学び!とPBL

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コロナ禍!それでも動き出す生徒たち、同僚たち(中学校でPBL③)
2023.12.20
学び!とPBL <Vol.69>
コロナ禍!それでも動き出す生徒たち、同僚たち(中学校でPBL③)
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

 中学校における探究活動の実践を、前回に引き続き、福井市森田中学校(以下、森田中学校)の木下慶之先生の取り組みを通して見ていきましょう。木下先生は、森田中学校2年目にして、コロナ禍に見舞われてしまいます。

1.休校中でもみんなのためにできること

図1 福井ラウンドテーブル Zone D 授業研究のフォーラム中高分科会 2020/2/15 2020年2月に福井大学で開催された福井ラウンドテーブル(*1)では、森田中学校の教育実践研究を研究主任や同僚たちと発信し、参加者との交流を通して、これからの新たな実践の展望を見出す機会を得ることができました。
 ところが、コロナ禍が始まります。コロナ禍で学校は2020年3月から一斉臨時休校となり、教師と生徒たちの探究は止まってしまいました。インターネットを通じて様々なコロナ対策や制限下の先進的な取り組み、創造的な発想を見聞きすることはできても、自分の学校では実践できず、何もできないもどかしさと、何とも言い表せない無力感ばかり感じていました。2020年4月から、初めての学年主任(第2学年)になります。
 あるとき、研究推進委員のメンバーや管理職と相談し、学習支援ホームページ(Google siteを活用)を作成することにしました。「オンライン森田中学校 森田未来プロジェクト」と名付け、教師からの自宅学習用の教材紹介や、実践の記録、交流のページまで発想はふくらみました(学校祭の映像などもパスワード付きで視聴可)。
図2 オンライン森田中学校のHP(現在はedumapのHPに移行)(*2) 一方向ではなく、少しでも生徒たちの声を聴こうと、アンケート付きの通信の配付を試み、課題とともに回収しました。すると、生徒たちの学びに対する意欲や問題意識を知ることができ、これによって「こんな状況であっても、何かできることがあるのでは?」という思いが、教師たちに沸き起こりました。

2.「森田推し隊プロジェクト」の発意

 5月になっても学校はまだ休校のままでしたが、生徒たちから「休校中だけど、みんなで何かに挑戦したい」という声がアンケートを通して学校に届いていました。
 総合的な学習の時間を担当する教師が、「自宅にいながらできる程度で、自分たちが住む場所の近くの施設やお店、公園などを調べて、その魅力を発信する活動を生徒たちにさせてみませんか?」と、「森田推し隊プロジェクト」というプロジェクト型学習の企画を提案してきました。
 他の担任教師たちも、「よし、やってみよう!」と、すぐに活動オリエンテーション動画を撮影し、学校ホームページを通して生徒たちに「森田推し隊プロジェクト」を提案しました。

図3 総合的な学習の時間「森田推し隊プロジェクト」のオンラインオリエンテーション図4 マイリサーチ・ユアリサーチの学級内での報告会

 6月になってようやく学校が再開しました。生徒たちは休校中に調査してきた内容をポスターにまとめ、まずは学級内で「マイリサーチ・ユアリサーチ」活動として、調査報告や交流をしていきました。
 さらに7月には地区ごとにチームを編成し直し、小グループごとに夏休み期間を利用して校外調査活動に取り組むことになりました。

図5 夏休み中のフィールドワーク

 生徒による実行委員会も結成され、合計20数名の委員が休み時間などを利用し、打ち合わせを重ね活動を運営しました。教師たちは彼らの活動を丁寧に見ながら、サポートやアドバイスをすることにしました。実行委員長たちは8月に開催されたISIF2020(生徒国際イノベーションフォーラム)(*3)にオンライン参加し、他校でのプロジェクト型学習の取り組みを学びました。

図6 生徒たちによる森田推し隊プロジェクト実行委員の会議図7 ISIF2020(生徒国際イノベーションフォーラム)にオンライン参加

 実行委員は、学年のみんなが参画できるように、表現方法も動画やものづくり、ダンスなど、多様な方法を提案しました。
 文化祭では、体育館ステージで全校生徒に対して、これまでのプロジェクトのプロセスを劇形式で報告し、その後教室8教室に分かれて、分科会形式でプロジェクト報告会を行いました。

