学び!と共生社会

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国語からインクルーシブ教育を考える
2022.06.28
学び!と共生社会 <Vol.29>
国語からインクルーシブ教育を考える
大内 進(おおうち・すすむ)

学習指導要領に見る国語における障害のある児童などへの配慮

 今回は、国語という教科からインクルーシブ教育への対応について考えてみたいと思います。
 先月の「算数・数学からインクル―シブ教育を考える」でも確認しましたが、最新の小学校・中学校学習指導要領では、その総則において「特別な配慮を必要とする児童(生徒)への指導」(第1章第4)に言及しています(*1)

 それを受けて、国語に関しても、「障害のある児童への配慮についての事項」については、「小学校学習指導要領解説【国語】」(*2)の第4章「指導計画の作成と内容の取扱い」の(9)により具体的な留意点が記されています。
 そこには、「国語科の目標や内容の趣旨,学習活動のねらいを踏まえ,学習内容の変更や学習活動の代替を安易に行うことがないよう留意するとともに,児童の学習負担や心理面にも配慮する必要がある。」ことを踏まえたうえで、次のような配慮事項が例示されています。

表1 小学校国語(小学校学習指導要領解説【国語】159-160ページ)

例えば,国語科における配慮として,次のようなものが考えられる。

文章を目で追いながら音読することが困難な場合には,自分がどこを読むのかが分かるように教科書の文を指等で押さえながら読むよう促すこと,行間を空けるために拡大コピーをしたものを用意すること,語のまとまりや区切りが分かるように分かち書きされたものを用意すること,読む部分だけが見える自助具(スリット等)を活用することなどの配慮をする。

自分の立場以外の視点で考えたり他者の感情を理解したりするのが困難な場合には,児童の日常的な生活経験に関する例文を示し,行動や会話文に気持ちが込められていることに気付かせたり,気持ちの移り変わりが分かる文章の中のキーワードを示したり,気持ちの変化を図や矢印などで視覚的に分かるように示してから言葉で表現させたりするなどの配慮をする。

声を出して発表することに困難がある場合や,人前で話すことへの不安を抱いている場合には,紙やホワイトボードに書いたものを提示したり,ICT機器を活用して発表したりするなど,多様な表現方法が選択できるように工夫し,自分の考えを表すことに対する自信がもてるような配慮をする。

 ちなみに、中学校の国語については、中学校学習指導要領(平成29年告示)解説【国語編】第4章第4の1の(4)の「障害のある生徒への指導」の中で表2のように示されています(*3)

表2 中学校国語(中学校学習指導要領解説【国語】136-137ページ)

例えば,国語科における配慮として,次のようなものが考えられる。

自分の立場以外の視点で考えたり他者の感情を理解したりするのが困難な場合には,生徒が身近に感じられる文章(例えば,同年代の主人公の物語など)を取り上げ,文章に表れている心情やその変化等が分かるよう,行動の描写や会話文に含まれている気持ちがよく伝わってくる語句等に気付かせたり,心情の移り変わりが分かる文章の中のキーワードを示したり,心情の変化を図や矢印などで視覚的に分かるように示してから言葉で表現させたりするなどの配慮をする。

比較的長い文章を書くなど,一定量の文字を書くことが困難な場合には,文字を書く負担を軽減するため,手書きだけではなく ICT 機器を使って文章を書くことができるようにするなどの配慮をする。

声を出して発表することに困難がある場合や人前で話すことへの不安を抱いている場合には,紙やホワイトボードに書いたものを提示したり ICT 機器を活用したりして発表するなど,多様な表現方法が選択できるように工夫し,自分の考えを表すことに対する自信がもてるような配慮をする。

 以上のように、現行の学習指導要領では、国語という教科においても障害がある児童への配慮が言及されています。その記述を見ると、主として通常の教室に在籍する発達障害があると認められる子どもたちを念頭に置いたものが多く、内容についても国語科だけに特有の配慮事項は限定的であるように思われました。発達障害のある子どもたちへの指導や配慮について記された類書は数多く出版されています。それらの多くには、学習指導要領に示されている配慮事項への対応について、参考になる内容が具体的に詳しく記されています。また、発達障害については国語教育に特化した書物も数多く出版されていて、有用な情報が入手しやすい状況にあると言えるのではないでしょうか。

