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落語ブーム!?

 落語がブームだそうです。だそうですって他人事みたいですが、ブームとは末端の者まであまねくその恩恵に浴すことを言うのでありまして、前座諸君が潤っているという話は聞かず、まあブームの兆しがあるといったところでしょう。
 兆したキッカケは二つあると言われています。林家こぶ平の正蔵襲名と、テレビドラマ「タイガー&ドラゴン」がそれです。襲名は派手でしたよ。上野から浅草までパレードし、仲見世通りでは歌舞伎役者顔負けのお練りを挙行したのですから。正蔵の自宅の地下倉庫から大量の祝儀袋の束が見つかり、脱税が発覚したのもその規模の大きさを物語るエピソードでしたね。
 落語家が主人公の「タイガー&ドラゴン」には、若い女の子がキャーキャー言いました。クドカンこと宮藤官九朗脚本で、ジャニーズ系の長瀬智也と岡田准一が主演とくれば無理のない話で、そのまんま若い女の子が寄席へ押しかけたわけです。
 新宿末広亭ではこんなことがありました。女の子が口々に「長瀬クンは、岡田クンはいつ出るのか」と尋ねたというのです。よくできた話です。誰か落語家の作ったネタかと思ったらさにあらず。実際にあったことだそうで二度ビックリでした。で寄席側は、「うん。長瀬クンと岡田クンはね、緑山スタジオに出ているんだよ」と答えたんだそうで、なかなか粋な話です。

画像:立川談四桜 毎年恒例の「大銀座落語祭」の成功も手伝い、若い観客が確かに増えています。そして落語は、若い人にとって案外新鮮に映るようで、その敷居の低さに驚いているようです。私も大学で一年間教壇に立った経験から分かるのですが、若い人は落語を敷居の高いものとして捉えているんですね。「笑点」をイコール落語と思っている、年寄りのものと決め付けているなどは可愛いもので、「正装して行かなきゃいけないんでしょうか」など思い詰める若い人もいるのです。
 「なぜ着物で演じるんですか。なぜ正座するんですか」という素朴な質問にもたじろぎます。普通、答えを用意してないですからね。「一人でさびしくないですか」には絶句しましたっけ。そりゃさびしいし、心許ないですよ、誰も助けてくれないんですから。今にして思うと「漫才と違ってギャラ一人占めなのさ」ぐらい言っときゃよかったと思いますが。

 若い人は死語につまずきます。古今亭志ん生の十八番(おはこ)だった『火焔太鼓(かえんだいこ)』のオチは「おまえさん、商売は音のするものに限るねえ」「うん、限るな。よし、派手に儲けよう。今度は半鐘を買ってくらあ」
 「半鐘?半鐘はいけないよう、オジャンになるから」
なのですが、半鐘もオジャンもわからないと言うのです。えー、半鐘は除夜の鐘の小さなもので、火事の時に…などと、いっ時は苦労したのですが、昨今の金属泥棒のお陰で解消されました。半鐘の実物写真が新聞に載ったり、ニュースの映像になったりしたのです。何でも中国で大量に金属を必要とするとかで、つまり北京五輪のお陰で死語が復活したのです。
 「小間物屋、荒物屋って何?」という質問の前に、先手を打ちます。「小間物屋はマツモトキヨシ、荒物屋は東急ハンズね。はい、ついてくるように」。若い子はこれで納得です。同時に中高年が「そうか、絶滅したと思っていたが、そう形と名称を変え、生き残っていたのか」と驚きの声を上げ、あらゆる世代を相手にする落語家は、これでなかなか大変なのです。
 今では地域奇席という落語会も盛んですので、どうぞお近くの会を覗いてみて下さい。
  ではお待ちしています。

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