学び!とESD
学び!とESD
「学び!とESD」(Vol.50 & Vol.51)でも紹介した 「ユネスコ教育勧告」では、気候変動教育がESDの一環として位置づけられ、加盟国でさらなる推進が求められるに至りました。気候変動教育の最新情報については、これまでも重ねて説明してきましたが(*1)、本号ではユネスコが体系的かつ具体的にまとめた文書『カリキュラムのグリーン化ガイド』(*2)の概要を紹介します。
『カリキュラムのグリーン化ガイド』誕生の経緯
この文書は、2022年の「教育変革サミット(Transforming Education Summit)」で生まれた「Greening Education Partnership(以下、GEPと略記)」の4つの柱のうち、「カリキュラムのグリーン化」の成果物として2024年6月に発行されました(「学び!とESD」Vol.47参照)。GEPは、理科や地理の教科内で教えられることが一般的だった環境教育にESDの要素を取り入れ、知識だけでなく技能や価値観も包括的に学び、行動を起こすことのできる学習者の育成を目的としています。この新しい包括的な気候変動教育(Greening Education、以下GEと略記)は、2021年のPre-COP youth eventや2022年のユネスコ報告書『質の高い気候教育を求める若者たち』(「学び!とESD」Vol.36、Vol.37参照)などで若者から主張された、教育への要望に対する応答として捉えることもできます。
ガイドの概要と構成
GEの推進に向けて、GEPでは「世界各国の90%以上のナショナル・カリキュラムに、気候変動が含まれること」を目標として掲げました。その目的を達成するために、国、学校や教員等の教育実践者が現在行っている取り組みを、より活動重視で、包括的で、科学的に正しく、社会的正義を原動力とした、生涯を通した継続的なものにしていくために作成されたのが『カリキュラムのグリーン化ガイド』です。このガイドには長年にわたって培われてきたESDの貢献が随所に見られる内容となっています。章立ては以下のとおりです。
章立て |
内容 |
---|---|
《第1章》はじめに |
背景、目的、GEの主導原則 |
《第2章》GEのストラテジー |
●何を学ぶべきか
●どのように学ぶべきか
●どこで学ぶべきか
|
《第3章》重要概念・トピック・学習目標 |
●3つの領域―環境・社会・経済 |
《第4章》カリキュラムのグリーン化の実践 |
GEを実践するための10ステップ |
GEの3つの領域と6つの重要概念
まず重要概念として、環境的領域(気候・生態系と生物多様性)だけでなく、社会的領域(気候正義・レジリエンス)および経済的領域(脱炭素社会・持続可能なライフスタイル)を包括的に提示しているという点が挙げられます。また、知識だけでなく社会情動的な学びや行動を起こすことも目的に含まれており、知識伝達型の教育からの脱却が期待されていると言えるでしょう。
では具体的にどのようにカリキュラムに取り入れることができるのでしょうか。それについては第3章で、重要項目ごとのトピックと、学習者の年齢で分類された学習目標が表形式で説明されています。参照してみると、今の実践を未来志向へとシフトしていくヒントが見つかるかもしれません。
このガイドには、気候変動教育を伝統的な手法に絡め取られることなく、持続可能な未来へといざなう導き手となる知見が散見されます。次号ではそのいくつかを紹介します。
*1:次の16回にわたるシリーズをご参照ください。
Vol.14、Vol.19、Vol.20、Vol.21、Vol.22、Vol.23、Vol.24、Vol.25、Vol.26、Vol.27、Vol.36、Vol.37、Vol.38、Vol.46、Vol.47、Vol.48。
*2:『カリキュラムのグリーン化ガイド』(英文)
UNESCO. (2024).
https://www.unesco.org/en/articles/greening-curriculum-guidance-teaching-and-learning-climate-action