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世界に先行する韓国のデジタル教科書
デジタル教科書導入の流れはどうなっていくのだろうか。臨場感があり、情報量も豊富なデジタル教科書には魅力を感じる。これまで国語の授業で様々な教材を扱ってきたが、紙媒体では不十分なこともあり、ストレスを感じていたからである。しかし、新しいメディアが現れる時には、すんなりといき難いかもしれない。
さて、韓国ではすでに、小・中学校に電子黒板・電子教卓・IPTVなどが配備されている。また、この新学期から、全ての小中学校の国語・英語・数学の3科目についてデジタル教科書導入を義務化した。さらに2013年には、生徒1人1台のタブレット端末の導入を目指している。
そこで2010年に2回韓国に訪問し、小学校の調査と教師へのインタビューを行った。2回目には、日本の文部科学省にあたる教育科学技術部で、朴(パク)参事官に直接話を伺う機会を得た。その印象を述べたい。
一つは、児童が主体的に情報を検索している姿がとても印象的であった。1冊の本から答えを見つけるのとは、探す楽しさが違う。色々なWebサイトに積極的にアクセスして、学習に必要な情報を見つけ、重要な点はペンで書き込む。また、検索内容を共有することが可能であるため、学びの幅が広がっていた。
二つは、子どもたちの学習活動が意欲的だった。魅力的な教材を手にして、それに興味を持たない子どもはいない。どんどん英語の音声が飛び出し、それに早口の英語で応える。そのようなテンポの良い教材を使うことで、授業が楽しそうだった。
三つは、デジタル教科書の導入のために、十分な準備と検証が行われた点である。その中には、視力や電磁波の影響についての課題も盛り込まれていた。
朴参事官から手渡されたKERIS[注1]の資料には、「研究モデル校の使用端末機は高性能の端末機であり、今後もPC、ノートパソコン、ネットブック、iPad、スマートフォンなどの活用環境を研究する」と書かれていた。
また、韓国のデジタル教科書には規定が書かれていた。「デジタル教科書とは、学校と家庭で時間と空間の制約なしに、既存の教科書や参考書/問題集/用語辞典などを含み、それを動画/アニメーション/Virtual Realityなどのマルチメディアと統合/提供して多様なInter-active機能と学習者側のレベルに合わせて学習が出来るように設計された学生用の主な教材」と定義されている。デジタル教科書は、電子著作物に含まれている。
すでに、幅広い学習資料の提供や既存の(紙の)教科書とほぼ変わらない筆記・ノート・メモ機能の提供、学習者側に合わせた進度管理と評価など、学生個々のレベルに合う学習が可能な教科書を目指していたのだ。
さて、デジタル教科書の導入は、韓国だけではなく、すでに多くの国々で実施されている。日本の政府も2020年を目標にし、昨年度からはフューチャースクールの実証実験も開始された。これからは、高いリテラシーを持った上で、情報にアクセスすることができる子どもたちを育成していくことが必要になるだろう。
デジタル教科書では、授業中に感想や意見の共有が瞬時にできることも、学びを深める意味からも有難いことである。しかし、その使い方や教育方法の確立は不十分である。また、子どもたちがインターネットの検索に依存してしまう点が危惧されている。しかし、例えば、大地震などの災害においては、情報取得の有無が生死を分けてしまうことさえある。信頼性が高く、正しい情報にアクセスできるメディア・リテラシーが必要となるだろう。
デジタル教科書の導入にあたっては、従来のカリキュラムの枠組みにとらわれないメディア・リテラシー教育が必要になるだろう。
[注1]KERISは韓国教育学術情報院といい、教育・研究情報の開発、管理、提供を行う政府直轄機関。
上松恵理子(うえまつ・えりこ) |