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(C)2015「種まく旅人 くにうみの郷」製作委員会

 地産地消という。流通の進歩で、その意味は次第に変化しているかもしれない。だが、食べるものは、本来、地産地消である。残念ながら、人間は、動物や植物を食べることでしか生きられない。だから、食べるもの、食べることは、生きていく上で、たいへん重要なことである。そのような、至極当たり前のことを、映画「種まく旅人 くにうみの郷」(松竹配給)は、淡々と語りかける。
 舞台は淡路島。イザナギノミコトとイザナミノミコトが作った、日本のはじまりの島である。山や森があり、海がある。山の畑では、タマネギを作り、海の近くでは、海苔を養殖する。海彦山彦さながら、島にはタマネギを育てる若者、岳志(桐谷健太)と、海苔を養殖する若者、渉(三浦貴大)がいる。兄が岳志で、渉は弟である。そこに、農林水産省から、アメリカ帰りの女性官僚、神野恵子(栗山千明)が、第一次産業の現状を調査する目的で島にやってくる。まだ31歳、肩書きは地域調査官で、短期赴任である。恵子は、しばらく島に住み着くことになる。岳志と渉の兄弟は、父親の死をめぐって仲違いしている。

(C)2015「種まく旅人 くにうみの郷」製作委員会

 当初、上から目線の恵子は、役場のベテラン職員、津守(豊原功補)や、農水産部長の尾形(山口いづみ)をはじめ、地元の人たちから厳しい目で見られる。しかし、仕事であるから、なんと思われようと、きちんと現場を視察し、報告をしなければならない立場なのだ。恵子は少しずつ、島の暮らしにとけ込む努力を続け、あるとき、渉に頼み込み、力のいる海苔の養殖現場を体験し、タマネギ栽培の夢を語る岳志に付き合うようになる。
 漁業、農業の厳しい現実がある。海はきれいだが、人手不足、環境の微妙な変化がある。種をまく人がいても、いつも豊かに実るわけではない。確執を抱え、対立しながらも、仕事にひたむきな兄弟と付き合ううちに、恵子はなんとか兄弟が和解できないかと考えるようになる。
 島には、「かいぼり」という伝統的な作業がある。あちこちに点在する池の水を抜く作業だ。結果、池に積もった堆積物を海に戻すことで、栄養分を与える。これには、人手不足や海苔の養殖上の問題などがあり、ここしばらくは実施されていない。いろいろと調査した恵子は、「かいぼり」の復活に挑もうとする。

(C)2015「種まく旅人 くにうみの郷」製作委員会

 渉には、麻衣(谷村美月)という恋人がいる。美月は、淡路島伝統の、女性による人形浄瑠璃師を目指している。劇中、麻衣が浄瑠璃の稽古に励むシーンがたびたび出てくる。「かいぼり」に絡んだシーンと、人形浄瑠璃のシーンが巧みに交錯して、劇的に盛り上がる。
 タマネギと海苔。一見、関係のなさそうな食べ物が密接に結びつく。映画には、食品生産の現状、中央と地方の関係、地方の現実、山や海の環境問題などなど、多くのテーマが見え隠れする。監督の篠原哲雄は言う。「多くのことを語りたくなる映画だ」と。
 地域振興を専門にしている、あるコンサルタントの言葉がある。「地域振興には、3つのものが必要。わかもの、よそもの、ばかもの」。なるほど、と思う。映画から学び、議論し、考えることは多々ある。「種まく旅人 くにうみの郷」は、そのいい例だろう。

 

2015年5月30日(土)より新宿ピカデリーico_linkほか全国ロードショー!

『種まく旅人 くにうみの郷』公式Webサイトico_link

監督:篠原哲雄
脚本:江良至、山室有紀子
出演:栗山千明、桐谷健太、三浦貴大、豊原功補、谷村美月、音月桂、根岸季衣、永島敏行
製作・配給:松竹
上映時間:111分
(C)2015映画「種まく旅人 くにうみの郷」製作委員会