学び!とシネマ

学び!とシネマ

コッホ先生と僕らの革命
2012.09.07
学び!とシネマ <Vol.77>
コッホ先生と僕らの革命
二井 康雄(ふたい・やすお)
 (C)2011 DEUTSCHFILM / CUCKOO CLOCK ENTERTAINMENT / SENATOR FILM PRODUKTION

(C)2011 DEUTSCHFILM / CUCKOO CLOCK ENTERTAINMENT / SENATOR FILM PRODUKTION

 サッカーの強豪国ドイツに、いつ、どのようにしてサッカーがもたらされたのか。映画「コッホ先生と僕らの革命」(ギャガ配給)は、フィクションではあるが、ドイツ・サッカーの父と称される実在の人物、コンラート・コッホが、どのようにドイツにサッカーを伝えたかを描いていく。
 ドイツの帝国学校は、エリート校ではあるが、金持ちの子弟だけではなく、労働者階級の生徒もいる。生徒の間には、いじめも存在する。コッホ先生(ダニエル・ブリュール)は、英語の教師として赴任するが、イギリスで考案されたサッカーを利用して、英語を教えようとする。学校では、規律、服従を重視するが、コッホ先生はサッカーを通して、フェアプレーと仲間を敬愛する精神を伝えようとする。
 生徒たちは、とまどいながらも、サッカーの面白さに魅せられていく。コッホ先生を招いた校長先生のメアフェルト(ブルクハルト・クラウスナー)は、なにかとコッホ先生に肩入れするが、コッホ先生と、古い慣習を維持しようとする後援会会長たちとは、いろいろと摩擦が生じはじめる。

 (C)2011 DEUTSCHFILM / CUCKOO CLOCK ENTERTAINMENT / SENATOR FILM PRODUKTION

(C)2011 DEUTSCHFILM / CUCKOO CLOCK ENTERTAINMENT / SENATOR FILM PRODUKTION

 とはいえ、まったくシリアスなドラマではない。ドイツ帝国学校の古い慣習と、サッカーを教えようとするコッホ先生の理念とのズレが、笑いを誘う。戦争では、ドイツはフランスに勝利、今や、イギリスが敵といった時代背景がある。しかもサッカーは、イギリスで考案されたスポーツで、ドイツ人から見れば、ボールを蹴るなど、野蛮極まりない。この落差の数々に、多くの笑いが生まれる。巧みに配置されたユーモアに、映画の作り手セバスチャン・グロブラー監督の、人間を見つめる眼差しの暖かさを感じる。
 「貧富の差は、いつの時代、どの国にも絶対的に存在するが、サッカーを楽しむ上では無縁、貧富の差はない」と、映画は、おだやかに語りかけてくる。
 1874年のドイツ、ブラウンシュヴァイク。エリートの多く通うカタリネウム帝国学校が舞台である。ここに、イギリスのオックスフォードに留学していたコッホ先生が、ドイツ初の英語教師として赴任してくる。コッホ先生はカタリネウムの卒業生だ。これからは通信の時代、英語の教育が必要になるとの実験的意味もあっての人事である。 
 コッホ先生は、生徒たちにイギリスのイメージを聞く。野蛮だ、女帝がいる…。別に間違ってはいないが、偏見だとコッホ先生は思う。
 級長のフェリックスは、学校の後援会長の息子で、奨学金で通学するヨストをいじめている。
 夜、パーティの席で、コッホ先生は、学校全体の権力者である後援会長に出会う。規律と服従がすべてと言う会長に、未来は子供たち自身が決めることと、コッホ先生は答える。
 優秀なクラスの生徒たちだが、コッホ先生の英語の授業に、深い関心を示さない。「3分以内に体育館に集合」とコッホ先生。英語で「これはサッカー・ボールだ」と、ボールを蹴り、「これがゴールだ」と、「蹴る」ことを教える。
 生徒たちは、たちまち、サッカーに魅せられる。いつもイジメの対象になっているヨストは、サッカーの才能があって、仲間からも一目置かれるようになっていく。嫉妬からか、フェリックスだけは面白くなさそうである。

(C)2011 DEUTSCHFILM / CUCKOO CLOCK ENTERTAINMENT / SENATOR FILM PRODUKTION

(C)2011 DEUTSCHFILM / CUCKOO CLOCK ENTERTAINMENT / SENATOR FILM PRODUKTION

 ある日、コッホ先生の授業を見ようと、後援会長たちが、教室にやってくる。誰もいない。
 そして、体育館で、生徒たちがサッカーに興じているのを見る。ちょっとした事件が起きる。いきさつを理解できない後援会長は、たちまち、サッカー禁止令を校長に命じる。さて…。
 いまや市民権を得たサッカーだが、その黎明期のドイツでの話である。時代の変遷の節目節目には、教育の内容、質は、変化せざるを得ない。コッホ先生の行動や判断から、今なお、学ぶべきこと多々である。もちろん、サッカーや教育にとどまる話ではない。フェアプレーの精神、仲間や敵すら、人として敬うことは、時代を超えて、永遠の真理であることを、映画は伝える。

2012年9月15日(土)、TOHOシネマズシャンテico_link他全国順次ロードショー

■『コッホ先生と僕らの革命』

監督:セバスチャン・グロブラー
脚本:フィリップ・ロス、ヨハンナ・シュトゥットゥマン
原案:セバスチャン・グロブラー、ラウル・ライネルト
>出演:ダニエル・ブリュール、ブルクハルト・クラウスナー、ユストゥス・フォン・ドーナニー、トマス・ティーマ ほか
>2011年/ドイツ映画/114分/カラー/シネスコ/ドルビーデジタル
字幕翻訳:吉川美奈子
>>原題:Der ganz grose Traum
提供・配給:ギャガ
後援:ドイツ連邦共和国大使館