学び!とシネマ

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田園の守り人たち
2019.07.04
学び!とシネマ <Vol.159>
田園の守り人たち
二井 康雄(ふたい・やすお)

©2017 – Les films du Worso – Rita Productions – KNM – Pathé Production – Orange Studio – France 3 Cinéma – Versus production – RTS Radio Télévision Suisse

 一昨年、2017年の第30回東京国際映画祭のワールド・フォーカス部門で上映された「ガーディアンズ」が、このほど、「田園の守り人たち」(アルバトロス・フィルム配給)とのタイトルで公開される。風格ある傑作で、公開を待ち望んでいた一本だ。
 舞台はざっと100年ほど前、第一次世界大戦さなかのフランスの農村だ。いつの時代もそうだが、およそ戦争でひどい目にあうのは、銃後の女性たちや老人、子どもである。映画は、ほとんどの馬が供出され、残された女性たちが、必死に農作業を続け、なんとか生き延びていく過程を、美しい田園風景を背景に、丁寧に掬い取っていく。
 もう老女である未亡人のオルタンス(ナタリー・バイ)は、二人の息子を戦争にとられ、娘のソランジュ(ローラ・スメット)と農場を守っている。ソランジュの夫もまた、戦争に従軍している。冬が来る前に、刈り入れがあり、種まき仕事がある。オルタンスは、孤児の若い女性フランシーヌ(イリス・ブリー)を雇い入れる。オルタンスは、まじめで仕事熱心なフランシーヌを、家族同様に扱う。
 戦闘シーンはほとんどないが、農村に戦争の悲惨さがのしかかる。ソランジュの夫はドイツ軍に捕らえられ、長男は戦死する。一時帰郷で戻っていた次男ジョルジュ(シリス・デクール)は、誠実なフランシーヌに想いを寄せるが、戦争は続いている。ジョルジュは、再び戦場に戻っていく。
©2017 – Les films du Worso – Rita Productions – KNM – Pathé Production – Orange Studio – France 3 Cinéma – Versus production – RTS Radio Télévision Suisse 夫の帰りを待ちわびるソランジュは、駐留しているアメリカの兵士とのことで、問題を起こす。戦時下といえども、生きてあるかぎり、人は人を愛する。さまざまな状況に直面しても、オルタンスは、必死に農場と家族を守ろうとする。
 オルタンス、ソランジュ、フランシーヌと、世代の異なる女性の思想、価値観の相違が、不条理な戦争を背景に、浮かび上がる。戦争は続いていても、やがて時代は、そして農村は、少しずつだが、変化を見せ始める。
 女優たちの、少ないけれど、練られたセリフが、時代の変化を雄弁に物語る。また、女優たちの表情に込めた、生き抜いていこうとする思いが、ひしひしと伝わってくる。
 三世代にわたる女優たちが熱演する。オルタンスを演じたナタリー・バイが、貫禄じゅうぶん。フランソワ・トリュフォー監督の「映画に愛をこめて アメリカの夜」以来の大ファンである。なんと、スティーブン・スピルバーグ監督の「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」では、レオナルド・ディカプリオの母親役で出ていた。最近では、グザヴィエ・ドラン監督の「わたしはロランス」や、「たかが世界の終わり」でも健在ぶりを示している。
 娘のソランジュ役のローラ・スメットは、ナタリー・バイと大歌手ジョニー・アリディとの間に生まれた娘である。実際の母娘が、劇中でも母娘に扮する。お互いに幸せなことだろう。
 フランシーヌを演じたイリス・ブリーは、オーディションで選ばれ、大女優の母娘を相手に、気後れなく、堂々と渡り合う。
 原作がある。学校の教師で、戦場経験もあるエルネスト・ペロションの書いた同名小説を基に、監督のグザヴィエ・ボーヴォワが脚本に参加する。ボーヴォワ監督は、「神々と男たち」や、「チャップリンからの贈り物」を撮ったが、俳優としても有名で、「ポネット」や「永遠のジャンゴ」などに出ている。監督作、出演作のいずれもが、フランス映画らしい、小粋で端正なたたずまいの映画ばかりだ。
©2017 – Les films du Worso – Rita Productions – KNM – Pathé Production – Orange Studio – France 3 Cinéma – Versus production – RTS Radio Télévision Suisse 背景に戦争があり、働き手のない農村が舞台の、過酷で悲惨なドラマだが、生き抜こうとする女性たちは、力強く、端正だ。また、声高に反戦を訴えるわけではない。ひとえに、監督の美意識だろう。
 とてつもなく美しい田園風景を捉えたカメラ、効果的に入る音楽にも注目してほしい。撮影は、女性のキャロリーヌ・シャンプティエ。音楽は、今年の1月26日に亡くなったミシェル・ルグランだ。それぞれ、今まで、どのような映画に関わったかは、少し調べると分ること。ぜひ、調べてほしい。
 歴史をひもとくまでもなく、世界では、思想信条や宗教、人種の相違、エネルギーや食料をめぐっての争いが絶えない。映画は、こういった争いを起こさせないほどの説得力のあるメディアと信じている。
 日本でも、戦争をまったく知らない世代の政治家が、圧倒的多数だ。要人たちは、裕福で何の苦労もなく、お育ちである。銃後を守る女性、老人、子どもたちに思いを馳せることは皆無だろう。どんなことがあっても、二度と、戦争はしない。口先ばかりの「寄り添い」ではなく、社会的弱者に思いを馳せる。それが、最低限の政治家の役目だろう。
 まもなく8月15日がやってくる。国会議員全員、「田園の守り人たち」をじっくり、ご鑑賞されたい。

2019年7月6日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開

『田園の守り人たち』公式Webサイト

監督:グザヴィエ・ボーヴォワ
原作:エルネスト・ペロション
撮影:キャロリーヌ・シャンプティエ
音楽:ミシェル・ルグラン
出演:ナタリー・バイ、ローラ・スメット、イリス・ブリー
2017年/フランス・スイス/フランス語/シネスコ
原題:Les Gardiennes/135分/日本語字幕:岩辺いずみ
配給:アルバトロス・フィルム

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