言語に着目した国語教科書の点字や手話に関する題材の扱い

 他方、通常の学級で学ぶ発達障害以外の障害がある子どもへの配慮も大事なことです。学習指導要領解説の記述だけでは十分ではありません。
 特に国語科の目標には言語教育が含まれていることに注意を向けてほしいと思います。国語では日本語という言語を扱っているのですが、それは視覚を使って「読むこと」・「書くこと」、音声を使って「話すこと」・「聞くこと」が大前提となっています。当然のことながら、学習指導要領の記述もその範囲にとどまっています。
 しかしながら、それに当てはまらない言語があります。点字や手話です。現在の特別支援教育体制では、点字や手話を使わなければ学校生活や学習活動に制約が生ずる児童生徒等の多くは視覚特別支援学校(盲学校)や聴覚特別支援学校(聾学校)で学んでいます。しかし、実際には、インクルーシブ教育の広がりの中で点字や手話を常用する場合であっても、通常の学校に在籍するケースは全国的に見ると少なくありません。
 視覚特別支援学校(盲学校)や聴覚特別支援学校(聾学校)の現状を見ると、児童生徒の少人数化、重複化、多様化が進んでおり、教科学習が可能な場合は、地域の小学校や中学校を就学先として選択するケースが一層増えていくのではないかと筆者は推測しています。
 こうしたことを鑑みると、言語教育を担っている小学校の先生や中学校の国語科の先生には、日本語以外に日本で使われている言語についても興味関心をもち、基礎的な知識を有しておいてほしいと思うのです。そうした備えがあれば、実際にそうしたケースに出会ったときに、適切な判断ができるのではないでしょうか。そこで、以下に筆者が日頃、通常の学校の先生方に知っておいてもらいたいと思っている点字や手話に関することを記しておきたいと思います。

言語としての点字、手話

 点字は触覚を使って「読み・書き」する「言語」です。かな書きですが、点字を使えば、日本語を読み書きすることができます。また、世の中に存在するほとんどの文字は点字で表すことができます。日本語の点字は基本的にかな表記で、規則性の高い文字になっています。かな表記のために分かち書きの原則が細かく定められています。また、点字は表音主義の基に誕生したため、現在の日本語表記と異なっているところがあります。筆者はそれらが点字を馴染みにくくしている一因ととらえています。
 対して「手話」は少しばかり複雑です。本稿では深入りできないのですが、一口に手話といってもいくつかの種類があります。日本で使われている手話は、大きく「日本手話」と「日本語対応手話」に大別できます。「日本手話」は当事者の間で自然に生まれた自然言語で、日本語とは別物の言語ということになります。「日本語対応手話」は、聴覚障害者と聞こえる者との間でコミュニケーションツールとして使われるようになった人工言語で、日本語をしゃべりながら、それに合わせて手話の単語に置き換えていくものです。こちらは日本語に準じているということになります。ただ、手話には助詞の表現がないため、それを補うために、助詞等を指文字やキュードサインで示すことを取り入れた手話もあります。聴覚に障害がある人の状況は一人一人異なっていることもあって、手話にはさまざまな種類があるということになります。また、口の動きで音声言語を読み取る方法もあります。口話法といいます。こうしたさまざまな手話、口話、指文字などすべての方法を活かして使おうというトータルコミュニケーションという考え方もあります。

言語としての点字教材の扱い

 近年、国語の教科書に点字や手話を扱った題材が掲載されるようになってきています。それらの多くは、障害理解の観点から点字や手話及びそれらにまつわる逸話が掲載されているのですが、言語教育という面から深く扱っているものは多くないように思います。
 例えば、点字を扱った教材では、点字習得の大変さや活用の意義を学んだり、疑似体験を通して、見えないことの制約を実体験したりするなどの活動には熱心に取り組まれていますが、点字の構造や文法、さらには点字の表記法等にまで踏み込んだ言語に直結する指導にまでには至っていないようです。実際、大学や短大の学生に接する機会がありますが、小中学生時代に国語で点字について学んだことをしっかり覚えている学生は例外的な存在です。学んだことを失念しているものも少なくありません。少なくない時間数をかけて学んでいるはずです。残念なことです。
 私の経験から、点字の基礎を身に付けさせるのはそれほど大変なことではありません。視覚障害関連の講義では、できるだけ点字を紹介するようにしているのですが、週1回90分の内の10~20分程度の点字に関する講義と毎日5分程度の課題を2か月続けるだけで、ほとんどの学生は基礎的な点字文の読み書きができるようになっています。工夫次第では、小学生や中学生にも十分可能ではないかと思いますし、手話についても同様の対応ができると思います。
 国語の目標は、「言葉による見方・考え方を働かせ,言語活動を通して,国語で正確に理解し適切に表現する資質・能力を次のとおり育成することを目指す。」となっています。ぜひとも点字や手話の題材についても、「言語」という側面を大切にして、少しでもそれを理解し、表現できることの喜びを味わってもらえたらと願っています。

*1:小学校学習指導要領
https://www.mext.go.jp/content/1413522_001.pdf
中学校学習指導要領
https://www.mext.go.jp/content/1413522_002.pdf
*2:小学校学習指導要領(平成29年告示)解説【国語編】
https://www.mext.go.jp/content/20220606-mxt_kyoiku02-100002607_002.pdf
*3:中学校学習指導要領(平成29年告示)解説【国語編】
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387018_002.pdf