学び!とPBL
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鹿又悟先生による報告の5回目は、前号で紹介したきゅうり栽培の活動でお世話になった農家や飲食店にさらに貢献する方向へと展開した活動を紹介します。
1.「学校×農家×飲食店」プロジェクト大作戦
「まだ、お世話になった人にできることないかな?」
コロナ禍での地域に根差した学びの中で、無事にきゅうりも生産し、寄付することもでき、これで一段落と思いきや、この一人の声によって、子どもたちの心に再び火が付きました。お世話になった農家や飲食店に、さらに貢献する活動へと展開していきます。
子どもたちは「もっと農家や飲食店へ貢献できることはないか」と考え、一人ひとりの中で、それぞれやりたいことが膨らんでいきました。
「農家さんは一人で大きい畑をやっていると言ったから、手伝うことはできないかな。」
「夏はきゅうり、冬はネギを生産しているって言ってたよね。」
「小学生が考えたメニューを飲食店で提供できないかな。」
「お客さん集まりそうだよね。」
「農家さんの育てている野菜を飲食店で提供できないかな。」
まずは農家の方に子どもたちのこれらの考えを伝えたところ、子どもたちの手伝いは大歓迎という返事をもらい、農家が直接野菜を出荷している飲食店があることも教えてもらいました。
2.子どもたちの思いに地域が応える
農家が直接野菜を出荷している飲食店にも子どもたちの思いを伝えたところ、またもや予想以上の反応が返ってきました。
「とてもいい活動ですね。是非、ネギのフルコースをつくりましょう! そして、お店で子どもたちが働いてお客さんに振る舞うのはいかがですか?」
当時コロナ禍の中、飲食店も苦戦していたにもかかわらず、子どもたちのために温かく協力していただける飲食店の熱い思いに感動しました。
飲食店の意向を伝えると、子どもたちの意欲はさらに加速していきます。ネギのフルコースのメニューを考えている最中も、
「おいしそう。」
「つくってみたい。」
「メインはグラタンもいいし、パスタも好きな人が多いから喜びそうだよね。」
と、お客さんのことを考えたり、楽しんだりしている子どもたちばかりでした。フルコースの中で「ネギのデザート」のアイデアが全く出てこなかったため、そこは「プロの腕前を」ということで、飲食店の方にお願いしました。
飲食店のプロの料理人が学校に来て、子どもたちと料理を試作し、最終決定する時間をつくりました。実際に、自分たちで考えたメニューを自分たちの手で料理することで、おいしさを実感しました。飲食店は子どもたちが考えたメニューをすべて採用してくれました。
3.自分たちで生み出した人々の幸せ
しかし、新型コロナウィルスの感染が拡大し、福島県でもまん延防止等重点措置が取られたため、ネギの収穫、飲食店での職業体験は予定より1か月遅れることになります。前に、きゅうりで得た売り上げを寄付した際(Vol.65参照)にメディアの方に取材してもらっていたこともあり、「自分たちの活動をたくさんの人に知ってもらいたい!」という声があがりました。
「自分たちでメディア向けの広告をつくろうか」と私が提案すると、子どもたちは乗り気になったので国語の「書く」単元を活用し、一人ひとりがプレスリリースを作成しました。それを市役所の記者クラブで発表したり、ファックスを新聞各社、テレビ局等に流したりしました。
ネギ収穫当日は、親子で合同収穫体験を行いました。収穫の仕方を農家さんから教わり、収穫したネギを束ねて、軽トラックいっぱいに集めました。実際に体験した子どもたちは、
「予想以上に疲れた」
「毎日、一人で収穫を行っている農家さんがすごい」
などの感想を持ちました。
また、飲食店のスタッフに学校に来てもらい、飲食店での接客の仕方を教わりました。立つ姿勢、「いらっしゃいませ」の言い方、お辞儀の仕方など、職業体験だけでなく、社会人になっても役に立つ学習でした。
いよいよ飲食店での職業体験当日。完全予約制にした2部制の入れ替えで店は満席状態でした。オーダーを取る子ども、料理を提供する子ども、厨房の中でドリンクを入れる子ども、料理を盛り付ける子ども、などそれぞれの役割をこなしました。子どもたちは最初緊張しながらも、お客さんの期待に応えるためにも、笑顔で接客していました。プレスリリースのおかげもあって、テレビ局や新聞社からの取材も来ました。
このような一連の学習は、子どもたちの声を尊重したこと、それに加えて外部で協力してくださった方々のコラボレーションから生まれたものです。子どもたちは、以下のような感想を述べていました。
「実際に働いて飲食店のイメージが変わった。アルバイトや将来働くのもいいと思った。」
「ぼくたちが作ったメニューが出されていたことにびっくりだし、さらに体験できたことに驚いた。この経験を大人になっても生かしたい。」
「接客の大変さ、姿勢、話し方を学んだ。今後の人生で役立つことを学べてとてもうれしかった。」
「飲食店、農家の方々に貢献することだったのに、もっとたくさんの人が幸せになった気がする。たくさんの人の力を借りるとすごいことが起こることが分かった。自分が大人になったら、今回みたいにたくさんの人と協力して幸せにしたいと思った。」
子どもたちの「問い」を大事にすること、そして、「人」との出会いを大事していくこと、この二つで探究のプロセスは右肩上がりとなり、探究課題から自分の在り方を見つめ、自分の生き方を考えることができるようになっていきます。そして、社会への視野の幅も広げ、今後自分がどう在りたいかだけでなく、様々な人たちとどう繋がっていきたいかを考えるきっかけとなりました。まさにこれは、ESD(持続可能な開発のための教育:Education for Sustainable Development)であると考えます。今回の実践が必ずしもすべての子どもにすぐに影響を及ぼしたわけではありません。ただ、教師が子どもたちに場やきっかけを与え、「種まき」をしなければ、子どもたち同士で影響し合うこともありません。芽がいつ出るかは、子どもによって異なります。いま、「種まき」をしておけば、いつか、子どもたちにとっての明るい未来づくりに繋がると考えています。
(※鹿又悟先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)