学び!と共生社会

学び!と共生社会

自立と社会参加に向けた教育の充実とインクルーシブ教育
2020.07.27
学び!と共生社会 <Vol.06>
自立と社会参加に向けた教育の充実とインクルーシブ教育
大内 進(おおうち・すすむ)

 特別支援教育とは、「障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行う」ものと文部科学省のホームページに記されています(*1)
 この特別支援教育は、平成19年4月から学校教育法に位置づけられ、さらに障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)の批准も契機となって、障害のある幼児児童生徒の支援をさらに充実していくためにすべての学校において取り組まれることとなり、現在に至っていることについては、これまでにも触れてきたところです。
 この特別支援教育の考え方の後段部分「子ども一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善または克服するために、適切な指導及び支援を行う」というフレーズに着目すると、「自立」や「社会参加」は、障害がある幼児児童生徒固有の課題であって、個別的に対応していけばよいとも捉えられるかもしれません。
 しかし、「自立」や「社会参加」を障害がある子ども側の問題に留めてしまうと、かつての「児童生徒が持つ障害の特性や程度に応じて、特別な教育の場で特別の指導者によるきめ細やかな支援が目指されていた」特殊教育の時代の発想と変わらないことになります。そもそも「自立と社会参加」における、「自立」、「社会参加」とは何か、その言葉の明確な定義は示されていないのですが、障害者権利条約には、一般原則として、障害者の尊厳,自律及び自立の尊重,無差別,社会への完全かつ効果的な参加及び包容等が記されていて、その第19条に「自立した生活及び地域社会への包容」として次のような記述があります(*2)

 この条約の締約国は、全ての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有することを認めるものとし、障害者が、この権利を完全に享受し、並びに地域社会に完全に包容され、及び参加することを容易にするための効果的かつ適当な措置をとる。

 教育は、当人の「力」を育てることが第一義ですので、本人の「自立」や「社会参加」に向けた力の育成それ自体は大事なことです。しかし、「自立」や「社会参加」は本人の努力だけで為し得るものではないというところに留意する必要があるように思います。
 「自立」や「社会参加」は、その前提として、社会の側に「排除しない」、「共に生きる」という姿勢があってこそ実現されるものです。学校をミニ社会とすると、当然、このことは学校全体として共有されなければならないことだと言えるのではないでしょうか。
 また、「自立」や「社会参加」は、障害があると認定されている幼児児童生徒だけの課題ではありません。文部科学省の統計によると、近年、不登校や学業不振がうなぎのぼりに増えています。平成30年度の調査では、小学校144人に1人、中学校27人に1人が不登校という結果が示されています(*3)。これらも個別の対応だけでは解決しない、現在の社会の状況を反映した学校教育全体の問題だと言えます。こうした点から、特別支援教育における「自立」や「社会参加」の課題は、障害がある幼児児童生徒の課題であると同時に、学校全体とも深くかかわっている課題だと捉える視点が大事になってくるように思われます。小学校や中学校において、いわゆるインクルーシブ教育システムの構築を考えるときには、「障害」という狭い枠組みだけではなく、現代の学校が抱えている課題も視野に入れることで、その理解が深まっていくものと思われます。

*1:文部科学省「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申) 第2章 特別支援教育の理念と基本的な考え方」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/attach/1396565.htm
*2:外務省「障害者の権利に関する条約 条文」 
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000018093.pdf
*3:平成30年度 文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」調査結果より
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/10/25/1412082-30.pdf