学び!とESD

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絵本をきっかけにはじめてみよう(1) ~ハーモニーの教育~
2023.03.15
学び!とESD <Vol.39>
絵本をきっかけにはじめてみよう(1) ~ハーモニーの教育~
木戸 啓絵(聖心女子大学大学院永田研究室・東海大学児童教育学部専任講師)

 今月は、これまでの連載でも何度かご紹介したハーモニーの教育(Vol.1, Vol.12, Vol.13)に関係する、素敵な絵本をいくつかご紹介したいと思います。
 ハーモニーの教育は、イギリスのチャールズ国王が皇太子時代から提唱してきた「ハーモニーの原則」にのっとった教育的なアプローチです。自然界に見られる様々な特徴を「多様性」「相互依存」「健康」「適応」「幾何学」「循環」「ひとつらなり」というキーワードで整理して、これらをハーモニーの原則として挙げています。この7つの原則は独立して存在しているのではなく、それぞれが関連性をもって成り立っているという点も重要です。現在、ハーモニーの原則に沿って、イギリス国内ではさまざまな実践が取り組まれています。本連載でも、ハーモニーの教育を実践するイギリスの公立小学校(アシュレイ小学校)の実践が取り上げられています(Vol.12, Vol.13)。
 このハーモニーの教育実践の広がりを支えているプラットフォームの一つが、「ハーモニープロジェクト」です。そのホームページには、「持続可能性と自然を学びの中心に据える」というモットーが示されており、ハーモニーの教育を実践するさまざまな現場を支え、それらをつなげる役割を担っています。例えば、多様な年齢層の子どもたちを対象とした教材や、具体的な教育計画についても紹介されています。
 そこで、今回はこのハーモニープロジェクトのホームページで取り上げられている教材の中から、ハーモニーの原則に触れ、探求を深められるような絵本をいくつかご紹介したいと思います。このホームページでは、それぞれの原則に関連した絵本が数冊ずつピックアップされています。その中でも日本の絵本も取り上げられている「多様性」の原則に着目して、今月号と来月号で二冊の絵本をご紹介します。
 まず一冊目は、『All Are Welcome』(作:アレクサンドラ・ペンフォールド、絵:スーザン・カウフマン)です。こちらは、『ニューヨークタイムズ』の絵本部門でベストセラーに選ばれています。絵本の中では、授業、休み時間、ランチタイムなど学校のさまざまな場面で、生徒たちみんなが、あたたかく受け入れられていることが描写されています。ページをめくるごとに、「みんな歓迎されている(All Are Welcome)」というお馴染みのフレーズが繰り返されます。例えば、イスラム教のヒジャブを着けた女の子が朝お祈りをしたり、みんなと遊んだり、世界地図の前にみんなと立っているイラストには、次のような言葉が書き添えられています。「どんなふうに1日をはじめても、遊ぶときにどのようなものを身につけていても、遠くから来ていても、みんなここでは歓迎されています」

多様性について(出典:ダン(2020, p73))

 多様性ということを子どもたちと探求するとき、みなさんはどのようなことを意識するでしょうか。私たちの暮らす地球には人間だけでなく、さまざまな生命が存在し、お互いに関係し合いながら複雑な生態系を形作っています。人間にも同じことが言えますが、自然界に存在するものはそれぞれ異なっていて、多様性があると同時に、そのすべてが大切でかけがえのない存在であることを子どもたちに感じてもらいたいと思います。
 みなさんが関わる子どもたち一人ひとりに「あなたは歓迎されているよ」「あなたはここにいていいんだよ」と伝えるために、あなただったらどのようなことをするでしょうか。園や学校など子どもたちが集まるさまざまな場で、子どもたち一人ひとりが、自分はこの場に受け入れられているのだと感じてもらいたいものです。今回ご紹介した『All Are Welcome』は、このようなことをみんなで感じ合ったり、話し合ったり、考え合ったりするきっかけになるような絵本でしょう。
 次号では、ハーモニーの原則の1つでもある「多様性」に関する絵本をもう一冊ご紹介します。絵本の持つ魅力やESDを実践する上でのポイントについても考えたいと思います。

【参考文献】