学び!と美術

学び!と美術

「ラウンド・ダイアローグ(役割交代鑑賞)」
2020.02.10
学び!と美術 <Vol.90>
「ラウンド・ダイアローグ(役割交代鑑賞)」
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 近年、美術鑑賞は、対話的なディスカッションあり、鑑賞アクティビティあり、知識解説型ギャラリートークありと、すっかり多様になってきました。本連載でも、これまでいろいろな鑑賞方法を紹介してきました(※1)。今回は、最近考案した、役割を交代しながら対話が進む「ラウンド・ダイアローグ」を紹介します。

対話には4つのタイプがある(※2)

 対話というと、ファシリテータも参加者も「しゃべらないといけない」「発言が続かないといけない」などの強迫観念にとらわれがちです(※3)。でも「積極的に発言する人」もいますが「人の意見を聞いているだけの静かな人」もいる、それが普通の対話です。
 全米の指導的立場にいるフリック美術館のリカは、対話と呼ばれる鑑賞には、「自由にとりとめもなくおしゃべりする会話(Conversation)」「リーダーから与えられたテーマや質問について考える授業のような議論(Discussion)」「問いや結論を生み出す主体が参加者にあり、即興的でオープンに進む対話(Dialogue)」の「三つのタイプ」があると言います(※4)。その中で、参加者は4つの役割を果たしており、みんな適切にふるまっていると指摘します。4つの役割とは以下です。

 ①どんどん意見を言う推進役(Mover)
 ②推進役から出た意見を補強、補充する補佐役(Follower)
 ③意見は言わないけど、みんなの発言を聞きながらうなずいている傍観役(Bystander)
 ④意見に反対したり、不同意を示したりすることで、対話を活性化する反対役(Opposer)

 確かに、そうだなと思います。「自分はどの役割を果たしているのだろう」と考えると面白いでしょう。研修会などで挙手してもらうと、推進役や反対役は少数派で、傍観役が最も多いようです。ただし、「黙っている」から「考えていない」わけではありません。じっと友だちの意見を聴きながらいろいろなことに思いを巡らせています。また、反対役や推進役は傍観役を見ながら意見を言います。傍観役にうなずかれることで安心したり(連携)、妥当性を確かめたり(判定)しています。大勢いる傍観役はまとめでは決定権ももちます。対話や話し合いで大切なのは推進役や反対役だけではなく、傍観役も大事。すべての役割が必要なのです(※5)

すべての役割を実感する「ラウンド・ダイアローグ」

 鑑賞において重要な目標の一つは参加者の変容でしょう。「すべての役割が大事」だとすれば、対話における役割を体験するアクティビティもありだと思いました。そこで以下のような「ラウンド・ダイアローグ」を考案しました。

  1. 4つの役割に、司会の役割を付け加えた5枚のカードを用意します。表面には役割、裏面には役割の解説が書いてあります。(写真参照)
    ①推進役(Mover)
    ②補佐役(Follower)
    ③傍観役(Bystander)
    ④反対役(Opposer)
    ⑤司会役(Facilitator)
  2. グループの成員に役割カードを配ります。5人以上のグループでは傍観役を増やします。
  3. グループ全員で同じ絵を鑑賞します(※6)。ただし、自分の役割を踏まえて。例えば、傍観役のカードをもらったら、傍観に徹してもらいます。たとえ、推進役の性格であったとしても!
  4. 5分話し合ったら、役割カードを回して役割を交換します。これを5分おきに繰り返し、鑑賞を続けます(※7)
  5. 全員が役割を果たした頃、全員で鑑賞した内容をまとめて、グループごとに発表します。

役割カード 役割カードをもらって、役割について考えている姿

 鑑賞に一種の役割演技を組み込んだ活動ですが、これまで企業や教員の研修で実践して以下のような効果を感じています。

  • 自分を発見する~自分の特性を知ることができる、自分は傍観するタイプと思っていたのに反対役の素養があるに気付く、等。
  • 他者の重要性を理解する~意見を言う人だけが大事ではないことが分かる、対話に他者が欠かせないことを理解する、役割と対話の関係を実感する、等(※8)
  • ヒエラルキーのない議論ができる~役割演技という申し合わせがあるため利害関係なく自由に発言できる、美術作品の多様性がヒエラルキーを解消する、等。
  • 美術鑑賞のよさが実感できる~美術作品の持つ多様性が反映された対話の楽しさを味わえる、何を言ってもよいという安心感をもてる、等。

 「ラウンド・ダイアローグ」は他の教科等でも可能なアクティビティですが、美術作品の多様性や鑑賞の自由さゆえに活発な活動になるように思います。ぜひ美術鑑賞がつくりだす対話と役割を体験してはいかがでしょうか。

※1:学び!と美術<Vol.78>「ラウンド・スケッチ~人気の鑑賞アクティビティ」
※2:以下の調査成果に基づいています。科学研究費補助金基盤研究(B)平成24-26年度「科研費美術館の所蔵作品を活用した鑑賞教育プログラムの開発」研究代表者:一條彰子
※3:武蔵野美術大学の杉浦幸子は、視覚思考法とも言うべきVTSが対話型と訳されたことに起因しているのではないかと指摘している。
※4:Rika Burnham, Elliott Kai-Kee, “Teaching in the Art Museum-Interpretation as Experience” (2010) ちなみに、リカは、次々と質問されたり、意見が強要されたりするディスカッション・タイプは嫌いだと言っていました。
※5:原著を翻訳するとこうなりますが、日本語では「傍観役」は「共感役」、「反対役」は「創造役」の方が適切という意見もあります(愛知県深谷孝之先生)。実際に、傍観に徹して共感を忘れたり、反対に徹して創造に貢献できなかったりする例も見られます。役割名は柔軟に考えた方がよいでしょう。
※6:アートカードやプロジェクターを用いています。
※7:司会役はラウンドさせず固定する場合もあります。
※8:アクティビティをした後の鑑賞活動に、相手の意見や存在を尊重しようとする態度が見られることもあります。

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