学び!とPBL

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希望のヒカリ
2021.01.22
学び!とPBL <Vol.34>
希望のヒカリ
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.子どもたちに希望を与えた「光」

 福島市の高校生チームは、2018年の秋頃から、翌年3月開催予定の台湾・立人高級中學の学園祭参加の準備を始めました。
 しかし、彼らは台湾との交流・協働事業だけでなく、もうひとつこの年の秋に予定されていた「福島市高校生フェスティバル」の企画も行っていました(これについては別に報告することとします)。高校生が市内ににぎわいを取り戻すという目的のもとに準備が進められ、夜、会場にイルミネーションを展示するというアトラクションが企画されていました。
図1 希望のヒカリの制作① 実行委員会と大学生、そして大学の教員とで話し合い、「インスタ映え」する、高校生のレベルを超えたものを飾りたいということになり、2018年の夏1ヶ月かけて、いろいろなアイディアを持ち寄り、ああでもない、こうでもないと日曜日の度に集まって試作を繰り返し、最終的に球体(180面体)の巨大なイルミネーションのオブジェが完成しました。このイルミネーションの発端が、大学生が被災地の子どもたちに元気を出してもらいたいと作ったオブジェだったことから、「希望のヒカリ」と名付けました。

2.仲間に「希望のヒカリ」を贈りたい

図2 希望のヒカリの制作② さて、台湾との交流・協働を進めるにあたって、このイルミネーション「希望のヒカリ」を先方の立人高級中學に贈呈したいということになりました。台湾は贈り物の文化が盛んで、私たちの交流を進める度にたくさんのプレゼントをいただいています。福島を訪問された時の記録をまとめた豪華な写真集を頂戴するに及んでは、何をお返しすればいいのか途方にくれるほどでした。それなら、先方の学園祭に参加させていただくお礼に、私たちの手作りのイルミネーションを友情の証として差し上げたいということになったのです。
図3 希望のヒカリの制作③ しかし、この「希望のヒカリ」は、もともと屋外用に作った、直径1.6mの球形のオブジェで、分解して部品の状態で台湾に空輸しなければなりません。それらの材料や工具を海外に送れるのかどうかもわかりません。また、一度組み立ててしまうと動かせないので、どこにこれを設置するか予め許可を得なければなりません。組み立てるにも丸1日かかります。部品が欠ければ、その時点でアウトとなります。先方の校長先生からは受け入れを快諾してもらいましたが、これを実現させるためにはたくさんの課題をクリアする必要がありました。

3.力を発揮するリーダーたち

図4 台湾で発表するダンスの練習 そもそも、学園祭への参加はステージとブースが基本でした。ステージでは福島チームの発表の時間が既に確保されており、その練習を続けていました。また、ブースは福島の真実を伝えるという内容で、震災と原発事故の事実や現在の課題をポスターで伝えるというものでした。これについても、話し合いと準備の時間に多くの時間が割かれ、春休みに入るや、毎日これらの準備に追われることとなりました。
図5 立体で作った人工ピラミッド これを取り仕切っていたのは、既に終了していた「高校生フェスティバル」で育ったリーダーたちでした。先方の高校とも自分たちで連絡を取り、ステージの時間や演目、準備物なども詳細に確認していました。当初予定していた演目が場にそぐわないとされ、急遽変更することとなり、ダンスの振り付けを友達に頼み、一からやり直すことになりました。ブースに展示するポスターは中国からの留学生に協力を得つつ、何を台湾の仲間に主張するのか、そのためのパンフレットも必要だから作ろう、その原稿を誰が担当するのか、いつまでにやるのか、人口問題を考えるための人口ピラミッドを立体で作ったらもっと伝わるのではないか、そのようなことが自分たちで考えられるようになってきました。
図6 完成した希望のヒカリ 「希望のヒカリ」はポリカーボネート製のプラスチックダンボールでできており、LEDの光の不思議な拡散を楽しむ構造となっています。ダンボールを切って90枚の部品を作り、機械で折って、ドリルで穴を空けて、数百箇所をボルトで留めて、中にLEDを仕込みます。大学生の力も借りながら、ようやく準備は整いましたが、現在使っているボルトの材質が輸出規制対象となっていることが直前にわかり、全部ボルトを買い直すことになります。たくさんの部品や道具を限られた容積に収めなければならず、それはもう立体パズルのような複雑な思考も要求されました。
 これらの作業には、海外で実施したOECD東北スクールのノウハウが活かされていました。生徒と大学生、大人たちとの協力体制も万全で、これなら成功を勝ち取れるという確信を持つことができるようになりました。