学び!とPBL

学び!とPBL

バーチャルな空間でリアルな学びを
2022.09.20
学び!とPBL <Vol.54>
バーチャルな空間でリアルな学びを
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.オンライン上の国際会議

 生徒国際イノベーションフォーラム2020@online(以下、ISIF2020と略)は、世界各地から中高生が参加し、コロナ禍などの課題を共有し、私たちや社会のニーズに応えられる未来の学校とはどのようなものかを、「学校のWell-being(よりよいあり方)」を切り口に話し合う会議です。
 異なる立場の人々が自由にコミュニケーションをとり、アイディアを出し合うために、8月1日から9月30日までの2か月間ウェブサイト上に「広場」をつくり、開催しました。8月11-12日に、フォーラム全体のメインセッションであるライブトークが開催されました。9か国・地域(インドネシア、マレーシア、グアテマラ、香港、台湾、フィリピン、トルコ、ベトナム、日本)から、200名の生徒・学生と100名の教師・関係者が参加しました。「学校のWell-being」を多様な視点で話し合うために、よりよい暮らしの指標として使われているOECDのBetter Life Index(*1)を採り入れ、学習資料(資料1参照 )も準備しました。ISIF2020は、バーチャルな空間であっても、異なる地域からの参加者がリアルに出会い、リアルに学び合い、エージェンシーを共振し合う場となることを目指しました。

ISIF2020のオープニングビデオ

2.会議はバーチャルでも学びはリアルに

 2020年時点で世界は新型コロナウイルスの禍中にあり、学校は長期間にわたって臨時休校となり、それまで「当たり前」に通っていた学校から投げ出された生徒たちであふれかえり、学校の先生たちも経験したことのない混乱にあえいでいました。けれどもこのことが、100年に1度の「学校の当たり前」を突き放したり、教育のイノベーションを考えたりする格好のチャンスであることも事実です。
 ISIF2020は、これまでの実践研究を踏まえ、中高生を中心に、教師や研究者、大学生、教育行政、企業、NPOなどが「平等に」語り合うフォーラムです。海外も含めた各学校の実践や教育活動、そこで感じる生徒や教師の「ホンネ」を持ち寄りながら、新しい学校の「カタチ」を描き出します。このフォーラムのゴールは、2030年の未来の学校の枠組み・指標づくりの第一歩として世界中の生徒と教師で「学校のWell-being」を考え、目の前の学校の変化の可能性と課題を明らかにすることです。常に、「個人のWell-being」と「社会のWell-being」を実現する「学校の姿」とを往復しながら議論しました。
 2020年7月から参加受付が開始され、参加者同士の事前のコミュニケーションのツールとして、Slackが活用されました。自然に語り合える人間関係を構築し、「学校のWell-being」の予習をし、オンラインでの会議に慣れること、またモデレーター(多くは大学生サポーター)の練習も兼ねて、7月末と8月はじめにプレセッションを2回開催しました。
 参加校・参加チームは、相互理解と対話を深めるために、事前に次のような「宿題」の提出を求めました。

  1. 各学校の探究活動の紹介ビデオ、もしくはポスター(PPT等)の提出:これは事前にSlackで、バーチャルポスターセッションとして参加者と共有しました。
  2. 「学校のWell-being」に関しての事前報告書:OECDのBetter Life Indexの11の指標の中から少なくとも3つを選び、今の課題、未来の望むべき姿、そしてそこに向けてどのようなアクションをとるのかを事前に考え、提出してもらいました(資料2参照 )。

3.メインセッションの実際

図1 ISIF2020の様子

 メインセッションでは、「学校のWell-being」について、次のステップで、グループディスカッションが行われました。

  1. 今の学校の現状を分析する:参加者は今の「学校のWell-being」の現状に関して、Better Life Indexの指標ごとに提案された3つの質問に関して議論し、分析を行う。
  2. 未来の学校に向けての新しいアプローチをデザインする:上記1の分析に基づいて、学校に向けての新しいアプローチを模索する。
  3. 戦略を考え予測する:上記2のアプローチを実現するための戦略を話し合う。

 進行役を務めた3人の高校生は、コロナ禍により、今の学校の良い点と悪い点が明らかになっただけでなく、以前はあいまいで見えなかった部分、例えば学校によってオンライン授業が実施されたかどうかなどの格差が生まれたことを問題視し、「私たちは、大人や学校から与えられた環境に疑問を抱くことなく過ごしているだけでは、何も状況はよくならない」と述べました。
 「健康」をディスカッションのテーマに選んだAさんは「ひどい片頭痛に悩まされており、頭痛のときには何も手につかず、宿題にすごく時間がかかり、睡眠時間が削られている。睡眠不足は学校の集中力に影響し、ネガティブなサイクルになってしまう。そのため、学校が健康に与えるネガティブな影響を取り除き、逆に健康を増進させることを考えていきたい」と述べました。
 OECD the Future of Education and Skills 2030(Education2030)のプロジェクトマネージャーである田熊美保氏は、「『学校のWell-being』に関しては、合意された絶対的な回答はない。よって他人と違う意見を持っても、けっして恥ずかしがらないで、皆さんが様々な面で『学校のWell-being』のパイオニアであると認識してほしい。皆さんの経験が大切なのです」と参加者を激励しました。海外の参加者の中には、書字障がいで教師に誤解されている生徒や、自由に探究活動ができない生徒、不登校の生徒らもいました。「新しい学校」とはエリートによる学校ではなく、このような、ややもすれば周辺に置き去りにされがちな事情を抱える人々の意見もしっかり吸収し、むしろこうした声が現在の硬直化した学校を変えるきっかけになると確信しました。

図2 ISIF2020の様子

*1:https://www.oecd.org/tokyo/statistics/aboutbli.htm