学び!とPBL

学び!とPBL

PBLを進めるための教師の資質①
2024.05.21
学び!とPBL <Vol.74>
PBLを進めるための教師の資質①
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

 これまで、17回にわたり、高校、小学校、中学校におけるPBLの実態について,実践を紹介しながら述べてきました。学習指導要領の改訂以来、それぞれの校種でPBLが定着してきていることを実感することができました。
 今回は、PBLを実践している教師の側に焦点を当てて展開していきたいと思います。教師の意図の深いところまで探りたいと考え、対談形式で進めます。応じてくれたのは、私のゼミ出身で、奇しくも私の出発点であるS中学校に勤務している中島史弥先生です。

1.大人も「本気で困っていた」プロジェクト

図1 生徒国際イノベーションスクール(左から2番目が中島先生) 図2 生徒国際イノベーションスクール(中央が中島先生) 三浦:中島先生は、現在福島県の僻地の中学校でPBLの実践を進めており、マスコミにも取り上げられました。まず、学生時代にどのような経験をして、今に繋がっているのかお話ししてもらえますか。
中島:私が学生時代に三浦先生と活動をするようになったタイミングは、OECD東北スクール(本連載Vol.05〜10参照)の直後で、地方創生イノベーションスクール(本連載Vol.15〜30参照)のスタッフの募集があって、仲間たちと応募したことがきっかけです。代々木のオリンピックセンターで開催された生徒国際イノベーションフォーラム(本連載Vol.28〜30参照)のサポートで、生徒ももちろん、「解のない問い」を前にして、先生ら大人も「本気で困っていたこと」がとても印象に残っています。教師になって上手に教えられるようになることしか考えていなかったので、これまで見たことのない学びの世界があることにとても衝撃を受けました。その後、福島市の高校生フェスティバル(本連載Vol.38〜44参照)で高校生のサポートチームをつくって、取り組みました。本番直前は大学の教育実習と重なっていたのですが、プロジェクト学習は教師になっても学校で必要なことだと思い、使命感を持って取り組みました。
図3 高校生プロジェクトの支援(中央が中島先生) 三浦:中島先生は社会科の教師を目指していました。学生時代から学習支援サークルをつくってチームで支援を行っていましたが、自分だけ教員資質を身につけるという発想はなかったのですか?
中島:もともと仲間の輪を広げたかったので、「自分だけ」という発想はありませんでした。地方創生イノベーションスクールでも、大人や高校生、同世代の間で輪が広がりました。

2.始めはフェードアウトしてしまった探究活動

三浦:現在、S中学校で探究活動を行い、マスコミにも取り上げられていますが、始めからスムーズにいったのですか?
中島:学生時代や前任校のこともあり、PBLについては「やるぞ!」というエネルギーはあったし、自分の使命だと思って取り組みました。けれども始めはうまくいかず、最初の年は3、4ヶ月でプロジェクトはフェードアウトしてしまいました。問題の多い学年だったということもあります。
三浦:どうしても教科指導と探究活動が対立的に捉えられてしまう傾向がありますが、そのあたりはどうなのですか?
図4 高校生プロジェクトの発表(右が中島先生) 中島:そこは大きな問題です。「学力」重視の高校入試の枠組みがありますから、どうしても学力をつけてやらなくてはなりません。生徒たちも、活動的なことや問題解決学習ばかりではついてきてくれません。問題の「解答」ばかり求めてくる傾向があります。親御さんたちも市内の進学校に進めたいと思っているので、ここの学区でも生徒の学力をとても気にしており、それがプレッシャーになっていると言えます。
三浦:地域との関係はどうなのですか?私の昔の教え子の息子が中島先生の担任クラスにいるようですが。
中島:プロジェクト自体が地域に関わるものなので、ここに赴任して今年で4年目になりますが、年々関係も太くなり、協力してもらえるようになっています。生徒の活動で保護者が来るまで送迎したり、地域の区長さんや物産館なども協力してくれたりしています。
三浦:山間部の地域で最初に溶け込むのは少しハードルが高いですが、一度受け入れられると「おらほの(自分たちの)先生」と言われ、実践を進める上でなくてはならないパートナーになります。私の時代は校内暴力でたいへんな時代でしたが、毎日学級通信を書いて、保護者たちとの関係をつくろうとしました。半年もすると、学級通信を読んだ親が「先生、困っているんなら一緒に飲んで話そう」と、誘われるようになりました。ここから親たちが学級行事を支えてくれるようになり、それが学年へ、学校全体へと広がっていったのです。

3.生徒が自分の学校を自分たちでつくれるよう

三浦:PBLを進める上で、学校内での協力関係はどうですか?
中島:同学年の先生3人でやっていました。一緒に進めていくうちに、PBLの面白さ、教育上の意義を感じてくれるようになりました。PBLを進めるためには生徒たちをどういう方向に育てないのかビジョンを共有する必要があり、それを議論しているうちに同僚性も高まりました。4年目となるので、学校としても質が充実してきたと思いますし、実践を進めるのはたいへんなのですが、それをあまり苦にする先生はいません。全体としてはうまくいっていると思います。ただ、一人ひとりの先生がそれぞれに動くかと言えばそうでもなく、「やろう」という先生がいないと、あまり動かない現状はあります。
三浦:生徒たちはどうですか?
中島:今年2年生担任していますが、学級目標は「革命」です。自分たちで学級旗をつくったり、1年間の動きを年表にまとめたりしようとしています。課題の多い学年なので、なんとかまとめ上げたいと思っています。
三浦:なんだか私が昔やった実践のように錯覚してしまいます。最近学級づくりでがんばる先生が少なくなっているように感じられますが、中島先生はそうではないのですね。
中島:私は、生徒たちに、自分たちの力で学級を楽しくできるように集団を育てたいと思っています。誰が担任になっても、自分たちで盛り上げ方を知っている、そのような学級づくりをしたいと思っています。この前の陸上競技大会にしろ、取り組みではひと味違ったことをやりたいと思います。
三浦:具体的にどんなことをやっているのですか?
中島:全校的に1日1ページの自主学習ノートの提出をやっているのですが、それをコンテストの形でやっています。他のクラスは4割とか5割、多くでも8割程度なのですが、うちのクラスは100%を目指そうと取り組み、生徒たちが本気になった結果達成できました。達成できたからどうということはないのですが、そういう「ノリ」が大切だと思います。他にも、文化祭の合唱や有志の発表、球技大会、生徒総会など、いろいろなところで少しずつ変えています。
三浦:生徒たちにとって実践というのは、一度始めると終わりのないものなのでしんどいんですよね。「始まりがあって終わりがあるもの」にすることで、生徒が意識化しやすくなるということがあります。実践を通して力をつけるというよりも、「やろうと思えばできる」自信をつけさせることが大切だと思います。
図5 高校生プロジェクトの支援(左が中島先生) 中島:生徒たちが自分たちの学校を自分たちでつくることが大切だと思いますし、本来、それが当たり前なんだと思います。私が教えている社会科の公民的分野では決まりや合意のつくり方、それらの改善の方法などが教科書に書いてあり、この辺りはとても大切なのですが、軽く飛ばされてしまうことが多いのが現状です。
三浦:後半は、それらを踏まえて探究活動の話を深掘りしていきたいと思います。