図8 学年掲示板に作成された森田推し隊マップ図9 森田推し隊のロゴも生徒たちによってつくられ、掲示物や資料などに使用されました

 この報告を通して、さらなる探究への思いが生徒の中に生まれました。「もっと地域のことを知りたい。まだ知らないことや実際に体験していないことばかりだ。」そのようなときに、彼らに新たなチャンスが訪れます。

図10 文化祭での全体ステージ発表とその後の分科会発表

3.「もりたシャルソン」を中学生版で復活

 森田地区の地域の方から、「中学生版もりたシャルソンをやってみませんか?」と連絡が入りました。「シャルソン」とは、タイムを競うマラソンではなく、経験を競い合う「ソーシャルマラソン」の略称です(*4)。今年度はコロナ禍により中止になっていましたが、中学生が地域に関する探究活動を行っていることが地域で話題になり、「中学生で、もりたシャルソンを復活させては」と、生徒たちに誘いが来たのです。
 実行委員の生徒たちに伝えると、「やりましょう!」と即答しました。

図11 子どもたちが作成したシャルソン旗図12 もりたシャルソンGUIDE MAP

 こうして、「もりたシャルソン」と「森田推し隊プロジェクト」のコラボ企画が始まりました。生徒たちは、文化祭の発表で作成した店舗や施設を紹介したリーフレットをもとに、もりたシャルソンのツアーマップを作成しました。活動計画表をチームごと(全24チーム)に作成し、当日を迎えました。
図13 「もりたシャルソン2020×森田推し隊プロジェクト」の発表の様子  移動手段は、徒歩と地域コミュティバスです。当日はあいにくの雨天でしたが、生徒たちは約6時間のもりたシャルソンを成功させました。
 タブレット端末で飲食店の様子や風景、インタビューなどを撮影し、ゴール後には短編動画や自分たちの経験をまとめたポスターを作成しました。実行委員は1週間かけてそれらに目を通して、後日各チームに賞状を授与し、全員でその成果を視聴し合い、認め合いました。テレビ局や新聞社の取材も受け、彼らの活動が地域に発信されるチャンスにもなりました。
 様々な方に携わってもらえることによって、当初は思ってもみなかった活動へと発展したのです。

図14 もりたシャルソン2020の様子

図15 もりたシャルソン2020 各グループのツアーポスター

図16 もりたシャルソンの様子と生徒玄関でのゴールシーン 実行委員の生徒たちは表彰式を企画し、「よいタイムを出したチームとか、たくさんポイントをとったチームだけでなく、すべてのチームに賞をつけましょう!」と提案がなされました。教師は「どれだけ地域の名所や店舗を訪問したか」、「公共交通機関をうまく活用できたか」などで数値化し、上位数チームを表彰しようかと考えていたのですが、生徒たちは撮影した写真や動画、さらに活動報告ポスターなど、チームごとにそれぞれの良さを評価し、賞を与えたいと考えるようになりました。単純な指標だけで「数チームだけを評価するのではもったいない」とのことでした。実行委員と彼らをサポートする教師らは、昼休みなどを利用し、ポスターや動画などを審査し、「インスタ映え賞」や「たくさん歩いたで賞」などの賞を設定しました。1週間後の総合的な学習の時間に体育館に学年全員が集い、各クラス代表の動画を視聴後、実行委員からすべての班に賞状が授与されました。
 森田推し隊実行委員長の生徒は次のように振り返りました。
図17 生徒たちが企画した「もりたシャルソン」表彰式 「今回のもりたシャルソンを通して、森田の良さについて知ることができました。一つ目は人の良さです。あいさつしたら返してくださるし、質問したら丁寧に答えてくださいました。すごく良い気分で過ごすことができました。二つ目はお店の良さです。お菓子屋さんや、飲食店の方の対応が良く、優しい方ばかりで、安心して食事をすることができました。このように、森田の良いところを発見できて、2年生にとってとても良い経験になりました。」

*1:福井大学連合教職大学院と実践研究福井ラウンドテーブル
https://www.fu-edu.net/
*2:edumapホームページ
https://morita-jhs.edumap.jp/
*3:ISIF(生徒国際イノベーションフォーラム)2020 学び!とPBL <Vol.54>
https://www.nichibun-g.co.jp/data/web-magazine/manabito/pbl/pbl054/
*4:もりたシャルソン
https://www.facebook.com/MoritaCialthon