「ボンボン」

ユアン少年と小さな英雄よりボビーの写真 荒涼たる風景のアルゼンチン、パタゴニア。なんとも気の弱そうな初老の男ファンが、手作りのナイフを売っているが、そうかんたんには売れない。ファンは、20年間働いていたガソリンスタンドをクビにされたのだ。とくにスキルのない初老のファンにとっては、世間の風は冷たい。住まいもなく、ファンは娘夫婦の家に身を寄せているが、娘夫婦も豊かではなく、ファンの居心地はいいものではない。
 ある日、ファンは動かなくなった車で困っている女性を助ける。お礼にもらったのが、なんと犬。しかも大きな犬で、ドゴ アルヘンティーノという立派な血統である。貧しいファンは、お金のほうがよかったのにと思うが、その犬ボンボンを助手席に乗せると、ファンはなぜかほっとするのだった。
 まったく恵まれない日々のファンに、ボンボンのおかげか、すこしづつ運が開けてくる。仕事にもありつけ、大の犬の愛好家にもめぐり会う。さらにドッグショーで三位ながら入賞を果たす。
 ところが、いいことばかりは続かない。立派な種つけ犬になったボンボンは、いざとなったときには、大事な仕事ができなくなってしまうのだった…。
 映画を見る大きな喜びは、世界のいろんな文化や風俗、歴史にふれることができることである。アルゼンチンの広大な景色。貧しくても、一生懸命に生きる人たち。映画「ボンボン」は、犬が登場して重要な役割を果たすが、基本的には、ラテンの人たちの、人生を肯定した、だから何とかなる、といった気質に満ちている。偶意的なお話ではあるが、人生捨てたものではない、いつまでも夢をなくさずがんばろう、そんな意欲が湧いてくる。
 ファンに扮したファン・ビジェガスは、俳優ではないふつうの人。気が弱く、人のよさそうな初老の男性は、等身大で描かれる。
 貧しくても、懸命に生きていかなければならない人生について、みんなで考えてみませんか。

●公開は4月中旬、シネカノン有楽町ほか全国ロードショー