学び!とESD

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ESDと気候変動教育(その13) 若者によるホリスティックな眼差し
2023.02.15
学び!とESD <Vol.38>
ESDと気候変動教育(その13) 若者によるホリスティックな眼差し
永田 佳之(ながた・よしゆき)

 前号では、持続可能な未来の創り手である若者の学校の授業に対する声を紹介しました。今回も、引き続き、彼らの意見や見識に傾聴してみたいと思います。主にここで紹介するのは、前々号および前号で扱ったのと同じ報告書『質の高い気候教育を求める若者たち』(*1)に掲載されている世界の若者の声です。

アクションを起こしたい、でもどうしてよいか分からない…

 「ESDと気候変動教育(その10)」でお伝えした報告書『すべての学校を気候変動に備える:各国はいかに気候変動の課題を教育に統合しているか』によれば、気候変動や持続可能なライフスタイルに関する教員養成や教員研修を受けたという回答は半数強(55%)になりますが、教師の約4割は気候変動について知識を中心とした教授には自信があっても、どのように行動を取ったらよいのかについて十分に説明できる教師は5分の1ほどしかいません。このことを反映してか、冒頭の報告書を読むと、行動を起こしたいけれど、どのように起こせばよいのかが学校では教えられないので困っている各国の若者が少なくないことがうかがえます。
 『質の高い気候教育を求める若者たち』でチリの19歳の若者は学校で教えられることの「100パーセントを行動に、概念についてはもっと少なく!」とまで強く主張しています。おそらく若者の多くは気候危機が迫っているのに、なすべき(すべ)が分からないという焦燥感に駆られているのでしょう。
 カナダの15歳の若者も地元での気候アクションの大切さを次のように伝えています。

デモのような民主的なプロセスに参加することは行動を起こすためのいい方法です。生徒は地元でアクションを起こすことによってエンパワーされるんです。地域に貢献できる機会が与えられるべきですし、同時に、大人は生徒とチャンスを分かち合って、彼(女)らを「若い大人」として扱うことが大切で、そうすることによって問題の深刻さを理解する手助けとなります。教室の外での学びの機会を提供することは本当に重要で地元で生徒をエンパワーすることにつながるんです。

 もちろん、デモやストライキに参加することを学校で教えるべきか否かについては賛否両論あるでしょう。たしかに学校ではそうした行動に駆り立てるのではなく、むしろ行動のベースとなる知識を教えるべきであるという見解には一理あります。しかし、デモに参加することを通して若者は深い学びを経ることがあるのも事実です。グレタ・トゥーンベリさんに影響を受けて世界中の若者が気候危機への対応を各国の政府に迫った2019年11月の一斉デモ(日本では「気候マーチ」)に参加した日本の大学生は次のようにデモでの学びを振り返っています。

ものすごく怖かった。(中略)しかし、気候変動で人や動植物が苦しんでいるのに何も行動しないことへの違和感に気づいた時、いつの間にか無我夢中になって、のどが枯れるくらいに声を上げていた。自分の中の正しさに従うほど勇気のいることはないと思う。しかし、一人一人が自信を持って行動に移すことが、世界を変える大きな一歩になるということを学んだ。(*2)

 国内外を問わず、大半のデモ行進は非暴力的に行われており、ESDで期待されている深い次元での変容が多くの若者にもたらされる貴重な機会でもあると言えるでしょう。また「学び!とESD」Vol.25で紹介した日本の生徒と先生たちによる実践のように、多様なアプローチをもってデモでの体験を学びの表現として昇華させていくことも気候変動教育の重要課題となるでしょう。

ホリスティックな眼差し

 この報告書には、気候変動の本質を見抜いたような見解も表明されています。次に紹介するのは、オーストリアの23歳の若者の声です。

大切なのは、気候変動を何か別個のものとしてではなく、相互につながっているものとして見ることなんです。つまり、エコロジカルに見るだけでなく、社会とも経済ともつなげるんです。自分は家庭科の先生になりますが、最初の実習では気候変動と色々なトピックがいかに相互に関連しているのかを示すことで、このことを試してみます。そもそも社会は相互に関連したシステムですし、気候変動もそうなのですから、このことはとても重要なんです。

 とかく断片的に物事を捉えて社会を形づくってきた大人世代よりも若者たちの方が全体を包括的に捉える感性や視野をもっているのかもしれません。ナイジェリアの25歳の若者も次のように述べています。

ホリスティックなアプローチを用いることはとても重要です。例えば、次のような問いが挙げられます。気候変動はいかに政策に適応させられるか? 気候変動は科学にどのような影響をもたらすのか? 環境倫理を含めた倫理一般には影響を及ぼすのか? 農業のような地理的な場によってそれはどのように経済に影響を与えているか?

 若者にとって分野横断的な捉え方はむしろ自然な思考法であるのかもしれません。これは、「ESDの10年」の当初からESDの代表的な特徴として重視されてきたホリスティック(包括的)な捉え方であり、ESD for 2030ではシステム・ワイドなアプローチとしても強調されています。(*3)
 「学び!とESD」で繰り返し扱ってきた社会変容という課題にも若者の意識は向けられています。ブルネイの17歳の若者は次のように主張しています。

(前略)私が大切だと思うのは、新たな解決策や私たちが支持できる大きな構造的課題を強調することなんです。そうすれば、人々は気候変動とは何かという知識を得るだけでなく、気候変動と共にどのようにして私たちの未来へと前進していくのかを知るようになるでしょう。

 UNESCOはベルリン宣言を公示した時に、「大いなる変容(big transformation)」の重要性を強調しましたが、まさに若者の感性は自己変容を超えて社会全般の構造を変えていくこと、すなわち社会変容の重要性を捉えているようです。
 最後に地中海の小国の若者の卓見を紹介して、今号の結びとします。コロナ禍の現在、私たち1人ひとりに自然との関係性の問い直しが求められていることは確かでしょう。キプロスの17歳の若者は次の表現でこのことを伝えています。

私はあたかも自分たちが自然界のゲストであるかのように感じています。自然を尊重しなければならず、そうして初めて、自然の方もわたしたちを尊重してくれるのですから。

 ここで紹介した声は、もちろん国際調査のデータからユネスコが取捨選択した優れた若者の声なのかもしれません。しかし、今、私たち大人に求められているのは、こうした声が氷山の一角であり、水面下にある多くの声ならざる声に傾聴する姿勢と想像力であると言えましょう。

*1:報告書「質の高い気候教育を求める若者たち」(英文)
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000383615
*2:朝日新聞に掲載された「声」より。「勇気学んだ気候危機一斉デモ」(朝日新聞「声」欄 2019年12月2日朝刊)
*3:ESD for 2030についての詳細は次の論文を参照されたい。「‘ESD for 2030’ を読み解く:「持続可能な開発のための教育」の真髄とは」(日本ESD学会『ESD研究』Vol.3,5-17頁.
http://jsesd.xsrv.jp/wp-content/uploads/2020/08/esdkenkyu3.pdf