学び!とPBL

学び!とPBL

希望のプラネタリウム
2021.08.20
学び!とPBL <Vol.41>
希望のプラネタリウム
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.「福島」を伝えるイベントを

図1 大きなドームをつくる 福島市高校生フェスティバルの議論が活発になりかけた春の終わり頃、知り合いのイベント会社から、福島の復興をテーマとしたワークショップをやってくれないか、という依頼が来ました。お盆になってもどこにも行けない東京出身の子どもたちを対象としている「キッズジャンボリー」という、数万人が集まる大きなイベントです。創作的で活動的なものであればなおいい、ということなのでこれまでのアイディアをうまく活かし、しかもこれを高校生フェスティバルにつなげることはできないか、頭を巡らせました。高校生たちと話し合ったところ「ぜひやろう!」ということなので、学生や高校生と一緒にワークショップをすることになりました。

2.「希望のプラネタリウム」

図2 直径3.5mのプラネタリウムドーム完成 発想の核になったのは、「震災の日の夜は、停電で街の光が消えて真っ暗な中、星の光が煌々と照っていた」という被災者の証言でした。すぐに思いついたのは、それより20年近く前に学生たちとつくったダンボールの「プラネタリウム」(学び!とPBL <Vol.03> PBLのはじまり② 参照)でした。サッカーボールの32面体をさらに細かく分割すると180面体ができ、球に近い形ができあがります。このうち上3分の2ほどを円筒の上に載せれば、天井が球形のドームとなり、ここに蛍光色の色紙で星をつくり貼って、これにブラックライトを当てると星が輝きます。復興への希望を星の光で表すので、「希望のプラネタリウム」と名付けました。
図3 イベント当日、みんなで準備作業 今回は、イベントの後に福島市高校生フェスティバルでも使いたいので、使い捨ての紙のダンボールではなく、少々値は張りましたがポリカーボネート製のダンボールを用い、頑丈なものをつくることにしました(学び!とPBL <Vol.34> 希望のヒカリ 参照)。2種類の形の異なる三角形を計100枚以上も手でカットして、折り曲げて、ドリルで穴を空けて部品をつくります。
 教室の中で仮に組み立てたところ、直径3.5メートルのドームの巨大さに圧倒されました。これに下半分の円筒形を加え、短時間で組み立て、子どもたちの表現活動につなげる方策を検討しました。

3.福島からの発信

 しかし本題は、ここではありません。福島の人たちが東日本大震災をどう経験し、今に至っているのか、震災や原発事故をほとんど知らない子どもたちに伝えなければなりません。このテーマ性が生きてこないと、プラネタリウムもただのレクリエーションになってしまいます。

図4 福島の物語

 子どもたちに見せるスライドを、紙芝居のようにつくりました。美しい豊かな自然の福島県、少ないけれども、有名人も輩出しています。そこに東日本大震災と原発事故が起きました。そのときの風向きと降った雨のために、広い範囲で放射能が地面に定着してしまい、ふるさとを失ってしまいます。避難者たちは転校先で様々ないじめに遭い、とてもつらい思いをします。しかし、福島の人たちは負けてばかりはいません。汚染を取り除く人たち、安全な食べ物を供給する人たち、風評を払拭しようとがんばる人たち、そして、若者たちの力で教育を変えようとする人たち(OECD東北スクールのこと)、様々な人たちが以前の福島を取り戻そうと努力しています。震災の夜、停電のために街の灯りは消えてしまい、夜空には見たこともないような星の光を多くの人たちは見ました。そして星の光に救いを求め、希望を見出そうとしました。
 そのようなストーリーを考えました。

4.福島の人たちを思って星空をつくった

 8月中旬、高校生、中学生、小学生、大学生、スタッフら計10人ほどでチームを組んで東京に向かいました。半日ほどで準備を済ませ、打ち合わせをし、本番に臨みます。わずか90分の中で、テーマを説明し、100人近くの子どもたちがそれぞれ星空をつくり、それをドームに貼り合わせて完成し、照らし出した星空を鑑賞しなければなりません。10人のチームワークが肝心となります。
図5 福島を想って星空をつくる ワークショップが始まります。「福島に行ったことのある人は?」と聞くと、意外にも半分近くが行ったことがある、と答えました。「原発事故のことを知っている?」と尋ねると、わずかに数名が手を挙げただけでした。冒頭から想定外となります。
 しかしストーリーを話すと、子どもたちも、親たちも予想以上に食いついていき、黒い三角の画用紙に蛍光色紙を貼っていくという表現活動も、みんな真剣でした。わずか30分ほどで作業が終わり、これを高校生や大学生がドームの内側に貼っていきます。すべてができあがったところで、円筒形の部屋の上にドームを載せて、固定します。子どもたちから大きな歓声が上がります。
 内部に組み込んだブラックライトを当てると、100人ほどでつくった星空が美しく浮かび上がりました。子どもたちも親たちも、空を見上げ、被災地に思いを馳せました。
 後にもらった子どもたちの感想では、「福島の人たちにがんばってもらいたいと思いながら星空をつくりました」「震災や原発事故のことをほとんど知らなかったので、今日の話はとても印象に残りました。」「福島の今のことをもっと知りたいと思いました。」など、星空をつくった楽しさよりも、圧倒的に福島への思いを切々と綴ってくれた子どもが多いのが印象的でした。これを読んだメンバーは満足感で一杯になり、この取組を高校生フェスティバルに活かしたいと、エンジンがかかりました。

図6 希望のプラネタリウム内部