学び!とシネマ

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ベイビーズ-いのちのちから-
2012.05.02
学び!とシネマ <Vol.73>
ベイビーズ-いのちのちから-
二井 康雄(ふたい・やすお)
(c)2010 Chez Wam/Thomas Balmes

(c)2010 Chez Wam/Thomas Balmes

 ナミビア、モンゴル、日本、アメリカで、赤ちゃんが生まれる。赤ちゃんたちの仕草、泣いたり眠ったりの表情に、思わず微笑みがこぼれる。どの国の赤ちゃんも、それはもう、可愛いのである。
 映画「ベイビーズ-いのちのちから-」(エスパース・サロウ配給)は、生まれたばかりの赤ちゃんたちが、お座りから、ハイハイを経て、声を出し始め、一人で立ち上がり、歩き出すまでの約1年間を描いたドキュメントである。
 ナミビアのポニジャオは女の子。ママのおっぱいを飲んでいる。モンゴルのバヤルシャルガルは男の子。生後すぐ、バスタオルに包まれて退院、草原の家に帰っていく。東京のマリは女の子。ママに抱かれている側にネコがいる。アメリカのサンフランシスコの郊外、オークランドで生まれたハティは女の子。やはり近くにネコがいる。
 1時間19分、映画は、赤ちゃんたちの成長を記録していく。説明のナレーションやセリフは、一切ない。ただもう、淡々と、赤ちゃんたちを写し出す。
 生活環境はそれぞれ異なる。ナミビアとモンゴルは自然の残る場所だが、アメリカのオークランドと日本の東京は都会である。その風俗や生活習慣は、それぞれ異なっている。
 都会生まれのマリやハティが、どのように育つかの見当はつくが、ナミビアやモンゴルでは、いくつかの独特の育児のありようが、丹念に描かれる。

(c)2010 Chez Wam/Thomas Balmes

(c)2010 Chez Wam/Thomas Balmes

 ポニジャオは裸で育っている。うんちは、とうもろこしの芯で、拭き取る。バヤルシャルガルには、一度にたくさん口のなかに入らないよう、おしゃぶりにはマッチが刺してある。おむつなどはないから、仰向けになったバヤルシャルガルは、そのままおしっこを上に向けて出す。
 ポニジャオは、上のお兄ちゃんといっしょに、ママのおっぱいを吸う。儀式の一種だろうか、顔に母乳が飛ぶ。ママは、母乳をポニジャオの顔になすりつける。地面に這い蹲って、石などを舐めたりするが、元気そのもの。
 羊の群れがいる。散髪は、ママが包丁で剃る。妊娠中にお腹に塗った赤い泥のようなものを、ポニジャオの頭にも塗る。
 赤ちゃんたちは、少しずつ成長する。手を床について、起きあがろうとする。掃除機の動きをキョロキョロ眺める。ガラガラをじっと目で追う。水たまりで遊ぶ。犬やネコに触れたり、ハエの行方を目で追う。
 やがて、赤ちゃんたちは、ハイハイを始める。国こそ違え、赤ちゃんたちの成長の経過は、同じである。やがて、みんな、声を出し始める。
 積み木遊びがうまくいかない。トイレットペーパーを引っ張りだす。その都度、声を出し、喋りだそうとする。
 やがて1年。そろそろ、立ち上がろうとする。赤ちゃんたちは、たくましく成長していく。
 バヤルシャルガルは、羊のそばで、立とうとする。ポニジャオは、柱に掴まって、立とうとする。ハティは、ドアの取っ手に掴まって、立とうとする。マリは公園の芝生で、立とうとする。
 感動的なシーンが続く。人間、だれしもが、かつては赤ちゃんだった。大人は、人を騙したりするが、赤ちゃんは無垢そのもの。

 若い人は、いずれ親になるだろう。ぜひ、見て欲しい。すでに子供のいる人は、懐かしく見ることと思う。眠り、泣き、怒り、笑う赤ちゃんたちから、いのちの尊さ、逞しさが伝わってくる。映画は、優しい微笑みを浮かべて、見ることが出来る。
 監督のトマス・バルメスは言う。
 「二度と繰り返すことのない唯一の瞬間をとらえるため、人間が五感でまだ体験していないことを体験する“初めての瞬間”にそこに居ようとつとめました」。
 希有なドキュメントである。

2012年5月5日(土) 新宿ピカデリーico_linkほか全国ロードショー

■「ベイビーズ-いのちのちから-」

監督:トマス・バルメス
原案・製作:アラン・シャバ
出演:子供たち/ポニジャオ(ナミビア)、マリ(日本)、ハティ(アメリカ)、バヤルジャルガル(モンゴル)、両親/タレレルアとヒンデレ(ナミビア)、セイコとフミト(日本)、スージーとフレイザー(アメリカ)、マンダフとプレフ(モンゴル)
2010年/フランス/79分/カラー/デジタル/ビスタ
原題:BABIES
推薦:社団法人日本助産師会
協賛:たまごクラブ ひよこクラブ
提供:紀伊國屋書店 メダリオンメディア
配給・宣伝:エスパース・サロウ