学び!とESD

学び!とESD

ESDと気候変動教育(その5) 気候変動教育の評価
2021.10.15
学び!とESD <Vol.22>
ESDと気候変動教育(その5) 気候変動教育の評価
永田 佳之(ながた・よしゆき)

 前号まで「ESDと気候変動教育」について4回にわたって取り上げきましたが、すでに実践を試みておられる学校の先生から評価について質問をお受けするようになりました。今回は、ESDの知見に基づく気候変動教育の評価について述べてみたいと思います。
 ESD for 2030(「学びとESD!」Vol.08)の公式文書にも明記されているとおり、ESDでは「自律的な学校運営」が求められています。それと同様に、気候変動教育の実践も自律的に自らの実践をよりよくしていく営みを作ることが求められます。
 具体的にそのための工夫を見てみましょう。以下の表はユネスコが気候変動教育を学校全体(ホールスクール)で取り組むための重要な要素をあげ、自らの実践を客観的に捉えることができるようにした表です。「学校運営」「教育と学習」「施設と運用」「地域パートナーシップ」という大項目は一部の訳出を変えていますが、以前に紹介した気候変動教育のホールスクール・アプローチの項目に対応しています(「学びとESD!」Vol.14参照)。

ガイドライン

できて
いない

改善の
余地あり

できて
いる

学校運営

 1.気候アクション・チームを立ち上げる

教育と学習

 2.持続可能な開発と気候変動を全教科で教える

 3.批判的・創造的・未来志向の思考法を教える

 4.行動を起こすように生徒をエンパワーする

施設と運用

 5.学校を気候アクションのモデルにする

地域パートナーシップ

 6.学習と教育のための協力体制を地域と築く

出典)UNESCO (2016) GETTING CLIMATE-READY A Guide for schools on Climate Action.
https://www.unesco.de/sites/default/files/2019-03/Getting_Climate-Ready-Guide_Schools.pdf

 一見、分かりづらいかもしれない、いくつかの項目について補足的に説明をします。例えば、「教育と学習」の「2.持続可能な開発と気候変動を全教科で教える」という項目について、「うちの学校では理科と総合的学習の時間で気候変動を扱っているから気候変動教育をしている」という校長先生のお話を聞いたことがありますが、ESDの観点、特にホールスクールの観点からすれば、それでは不十分であり、「改善の余地あり」にチェック印を記載することになります。一方、国語から音楽や体育に至るまで全ての教科で1学期に一定の時間、気候変動をテーマに授業を行っている場合は学校全体での取り組みと見なされ、「できている」となります(各教科で何ができるのかについては「学びとESD!」Vol.20を参照)。
 また「5.学校を気候アクションのモデルにしている」については、例えば、校舎の一部で使うエネルギーを自然エネルギーにしたり、ゴーヤカーテンを設置したりするだけでは「改善の余地あり」となります。気候に合った服装を推奨して冷暖房を控えめに使用したり、給食で出す野菜を地元農家の有機野菜にしたり、校内のプラスチックに関する指針を共有したりする、つまり校内の衣食住すべてにおいて気候に優しい(クライメート・フレンドリー)実践に取り組んでいる場合は「できている」にチェックできることになります。
 以上2つの例を取り上げましたが、要は「学びとESD!」Vol.14で紹介したホールスクール・アプローチ(学校まるごとESD)、つまり、学校のどの場面を切り取っても気候変動への配慮や対応が見いだせるかどうかなのです。ただ、それは目指す姿であって、「改善の余地あり」と言っても、すでに大きな意義のある一歩を踏み出していると評価されてしかるべきです。
 特に最近、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんの影響もあって重視されるようになったのは、「4.行動を起こすように生徒をエンパワーする」ことです。ユネスコは、気候変動教育はアクション志向の教育であると捉えており、第1に気候変動を緩和したり、それに自らの生活を適応させたりするための「アクションに関する学び」、第2に生徒みずからがアクションを計画し実際に行動に移していく「アクションを通した学び」、第3に生徒が学んだことをふり返り、次のチャレンジを構想する「アクションからの学び」という流れを重視しています。未来世代の若者にとって学校のキャンパスは、安心してアクションを試みることのできる格好の場であることを忘れてはならないでしょう。
 また「地域パートナーシップ」について、ユネスコは次のように述べています。「地域社会の人々を学校に招き、持続可能性に関連する実践を見てもらうツアーを催したり、地域の人々に環境に関するインタビューをしたり、地元の生物多様性について評価したり、地域のためのプロジェクトを設計して実施したりするなど、生徒の家族や地域の人々を巻き込んで生徒主導でできることは枚挙に暇がない。」この通り、学校にとっても地域にとっても切実な共通問題である気候変動は両者の垣根を低くするチャンスでもあります。
 なお、永田研究室では、気候変動教育の枠を広げ、ESDの概念を生かして「自然・経済・社会・文化」という観点から作成した、40項目から成る自己評価表を開発しています。(『気候変動の時代を生きる』pp.156-57)。これらは自分たちの実践を客観的に見る「手鏡」として活用することができるでしょう。また、これらを用いて、校内研修など、ワークショップ形式の対話の時間を先生同士で、または生徒や保護者と一緒に設けることもお薦めです。

【参考文献】

  • UNESCO (2016) Getting Climate-Ready: A Guide for Schools on Climate Action.
  • 永田佳之(2019)『気候変動の時代を生きる:持続可能な未来へ導く教育フロンティア』山川出版社.