学び!とシネマ
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猫や犬は飼ったことがないので、猫たちがたくさん登場する映画をレビューする資格がないのかもしれない。とはいうものの、飼ったことがないだけに、たくさん登場する猫たちの表情や挙動が、とても新鮮に見える。
ドキュメンタリー映画「猫たちのアパートメント」(パンドラ配給)の舞台は、韓国のソウル。約3万人が住んでいたという、古くからあるマンモス団地が、再開発とやらで取り壊しになる。
ここトゥンチョン団地には、たくさんの野良猫が住みついている。住民たちの引っ越しが始まり、あちこちの取り壊しが進んでいる。それでも、猫たちは、まだまだ住みつくぞといわんばかりに、団地内を闊歩している。
猫好きの住民たちが、猫にエサを与え、どの猫も、まるまると肥っていて、いまや、総数250匹ほど。
いつのまにか、住民たちの猫好きが集まり、「トゥンチョン猫の会」が結成され、猫たちの移住計画がスタートする。また、猫がこれ以上増えないよう、猫の避妊や去勢手術について、動物病院と交渉する住民たちもいる。
マンモス団地に、たくさんの猫。はたして、猫たちは、安全に移住することができるのだろうか。
個性的な猫たちが、多く登場する。部下を従えて堂々と歩く猫。1日じゅう毛づくろいをしている猫。エサを見ると嬉々として走ってくる猫。丸い顔に可愛い表情の猫。どの猫にも反応する社交的な猫……。
見た目は、似ていても、猫たちの生態は、それぞれ、異なっていることが分かってくる。
このドキュメンタリー映画は、単に猫たちを愛する人たちの努力を描くだけではない。大規模団地の建て替えという、都市につきものの大問題が絡んでいる。映画の主役は、多くの猫たちと、猫を愛する住民たちだが、映画そのものは、一種の環境問題でもあり、人間と共存する猫たちの生態を描いた、文明批評の趣でもある。
低いアングルで捉えられた猫たちの表情、身のこなしが、変化に富んで、とてもいい。一見、似たような表情なのに、よく見ていると、千差万別。一匹、一匹が、自己を主張しているかのよう。
監督は、以前、劇映画「子猫をお願い」を撮ったチョン・ジェウン。仲良しの女子高生5人が成人、その青春群像に、可愛い子猫が一匹。まことに瑞々しい傑作だった。このほどのドキュメンタリー映画について、「<猫>は、私たちの社会の変化を示す物差しです。だからこそ、ますます興味が湧いてくる」と監督。
いまさらながら、韓国の映画の幅の広さと奥の深さが伝わってくる。猫の好きな方なら、身を乗り出してご覧いただける映画と思う。
2022年12月23日(金)より、ユーロスペース、ヒューマントラストシネマ有楽町にてロードショー!!
■『猫たちのアパートメント』公式Webサイト
監督:チョン・ジェウン
音楽:チャン・ヨンギュ『哭声/コクソン』
撮影:チャン・ウーイング、チョン・ジェウン
編集:キム・キョンジン
出演:遁村(トゥンチョン)団地に暮らす猫たち、キム・ポド、イ・インギュ
韓国/2022年/88分/韓国語
英題:CATSʼ APARTMENT
日本版字幕:松岡葉子
提供:パンドラ、竹書房、キノ・キネマ、スリーピン
配給:パンドラ