学び!とPBL

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ルーブリック評価(授業とPBL③)
2023.02.20
学び!とPBL <Vol.59>
ルーブリック評価(授業とPBL③)
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.教員の当事者意識

 ふたば未来学園高校の鈴木貴人先生による連載の3回目です。前回に引き続き、「総合的な探究の時間」の「課題の設定」に着目したいと思います。前回は生徒の「自分事化」の問題を取り上げましたが、今回は 教員の「自分事化」に迫りたいと思います。
図1 ふたば未来学園の学習活動の様子 学校で一つのことに全教員が共通認識で取り組む場面は多くはありませんが、生徒の興味によって多様な展開が想定され、きめ細やかに生徒の学びを伴走していくことが求められている「総探」では、関係するすべての先生と対話を重ね、「当事者意識」を持って実践を行うことが必須です。しかし、多忙化が叫ばれて久しい現在の学校現場では、十分なコミュニケーションがとれないのが実情です。
 中堅の進学校であるY高校では当初、係教員であるA先生によってスクール・ポリシーと紐づけ「総探」の目標を定めました。A先生を中心に、カリキュラム・マネジメントの柱として目標を設定しただけでなく、学校や生徒の実態も鑑み、「総探」に関わる教員間で対話し、学習指導要領で示された学びの目指す方向、昨今の社会で期待される子どもたちの姿、さらには自校の生徒に目指して欲しい「理想の姿」等、様々な意見が交わされました。その結果、「本校生は目的意識が低い」など共通理解が生まれ、「協働性」や「レジリエンス」を重視することにしました。
 しかし、「総探」が開始されると、B先生からは生徒の社会問題についての「知識」不足が語られたり、C先生からは探究学習の「深まり」が指摘されたりするなど、「協働性」などのマインドセットを重視していたにも関わらず、社会的な「知識」の不足が求められるように変わってしまいました。
図2 ふたば未来学園の学習活動の様子 当初設定した目標が変わることは、生徒の実態から探究学習をリ・デザインしていくことにつながるので、より生徒の実態にあった学習が展開していくことも期待されます。しかし、対話的に導かれた「総探」の目標がどうして変容してしまったのでしょうか?
 「総探」で、こうした混乱が起きてしまうと、指導する教員は勿論、学習する生徒も先行きの不透明さから活動が活性化していかないことがあります。こうした課題に対して、教員と生徒の目線合わせために、ふたば未来学園で展開してきたのが、ルーブリック評価です。

2.生徒と評価指標を共有するルーブリック

 ふたば未来学園では、2015年の開校時、生徒の実態などを踏まえ、目指す生徒像や、そうした生徒を育成するために必要な資質・能力について、30名弱しかいなかった全教員で話し合いました。震災により地域に暮らしていた住民が避難したり、逆に復興支援のために新たな人流ができたりと、地域の人々が多様になってきたことから、他者への「寛容性」等、11項目の資質・能力を挙げました。ここまでの過程は、Y高校と同一なのですが、ふたば未来学園では、その後、こうして抽出された資質・能力を言語化し、段階(レベル)に分け、学習者である生徒ともルーブリックを通して共有していきました。
図3 学習活動のメモ 例えば、ルーブリック評価では、「寛容性」といった可視化されにくい資質・能力を一定程度、公平かつ定量的に評価することが可能になります。一方で、学習者が自己評価することが多いので、妥当性や信頼性だけでなく、生徒がより良い評価者であることも求められます。また、共通理解を図ったり、結果を次の指導のために活用したりと、適切な運用には随時注意を払っていく必要もあります。
 ペーパーテストでは生徒に評価基準を秘匿しているので、ルーブリック評価はこれまでの評価とは相いれない一面があります。しかし、生徒が予め評価基準を知っていることは学習の目標となるので、内省を習慣化する「メタ認知」にもつながります。このように自分自身を振り返る力を自律的に育てていくことは、生徒の主体性にもつながるので、とても大切なことです。
 更に、ルーブリックは、学習する生徒と指導する教員との間で探究学習の目標を共有するだけでなく、指導する教員間でも目標を共通理解することになるので、教員間で生じるズレをなくす効果もあるのです。

3.ルーブリック評価の実践例

図4 ふたば未来学園の学習活動の様子 ルーブリックの作成は容易ではありませんが、現在では、ふたば未来学園をはじめ、様々な学校で情報を開示しているので、それを参考にすると良いと思います(URL:https://futabamiraigakuen-h.fcs.ed.jp/学校紹介/page_20210619005448)。また、作成されたルーブリックは、どうやって生徒や先生間で“共有”していくか、年々変化していく資質能力を組み込んで“改善”していくかといった課題もあります。このことはふたば未来学園でも例外ではありません。開校当初8割が双葉郡出身者で占められていた生徒が、6年後にはほぼ半減しました。同時に、開校時から勤める教員もごく僅かとなり、当初考えられた資質・能力と現在の生徒の姿では離れていきますし、教員間の共有も弱まってしまいます。そういった運営面に関する課題に対して、ふたば未来学園で取り組んだ改善策の一つを紹介します。
 開校時は年度終了時に生徒がどの程度、資質・能力を伸ばしてきたか検証する、いわゆる「総括的評価」としてルーブリック評価をおこなっていましたが、2019年からは、生徒一人ひとりにフィードバックし、その先の目標設定等に活かすよう「形成的評価」として利用することを目標にルーブリック面談を導入しました。手法としては、ゼミを担当する教員2~3人で分担して、生徒と1対1で面談します。一人の生徒当たり30分前後の時間を要するので、手間がかかりますが、学習の調整やメタ認知能力を育てるだけでなく、担当する教員との距離も近づくため、概ね好意的に捉えられています。
 具体的には、ルーブリックの各項目についてその評価理由を生徒に説明してもらいながら、レベルの再確認を行い、それを選んだ根拠、自己評価などを聞いていきます。教師の見取りと、生徒本人の認識とがあまりにも乖離している場合には修正することもありますが、おおむね一致します。学習にフィードバックすることがポイントなので、今後どんなところを伸ばしたいのか、新たな目標設定といった次につながる評価をします。また、どの先生もできるだけ同じ目線で面談ができるように、実際に面談をシミュレートしている場面の動画を共有したり、留意点(対話的に関わることを意識しましょう、等)を丁寧に伝えたりもしました。
図5 ふたば未来学園の学習活動の様子 ただし、ルーブリック面談が改善のゴールではないことを補足しておきます。ふたば未来学園では、ルーブリック評価のデータを個人別に整理する(カルテの作成)ことで、より生徒がルーブリック評価を目標として活用できるように促すなど、更に活用と共有が展開していけるように考えられています。このように、それぞれの学校で、実情に合わせて改善を継続していくことが、「総探」を恒常的にブーストしていくには大切なのだと思います。

(※鈴木貴人先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)