学び!とシネマ

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あの頃、君を追いかけた
2013.09.12
学び!とシネマ <Vol.88>
あの頃、君を追いかけた
二井 康雄(ふたい・やすお)
(c)Sony Music Entertainment Taiwan Ltd.

(c)Sony Music Entertainment Taiwan Ltd.

 2011年、台湾や香港で大ヒットした映画「あの頃、君を追いかけた」(ザジフィルムズ、マクザム、Mirovision配給)が、このほど公開される。
 舞台は台湾の中西部にある町、彰化。あまり深く将来を考えることのない高校生コー・チントンことコートン(クー・チェンドン)と、その仲間たちの群像劇である。時代は1994年頃からの10年ほど。高校生たちは、大学に進学、卒業してからの数年間を、いささかの誇張を交え、ドタバタふうではあるが、軽快なタッチで、青春の喜怒哀楽を綴っていく。日本のコミック、井上雄彦の「スラムダンク」に憧れた高校生たちは、大学では、日本のアダルトビデオの世話になる。台湾と日本、その状況はさほど変わらない。もちろん笑わせるが、ラスト近くからは、爽やかな涙を誘い、なかなかの瑞々しさ。こなれた演出に洗練を感じる。
 コートンには仲良しの同級生が4人いる。中学からの親友で、いつも股間を勃起させていることからボーチと呼ばれているシュー・ボーチュン(イエン・ションユー)。シェ・ミンハ(スティーブン・ハオ)は成績は優秀だが、食いしん坊で太っていて、アハと呼ばれている。バスケのNBAが大好きで、トレーディングカード収集が趣味のツァオ・グオション(ジュアン・ハオチュエン)は勉強が嫌い。リャオ・インホン(ツァイ・チャンシエン)は、いつも股間を掻いているので、マタカキと呼ばれている。

(c)Sony Music Entertainment Taiwan Ltd.

(c)Sony Music Entertainment Taiwan Ltd.

 5人は、いわばクラスの問題児。コートンとボーチは、ヒステリックな女教師の授業中に、オナニーのまねごとをする。たちまち二人は席替えとなり、コートンは優等生のシェン・チアイー(ミシェル・チェン)の前に座らされる羽目になる。しかも、チアイーに、勉強の指導を受けるよう、教師から言い渡される。チアイーは、5人組が憧れている女生徒だ。
 5人は、チアイーの注目を引こうと、いろいろとアプローチする。マタカキは、下手な手品を見せる。ツァオは、上手くもないドリブルを披露する。ポーチは、夜なのに、チアイーの家まで出かけて、リコーダーを吹く。アハだけは、幼稚でない証拠とばかり、エア・サプライのコンサートに誘うなど、老獪だ。そんな中にあって、コートンは、チアイーを好きなのに、わざと粗野な振る舞いで、素直に思いを伝えられないでいる。コートンの一種の愛情表現だが、チアイーは、百も承知である。
 ある日、チアイーが教科書を忘れる。コートンがとっさに、自分の教科書をチアイーに渡し、コートンが叱責を受ける。チアイーは、少しでもコートンの成績がよくなるよう、自作の試験問題をコートンに与える。しかし、乗り気ではないコートンの反応はいまいちである。チアイーはコートンに言い放つ。「軽蔑するのは、自分が頑張らないで、人の努力をバカにする人」と。やがて、コートンの成績が少しずつ良くなっていく。
 1997年。大学への進学の日が来る。コートンたち5人の仲間とチアイーは、それぞれの道を進む。そして、コートンとチアイーの愛の行方を、ハラハラしながら見守ることになる。

(c)Sony Music Entertainment Taiwan Ltd.

(c)Sony Music Entertainment Taiwan Ltd.

 監督は、もともと、いろんなジャンルのネット小説で注目を浴びたギデンズ・コー。映画監督のキャリアは浅いけれど、すでに手だれ。本作は、自身の自伝的小説の映画化で、幅広い才能を感じさせて、さらに今後に期待がもてる。
 台北生まれ、中華圏で抜群の人気を誇るジェイ・チョウの唄う「ヌンチャク」が挿入されたり、校内放送の呼び出しで「3年2組、ジェイ・チョウ、生徒指導室にすぐ来なさい」などの楽屋落ちサービスもちらほら。セリフに散りばめた数々のメッセージもいい。あきらめないこと、人の努力をばかにしないことなど、少年から青年、大人になっていくために必要な心構えが、さりげなく伝わる。映画の冒頭、ノートに書かれた言葉は、「笑われる夢にこそ価値がある」、「正義に必要なのは卓越した武芸だ」、そして「人生に無意味な出来事はない」である。

2013年9月14日(土)より、新宿武蔵野館ico_link千葉劇場ico_link ほか全国順次ロードショー!

『あの頃、君を追いかけた』公式Webサイトico_link

監督:ギデンズ・コー(九把刀)
製作総指揮:アンジー・チャイ(柴智屏)
出演:クー・チェンドン(柯震東)、ミシェル・チェン(陳妍希)
2011年/台湾/110分/中国語/シネマスコープ
配給:ザジフィルムズ/マクザム/Mirovision
宣伝:ザジフィルムズ
協力:トリウッド
特別協力:駐日台北経済文化代表処
協賛:チャイナ エアライン