学び!とESD
学び!とESD

気候変動教育については、このシリーズでもユネスコの文書(Vol.36, Vol.37, Vol.38, Vol.46, Vol.55, Vol.56)やイギリスの若者の活動の例(Vol.47, Vol.48)など度々紹介してきましたが、日本の教育現場での実践例は、本連載のVol.25で紹介しているとはいえ、まだあまり研究されたり広められていないのが現状です。
気候変動教育はそのアプローチに、多くの要素が必要とされます。まず、その学びのプロセスは探求的であるべきで、学習者自身が環境・社会・経済の側面から持続可能性を考える必要があります。理科や地理、生物など単一の教科だけでなく、教科横断的にいろいろな科目で学ぶことが理想であり、知識の習得だけでなく、社会情動的なスキルの育成や、行動変容を育むことが目的とされています。社会を変容させる学びとなるために、システム思考や批判的思考、コミュニケーションなどのコンピテンシーを重視し、その実践の場として生徒が学校施設のインフラを考え直したり、地域連携や企業連携などもを活用したりすることが望ましいことから、学校全体(ホール・スクール)(Vol.14, Vol.20参照)で取り組むことが理想とされています。(ユネスコ、2024)(*1)。
ざっとこれだけ書いていても実践するのはとても難しそうですが、持続可能な社会づくりに資する教育を実現するには、どれもとても大切な要素です。
実際に、学習指導要領でも明確に示されていない「気候変動教育」を授業で展開するには、一体どこから着手すればよいのでしょうか。多忙な現場の教員の多くは、このような問題意識や困難を抱えていることが想像できます。
そこでご紹介したいのが、全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)が環境省の支援で始めた「気候変動教育研究会 」(*2)です。
この取り組みは、小・中学校及び高等学校において気候変動教育を展開していくための学習プログラムの事例を紹介し、気候変動に関する授業が、単なる知識の習得ではなく、学校や周辺を巻き込んだ具体的な取り組みに展開されていくよう学びと実践を融合させていくことを目的としています。特に、気候変動教育と市民教育を融合させるESDの視点をもった実践的な取り組みを生み出すことを狙いとしています。
ここで挙げられている事例は、全国にある地球温暖化防止活動推進センターまたはESD活動支援センターからの推薦によって集められています。また、毎月の研究会で学校教員や専門家に授業を紹介してもらいながら、その輪を広げています。
このサイトでは、4月1日時点で17件の事例が紹介されており、その形態は理科や地理などの教科での実践や、総合的な学習の時間での展開などさまざまです。そのいずれも、取り組み事例の内容、児童の変化、参考資料が詳しく共有され、参考にしやすいように書かれています。
学校・組織 |
対象 |
教科 |
テーマ |
---|---|---|---|
富山県立富山北部高等学校 |
高校2年 |
総合的な探究の時間 |
流域治水 |
(公財)京都市環境保全活動推進協会 |
中学生 |
総合的な学習の時間 |
ごみ、エネルギー、水 |
(特活)気候ネットワーク |
京都市立小学校全校4年生~6年生 |
ライフスタイル |
|
鳴門市板東小学校 |
6年生 |
コウノトリ、田植え、雨水貯留、スリランカ |
|
自由の森学園中学校・高等学校 |
全学年 |
「森の時間」や高校選択授業、自主的な活動 |
脱炭素、自然エネルギー、森林環境、生態系、農林業、持続可能な地域づくり |
(公財)京都市環境保全活動推進協会 |
小5 |
校外学習 |
電気・水・ごみ |
きのくに子どもの村学園きのくに子どもの村小学校 |
1〜6年 |
ひみつ基地づくりから広がるゴミ問題と地域の歴史 |
|
佐倉市立間野台小学校 |
小5 |
理科 |
天気の変化 |
北海道胆振総合振興局 |
伊達開来高校3年生、1年生 |
学校設定科目など |
ゼロカーボンに関する探究学習 |
大阪府 |
高校1年生、2年生(大阪府立高津高等学校科学部の生徒4名/大阪府立四條畷高等学校探究ラボの生徒7名) |
課外活動 |
企業活動における環境配慮の取り組み |
青森市立堤小学校東北地方ESD活動支援センター |
小6(3クラス) |
総合的な学習の時間 |
ライフスタイル |
坂井市役所生活環境部環境推進課 |
小6 |
ライフスタイル |
|
延暦寺学園比叡山高等学校 |
2学年 |
風呂敷から考える持続可能な未来 |
|
愛知教育大学大鹿研究室 |
小学生高学年 |
ライフスタイル |
|
ストップ温暖化センターみやぎ |
小学校5~6年 |
「SDGs環境出前講話~環境・防災編(気候変動)」 |
|
秋田県大仙市立大曲南中学校 |
1年(後半)~2年 |
技術・家庭科家庭分野、総合的な学習の時間、修学旅行、夏休み、等 |
エネルギーと環境~社会との関わり~ |
大阪府堺市立日置荘小学校 |
6年生 |
総合的な学習の時間 |
廃棄物、衣服、海外 |
この取り組みは、気候変動教育を推進させるための最初の一歩に過ぎず、課題は山積みです。現場での授業展開は各教員の創意工夫で成り立っており、そのため現状の実践例にも正解があるわけではありません。「より幅広く学校で実施してもらうには、初歩的な導入カリキュラムが必要だ」とプロジェクトの責任者である全国地球温暖化防止活動推進センターの平田裕之事務局長は考えています。
この事例集は、日本の気候変動教育の推進に重要な示唆を与えるものです。今後、いくつかの事例から汎用的なモデルが提示され、幅広く学校現場で展開されていくために、さらなる研究、研鑽が期待されています。
*1:UNESCO (2024)
https://www.unesco.org/sites/default/files/medias/fichiers/2024/09/Greening%20curriculum%20guidance%20Teaching%20and%20learning%20for%20climate%20action.pdf
*2:全国 地球温暖化防止活動推進センター「気候変動教育」
https://www.jccca.org/climate-change-education
, 最終アクセス 2025年3月31日.