるカメラマン、池田晶紀さん(株式会社ゆかい代表)のインタビュー記事はこちらから。
https://www.nichibun-g.co.jp/data/web-magazine/manabito/art/art139/

水島尚喜(みずしま・なおき)
1957年、富山県生まれ。東京学芸大学附属竹早小学校を経て、現在聖心女子大学文学部教育学科教授。文部科学省の学習指導要領に携わり、美術教育の発展に努める。令和6年度版日本文教出版小学校図画工作教科書の監修者の一人。