学び!とPBL

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「Grow Up」学年、学びの集大成(中学校でPBL⑤)
2024.02.27
学び!とPBL <Vol.71>
「Grow Up」学年、学びの集大成(中学校でPBL⑤)
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

 中学校における探究活動の実践を、前回に引き続き、福井市森田中学校(以下、森田中学校)の木下慶之先生の取り組みを通して見ていきましょう。今回は、2020年度に探究活動に取り組んだ2年生の学年の終わりから3年生に進級して以降の実践です。

1.探究を活動誌にまとめよう

 2021年2月、これまでの探究のプロセスを活動誌にまとめようと、活動誌実行委員会が結成されました。橋本教諭が彼らの活動を支援していきました。これまでのプロジェクトのストーリーや、そこで学んだこと、未来に向けての夢について、学年の生徒たちから原稿を集め、オンライン上のアプリ「Canva」(*1)を使って編集し、冊子を作成しました。3月、全12ページの活動誌「MORITA OSHITAI!」(*2)が完成しました。

森田推し隊プロジェクト 活動誌

 お世話になった地域の公民館などの施設や飲食店などに配布され、翌年の5月の修学旅行先でも子どもたちによって配布されました。これまでのプロジェクトのプロセスだけでなく、実行委員の作成したアンケートの質問と回答も掲載されました。「学んだこと、できるようになったこと」「私たちの描く未来」「森田のためにこんな人になりたい」の3つについてまとめられ、生徒にとってどのような学びがあり、何に気づいたのかを私たちもこの活動誌を読んで改めて実感することができました。

 この図は、これまでの探究のストーリーと、今後の展望をつなげたカリキュラム図です。一つひとつの活動はすべてつながっています。筋書き通りにはなかなかうまくいきませんが、今自分が取り組めることに徹底的に取り組み、ちょっと何かに挑戦してみる、その積み重ねが繰り上がりを生み出し、成長となります。

 こうして3月、「Grow Up」学年の彼らは第2学年を修了し、第3学年へと進級しました。進路決定と最終学年としての活動、修学旅行や学校祭など、大きなプロジェクトが待っていますが、さらに新学年での生活でも発展させてほしいと願いました。
 3月末、早速5月に予定している修学旅行に向けて、生徒たちと教員たちとの挑戦が始まりました。

2.学びがつながる修学旅行

 コロナ禍により、修学旅行についても従来の形式では実施は不可能となり、「Grow Up」学年の生徒たちも修学旅行先の検討が必要になりました。
 3月福井市教育委員会からの指示事項で「1泊2日の県内」という条件が提示され、これに基づいて「県内修学旅行」を検討することになります。教師側で「そもそも修学旅行とは何なのか」を考えました。なぜ、私たちは修学旅行を企画するのか、そこでどんな経験を生徒たちにさせたいのか、なぜディズニーランドに行っていたのか、わざわざ県外で自然体験活動をする意義は何か、など根本から修学旅行について考えました。
 「県内案は確かに活動範囲が限定されていていいかもしれない。しかし、これまで生徒たちに企画させていたのに、教員だけで決めてしまっていいのか」、「生徒たちは自分たちで考える修学旅行にしたいのではないか」、「もう一度シャルソン(学び!とPBL <Vol.69> 参照)とかができたらいい」、「せっかくなら、生徒たちがわくわくできることを」など、議論がなされました。
 学年集会が開かれ、直接生徒たちの声を聴くことになりました。それぞれの案のメリットやデメリットなどを、資料を提示して生徒たちに考えさせ、全体の場で採決をとります。その結果、「芦原温泉に宿泊して、三国、あわら地区でシャルソンをしよう」という案に決まり、早速教員と一緒に企画に参画する実行委員の募集が始まりました。

修学旅行 三国あわらシャルソン 各チームの旗

 実行委員の生徒たちは「しおり」「イベント」「シャルソン企画」など各チームに分かれます。テーマは「We love 福井 フラミンゴ(福井ラブみんなでGoの略)」。森田シャルソンや森田推し隊プロジェクトでの活動をつなげ、生徒たちなりに修学旅行先であるあわら市や三国の地域を探り、調査したことを発信させようと考えました。訪問先で「森田推し隊の活動誌」を配布しようという提案もなされます。PR動画を作成し、修学旅行から戻ってきたらそれらを編集し、発表し合おうというアイデアも生まれました。宿泊先は芦原温泉の清風荘、ここを最終的なゴールにすることにしました。「森田シャルソン」のように、生徒たちはチームの旗を募集し、旗をもってシャルソンを実行することになりました。ただどうしても公共交通機関の本数や時間帯には限界があるので、旅行会社の方と相談し、臨時のシャトルバスを周航してもらうことにしました。ここでも「森田シャルソン」での経験が生かされました。
 iPadで動画や資料を撮影、編集し、ツアービデオクリップを作成しながら活動し、それらは、修学旅行後にも編集され、後日、成果発表会が行われました。シャルソンでの訪問先の1つである農場の方から、生徒たちへのあたたかい応援のお手紙(*3)をいただきました。「やってよかった。」と感動を共有することができた瞬間でした。修学旅行とはそもそも何か、生徒たちにどのような経験をさせ、学びと成長を実感させ、仲間たちとの思い出をつくる場であるべきか、問い直すことのできた学習活動でした。

3.みんなで支える環境をつくる学ぶ力UPプロジェクト

 学校祭が終わると否応なしに受験体制へ突入していきます。受験に向けて意識を高める子もいれば、テストが苦手な生徒など、なかなか意欲が湧かず悩んだり不安になったりする子もいるのが現実です。「受験は団体戦だ」と唱えるものの、みんなが同質同様に進路について考え、受験に取り組むのは難しいことです。同僚間での意識の共有も重要になります。
 学習担当の先生と10月から質問会(いわゆる補充的な学習会)の企画をすることになりました。質問会の日程や内容を検討していると、同僚が「このような学習についても、生徒たちと一緒に何かできませんかね」と提案してきました。教師だけで企画するのではなく、生徒たちの声を聞いて、彼らにも参画してもらってはどうかというのです。生徒たちは「廊下とかに勉強を教え合うスペースをつくってはどうか」「プリントを解くだけではなく、お互いに質問し合う場もほしい」「復習プリントコーナーをつくってほしい」など、自分だけでなく、学年全体の雰囲気や環境を向上させる提案をしてきました。
 早速、学年会の中で同僚たちと思いを共有し、生徒による学習実行委員会が結成されました。学習担当教師と実行委員は不定期ではあるが、昼休みに都度ミーティングをしながらプロジェクトを企画、実践していきました。「みんなの質問ボックス」「復習ポスター掲示板」「ホワイトボードコーナー」「歴史年表階段コーナー」「カウントダウンカレンダー」「クラス対抗学習時間コンクール」など、さまざまな活動を通して、みんなでお互いを支え励ましていこうとしました。進路説明会では、その取り組みを保護者も含めてみんなで共有しました。
 そのような甲斐もあってか、受験前の面接練習では、生徒たちがお互いに面接を練習し合う姿や、模擬面接官の横に座り、仲間に質問したり、練習後に評価し合ったりする姿が見られました。「建築家になろうとおっしゃいましたが、植林についてはどう考えていますか?」と生徒面接官が鋭い質問をし、「ありがとう、その視点はなかった。」「そういうことも考えなければいけないね。」と、真摯にその指摘を受け止めて新たな視点を取り入れようとしました。また、面接練習の中で、生徒たちは「森田推し隊プロジェクト」を通して、自分たちが学んだことや気づいたことを語っていました。
 そして、入試も終わり、いよいよ卒業式です。卒業式の前々日である3月9日には「森田39(サンキュー)シャルソン」というテーマで、各クラスが4コースに分かれて森田地区のゴミ拾いをしながら、自分たちの生まれ育ったまちに感謝を伝えるまち歩きイベントを企画しました。コロナ禍の中、「森田推し隊プロジェクト」を実践した「Grow Up」学年は森田中学校を巣立ち、それぞれの進路へ歩み出していきました。
 学年主任として、教師の学びも共有したいと、総合を担当した廣澤教諭にインタビューをしました(一部のみ掲載)。

Q:教師としてどのようなことを大切にしてこられましたか?学べたことは何ですか?
A:森田推し隊の活動に関して、優先してきたことは、生徒自身の思いです。自分たちの地区に対する愛着や思いの上に成り立つ推し隊の活動であるから、生徒がやってみたいといった活動を教員は支える姿勢を心掛けました。活動が成り立つのか不安な面もありましたが、うまくいかなかった時には、その反省を次に活かせるよう話し合って考える生徒の姿が見られました。このことから、生徒主体の活動の意味を再認識し、教員がアドバイザーとして支える姿勢を意識することが、上記のような生徒の成長につながると学ぶことができました。

 彼らとの日々は教師たちにとっても学びや気づきが多く、生徒たちの活動に寄り添ってきたからこそ、気づくことができた視点、学ぶことができた成長の様相があったのでした。
 彼らの卒業した後も、「森田推し隊プロジェクト」という実践は、後輩たちの実践の1つのモデルになっていきました。

*1:Canva https://www.canva.com/ja_jp/
*2:森田推し隊プロジェクト活動誌「MORITA OSHITAI!」 PDF版
*3:三国あわらシャルソンでの訪問先の1つである農場(田嶋牧場)からは、次のような、生徒たちへのあたたかい応援のお手紙をいただいた。

 (略)先日は、修学旅行の折に我が「田嶋牧場のソフトクリーム屋」に立ち寄って下さりありがとうございました。「おいしい!」と言っていただき、皆さんの若くお元気な姿に接することができ、とてもうれしかったです。
 その時にいただいた“MORITA OSHITAI!”という活動誌を読ませてもらい思わずひとりパチパチと拍手していました。
 町づくりは役所や一部の人に任せるのではなく、住民のひとりひとりが考えていかなくては、中々成果があがらないなあ、子どもの頃から自分の町を良くしたいという気持ちをもってくれるといいなあと思うことが度々ありましたので森田中学の生徒さんの取り組みは本当に感心致しました。
 御苦労も多々あったここと思いますが、最後のおひとりおひとりの言葉を拝読し、成長されたんだなあと、またまた拍手を送りたくなりました。
 森田の住民ではありませんが、「ありがとう」と言いたいです。
 森田から福井、日本、世界へと、そして地球のことも考えていって下さい。地球人ひとりひとりが考えていくべきことですが…。(略) 御礼と感想を伝えさせていただきました。皆さんお元気で!